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NO.2















たまにふと思うことがある。



『嫌なことがあったら、その分良いことがある』


詳しくは分からないが、このようなことを最初に言ったのはどこの誰なのか、と。


人間、ひいてはこの世界のあらゆる存在は等しく平等だとでも言いたかったのか。


違う思いもあったのかもしれないが、少なくとも大多数の人間はそう捉えるだろう。


もしそう捉えたとする。


ならば、生まれたときから何ら不自由なく生存することができ、欲しいものは全て手に入れられる『恵まれた環境』の人間と、生まれたときから一日を過ごす糧を手に入れるのがやっとで、常に飢えや感染病に怯えて毎日を過ごさなくてはならないような『恵まれなかった環境』の人間は平等だと言えるだろうか。


ほとんどの人間はこう思う。



『そんな訳がない』と。



だが、冷静に考えてみると最も考慮すべき大切なことを無視しているように俺は思う。


それは、『その人の意志』だ。


幸せそうだとか、可哀想だとかはあくまで部外者の客観的見解に過ぎない。


恵まれた、恵まれなかったというのはその境遇に立たされている当事者が思うことであって、誰もが不幸だと思うような人生でも本人は満足だったのかもしれない。


その人が、一般で言う『恵まれた環境』というものを知らなかっただけなのかもしれないが、知っていたとしてもその『恵まれた環境』を不幸だと思ったかもしれない。



・・・結局何が言いたいかというと、嫌なことや良いことはそれを受ける人間の見方、捉え方によって変わる、もっと極端に言えば逆転することだってある、ということだ。



だから俺ならあえてこう思う。



『分からない』と。




***




校門を見つめながら歩く。


雪が微かに降っているため、刻まれている字は良く見えなかったが、仰ぐ程近くまで行くとしっかりと見えた。


空はところどころ青空が見えていて、太陽の光も差し込んでいる。


『能力者育成専門学校 高等部』と何のひねりもない校名が書かれた馬鹿でかい石碑の横を通り過ぎたとき、急に誰かが首に腕をかけてきた。



「おーす」



俺にこんな気安く話しかけてくるのはあまりいない。


学校ではいつも一緒にいて、親友といってもいい存在である、黒野俊也だった。



「んー、はよ」



「相変わらず朝に弱いみたいだな、一夜は」



「そういうお前は珍しく朝から登校してるんだな、俊也」



この身長180㎝で背は高め、着痩せするということで評判の茶髪ピアス筋肉バカはしょっちゅう遅刻してくる。


その上、昼休みが始まる頃にようやく登校してくるような、いわゆる・・・不良(?)だ。


一応モテる。蛇足だけど。



「そーそ。だから久しぶりに一夜朝バージョンを見たわけなんだけど、テンション低いなぁ」



「これは素だよ。んで? 今日なんかあんの?」



俊也が早く学校に来るときは、大抵何かがある。


学校を休んで遊んでいることも多いというのもあって、その手の情報は自然と入ってくるらしい。


いや実際には遊んでばかりいるわけでもなさそうだが。


情報については特に、超能力に関することには目がない。



「昨日な、帰ってきたらしいんだよ」



「・・・何が」



「うちのNO.2がだよ。白山空ちゃん! もちろん名前は知ってるだろ?」



「そりゃ知ってるよ」



確か、『SPT』(特殊超能力部隊)にスカウトされた天才のはずだ。


全国の超能力者が集まるこの学校には、『SPT』に所属している天才が100人ほどいる。


なぜかこの国は強力な能力者が誕生しやすく、世界的にみても、LEVEL5クラスの能力者の数は飛びぬけて多い。


『SPT』構成メンバーの半数を自校の生徒で占めているんだから、この学校の戦力は凄まじいと言える。


そして白山空はこの学校の中でもNO.2の実力を持つとされている天才少女だ。


確か『SPT』としても高い能力だと評判で、能力の高い順に1~50番隊に所属する、というシステムとなっている中、2番隊に所属している・・・はず。


