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『お前は追放だ』と言われた理由が『飯が美味すぎて仲間が全員マシュマロボディになって、戦えなくなったから』だった件 〜魔王軍も炊き出しで丸いフォルムにしようと思います〜

作者: 紫のカラス
掲載日:2026/07/22

「トール。 すまないが、お前は追放だ」


旅の終着点である魔王城のすぐ手前、最後の街の宿屋の一室。

勇者レオンは、重々しい口調で俺にそう告げた。

俺は、この勇者パーティの『料理番』兼『荷物持ち』として旅に同行してきた。

戦闘能力は皆無だが、時間停止機能付きの特級『マジックバッグ』を私物として持っていたからだ。

食材や調理器具、その他、生きもの以外はなんでも収納できて、城一つ分くらいは容量がある、便利な代物だ。

それが突然の追放宣告。

しかし、俺の心にショックはなかった。

なぜなら目の前の光景が、あまりにもあんまりだったからだ。


「…あの、レオン様。 一応、理由を聞いても?」


「理由は…これだ」


レオンが、自分の腹をポン、と叩いた。

いや、叩いたのではない。

埋もれたのだ。

彼の肉厚な脂肪の海に、手のひらが。

かつて『光の美男子』と称えられ、引き締まったシックスパックを誇っていた勇者レオンの姿はそこになかった。

そこにいたのは、鎖帷子(くさりかたびら)からボンレスハムのように肉をはみ出させた、見事なもちもちの塊だった。


「お前、気づいていただろう。 我々の、この、取り返しのつかない変化にっ!」


レオンが悔しそうに顔を歪める。

そのアゴは綺麗に二重になっていた。


「いや、気づいてはいましたけど」


「お前の作る飯が! 美味すぎたんだ!!」


レオンが机を叩く。

脂の乗った二の腕が、プリンよりもプルプルと揺れた。


「最初は良かった! 旅の疲れが癒やされる、最高の家庭料理だった! だが、お前は旅の後半から徐々にエスカレートしていっただろう! 魔物の肉をラードで揚げた『オークカツ』! 濃厚なチーズをこれでもかと乗せた『ドラゴンカツカレー』! 深夜に見張りをしている俺の前に、お前は毎日のように差し出してきたッ! 『夜食限定の背脂醤油ラーメン(チャーシュー大盛り)』を!!」


「だって、レオン様が『美味い、美味い』って汁まで飲み干すから…」


「抗えるわけがないだろう、あんな悪魔の食べ物に! 気がつけばこの有り様だ!」


レオンがゼェゼェと息を切らす。

体重が増えすぎて、怒るだけでも酸素が足りないらしい。

部屋の奥を見ると、他の仲間たちも悲惨な状態だった。


「うぅ…お腹が重くて、もう治癒の祈りが捧げられないわ…」


そう言ってベッドで横たわっているのは、聖女マリアだ。

かつては『清楚可憐の象徴』と呼ばれた美少女だったが、今は見る影もない。

顔がアンパンのように丸くなり、聖衣はボタンが無視され、腹部がお供え物の大福みたいになっていた。


「トール…お前のせいよっ。 昨日なんて、呪文を唱えようとしたら息が苦しくて、詠唱が途中で途切れたんだからっ!」


そう愚痴をこぼすのは、魔術師のルナだ。

ローブがパッツパツで、まるで中身を限界まで詰め込んだゴミの袋のようである。

杖を振るたびに、お腹の肉が物理的な衝撃波を生み出していた。


「みんな…すまない。 俺が料理の腕を上げすぎたせいで…」


「わかってくれればいい。 もうこれ以上、お前の飯を食べたら、我々は魔王に会う前に生活習慣病で全滅する。 だから、お前をここで追放にする。 これは我々の命を守るための、苦渋の決断なのだ」


レオンはそう言って、俺に手切れ金としての金貨の袋を握らせた。


「マジックバッグの中身は好きに持っていけ。 元々お前の私物だからな」


手切れ金を渡すレオンの手首にも、しっかりとお肉の輪ができている。

こうして俺は、勇者パーティを追放されたのだった。


◇


勇者パーティと別れ、俺は一人、宿屋のロビーで途方に暮れていた。

これからどうしようか。

実家に帰って定食屋でも開こうか。

そんなことを考えていると、突然、街の警戒鐘が激しく鳴り響いた。


『大変だ! 魔王軍の先遣隊が、この街に攻めてきたぞーっ!!』


窓の外を見ると、街の城門で、激しい戦闘が始まっていた。

おどろおどろしい武器を手にした魔族の兵士たちが街に押し入ろうとするのを、門兵たちは鉄格子の門を閉ざして必死に押し返している。


「ひえっ! こんな時に!?」


俺は慌てて宿の厨房へ逃げ込んだ。

戦えない俺が外に出たら一瞬でバラバラにされてしまう。

しかし、上階にいる勇者たちはどうするんだ?

ドタドタドタドタ!!

階段から、地響きのような音が聞こえてきた。

見ると、勇者レオンたちが息を切らせて降りてくるところだった。


「ハァ…ハァ! 魔王軍め、よりによって、我々が、一番動けない、このタイミングで!」


「レオン! 十字架がお肉に食い込んで手にできないわ!」


「マリア、落ち着きなさい! 私なんて、杖が重くて持ち上がらな…アガガガ、腰がいったわ!」


だめだ、使い物になっていない。

勇者レオンにいたっては、玄関を出ようとした瞬間に、お腹の肉がドア枠に引っかかって、ジタバタしている。


「ぬ、抜けん! 誰か引っ張ってくれ!」


このままでは街が滅びる。

勇者たちも全員、魔王軍の餌食だ。

(…いや、待てよ?)

俺はマジックバッグにある大量の食材を思い浮かべた。

旅の途中で仕入れた食材たち。

そして俺には、勇者たちを数ヶ月で動けないモチに変えた、調理技術がある。


「やるしかない!」


俺は腕まくりをすると、腰のマジックバッグに手を突っ込んだ。

中にあるのは時間停止空間でベストな鮮度を保ったままの大量のハイカロリー食材。

そして旅の道中で必須の調理空間(マイ屋台)だ。

これから始まるのは、胃袋の限界に挑む『炊き出し』だ。


◇


街の中央広場。

そこはすでに魔王軍の四天王、剛力将軍ゴルゴスに占拠されかけていた。


「グワハハハ! 命が惜しくば降伏しろ! 今日、この街は我ら魔王軍の――」


いかつい号令をかけるゴルゴスに向けて、俺はマイ屋台(魔導コンロ付き)を引っ張りながら歩み出た。

それと同時に、仕込んできた料理の出汁と脂の香りを、風に乗せて広場中へ拡散する。

~~ふわり。


「…ぬぅ? なんだ、この匂いは」