この部隊に所属していれば、当然任務がある。


そして『任務があるから』という大義名分さえあればいくらでも学校は休める。


白山空も、昨日任務から帰ってきたらしい。



「反応薄いって! 超美少女じゃん?」



「そうだったっけ。で、帰ってきたからなんなんだ」



「だーかーら、昨日帰ってきたってことは今日学校に来るかもしれないってことだろ?」



「おー、それでわざわざお前はその白山さんを拝む為に朝早くに起きてまで学校に来た、って訳ね」



俺は遅刻ギリギリに来てるわけじゃなく、今は真面目な生徒が登校している姿がちらほら見えるだけって程のかなり早い時間だ。


普段は昼まで寝てるような奴が、こんな早起きしてまで一人の人間に会いに来たことに心底呆れる。


いくら美少女だからって、同じ学校に通っているんだからいつでも見られるだろうに。


なんというか、馬鹿な奴。



「当たり前! 最初の朝の挨拶は俺がするって決めてんだよ!!」



「なんかアイドルみたいだな。まぁ間違っちゃいないか。じゃいつまででもそこで待ってれば? 俺は先に行くからな」



「ちょ、一緒に待とうって! まだ遅刻にもならないだろ?」



「予習があるんだよ」



と俊也に背を向けて玄関へと歩きだした。




途端。




「・・・っ!!!?」




世界が凍りついた。



比喩でもなんでもなく本当に、周囲の温度が5度は下がった。


全てが凍てつく空気の中、まるで北極にでも投げ出されたかのような幻覚を覚える。


だがそれもほんの一瞬、すぐに日常世界へと引き戻された。


見渡してみると登校していた生徒全員が振り向いていて、ある方向を凝視している。


そして口々に、



『び、びっくりしたぁ・・・』『帰ってきたのか・・・』『かっこいい・・・白山様・・・』



などと呟いている。


そう。


帰ってきた。


黒いベンツから、一人の少女が優雅に降りてくる。


この『能力者育成専門学校』でトップクラスの実力を誇る、最強の氷姫が。



「白山空・・・」



一人呟いて、俊也の方を見てみた。


まだたいして離れてもいなかったため、とりあえず話しかけてみる。



「ほら、話しかけてきたら?」



「・・・ああ」



そう言うものの、なかなか動き出そうとしない。


おそらく白山空の圧倒的な存在感にあてられたんだろう、完全に硬直している。


二人でぼーっと突っ立っていると、なぜか白山空がこっちに向かって歩いてきた。


それでも俺はただ無表情で相手を見つめる。


白山空も、俺を見ていた。


そしてとうとう目の前まで来ると、俺に話しかけてきた。



「知ってるかもしれないけれど、私の名前は白山空、というの。『SPT』2番隊に所属しているわ。あなたの名前を教えてくれる?」



「え、俺? 何で?」



相手が礼儀正しく名前を尋ねてきたにも関わらず、適当に答えた。


だが特に怒った様子もない。


むしろ自分自身、俺に声をかけたことに今更ながら驚いているようだ。



「え・・・と。なんででしょう?」



「いや、こっちが聞いているんですが」



「さぁ。たくさんいるこの生徒の中で、なぜあなたに声をかけたのか・・・かけようと思ったのか、私もよく分からないもの。しいていうなら、そうしなければならないような気がした、とでも言えばいいのでしょうか」



本当に分かっていないのか、少し首を傾げながらそんなことを言う。



「まさかNO.2とまで呼ばれるお方に俺は褒められてんのかな?」



「それも分からないわ。それで、名前を教えていただけますか?」



随分落ち着いた物腰だと思う。


色んな任務をこなしていれば誰も彼もこんな風になるのだろうか。


とりあえずこっちも名乗らなくては始まらない。



「それは光栄ですね。俺は・・・」



「おっはよーございます、白山さんっ!!」



・・・なんだこいつ。


人がせっかく名乗ろうとした矢先に割り込んできやがって。


そんなに放置プレイが気に入らなかったのか? と俺がちょっとムカついていることに気付いてないのか、または気付いていながらシカトしているのか、まったくおかまいなしに続ける。



「俺は黒野俊也っていいます! 以後お見知りおきを!」



「え、ええ・・・よろしく・・・?」



俊也は白山空の手を強引に握り、握手のつもりなのかぐわんぐわん振り回している。


これってセクハラにはならないのかなぁ。


そしていつの間にか質問攻めにしていた。


『SPT』についてやら任務は危なくないのかやら、身長、靴のサイズ、果てはスリーサイズにまで及んでいたため、この場から強制退場してもらうことにした。



「ちょ、お前少し黙れ」



「げぶ」



要するに、気絶させた。


それはもう、まるでギャグマンガのように。


やっと静かになったところで俺の話を再開する。


少し困り気味な白山空に「気にするな」と言って、続きを話すことにした。



「え~っと、ちょっと邪魔が入っちゃったけど・・・改めて。(ヒイラギ)一夜(イチヤ)っていいますぺこり」



頭を下げつつ俺が名乗ると、白山空はそこら辺の男なら一瞬で落とせそうな可愛らしい笑顔を浮かべて答えてくれた。



「一夜さん、ですね。私のことは空、と呼んでください」



「ん、ああ」



だがこの程度で俺は落ちない。


というかぶっちゃけ、こういういかにもお嬢様って感じの女の子はあまりタイプではない。



「ではこれで。えーっと、黒野俊也さんにもよろしく言っといてください。・・・というか、大丈夫、ですよね?」



「全く問題ないよ」



俺がそう言うと、「そうですか・・・?」と困惑しつつも一度軽く頭を下げ、玄関へ歩いていった。


完全に見えなくなってから、俊也をどうしようかと振り向くと、



「・・・ったく、お前結構本気で殴ったろ、いててて・・・」



「うお!? 起きてたの!?」



ギャグマンガ的必殺(読んで字のごとく)パンチで意識を奪ったはずの俊也が立っていた。



「はっ! くさっても不良のはしくれ、お前みたいなもやしっこにちょっとどつかれたくらいで気絶なんかするかっての! ・・・まぁ今もちょっとフラフラしてるけど・・・」



「ちっ」



「舌打ち!? なんだよちくしょう、お前だけ白山さんと仲良くなりやがって!」



そう言ってどこかへ走り去って・・・行ったと思ったらすぐに戻ってきた。フラフラしながら。


そんなにフラつくならさっさと学校行けばいいのに・・・。



「ってかそんなのはどうでもいいんだっつの! いや良くないけど!」



「どっちだよ」



騒がしいやつだ。


そんなんだから白山空にも嫌われるんだっつの。


いずれ。



「白山さんだけどさ、なんか妙だったよな?」



「? 何かおかしかったってことか?」



「いやおかしいというか、よく分からんけど違和感がなかったか? 車から降りてそのまま真っ直ぐ一夜の方に歩いていったと思ったらいきなり自己紹介始めたろ? 別にお前のことを知っていたわけでもないのに」



「知らないから自己紹介をするんだろーが」



でもまあ確かに妙ではある。


知らない奴に自己紹介するなら、何か偶然話す機会があっただとか、あの子可愛いからお近づきになろうだとか、なんであれ理由が伴う。


だが白山空には、俺と会話する理由なんてなかったはずだ。


それに本人もよくわからないといっていた。



「そうだけどさ・・・」



「んま、別にどうでもいいじゃん? 誰かに害があるわけでもないし、もしかしたら俺に一目惚れしたのかもよ?」



「んー・・・」



まだ俊也は腑に落ちない様子だったが、分からないものはこれ以上考えても仕方がない。


それにしても俺の冗談をスルーするとは、なかなかいい度胸してるな。あとでしばく。



「とりあえず学校入るぞ。いつまでもここで話してるわけにもいかないだろ。校門前だっつのこのバカ」



「あ、ああ。悪い」



そして後ろから付いてくる。


もう考えることはやめたらしく、いつも通りのハイテンションに戻り一人で喋り続けていた。


だが急に黙ったかと思うと、突然真顔になり、



「でもな。白山さんの気持ち、分からないでもないんだよ。かつて俺がお前を初めて見たときみたいで、共感できるからこそ、さ。不思議なんだ」



「は?」



「んじゃ俺は白山さんの情報収集してくるわー」



と言うとさっさと学校の中へ行ってしまった。


なにか変なことを言ってたな。


共感できる、とかなんとか・・・。


まあその感覚は俺には分からないし、深くはつっこんで欲しくないから何も言わないんだろう。


勝手に人の気持ちを推し量ったりするのは嫌いだし、考えるのはやめた。



「・・・ふあ・・・今日も眠いなー」



そういえば。


昨日会ったあの生意気(俺に面倒を押し付けるくらいだし、予想だが)な女の子はもう学校に来てるんだろうか。


この学校の制服を着てたし、優等生ならもう来ててもおかしくはない。


まああれだけ気の強い女の子なら、やっぱり遅刻ギリギリー! って感じなのかもしれないし、昼休みにでもさがしてみるか・・・。



「あ、やっぱり。アンタは昨日の」



「んぉあ!?」



どこからさがそうかと考えていたら、いつのまにか昨日能力者に襲われていた気の強そうな顔をした少女が、隣に立って俺の顔を覗き込んでいた。































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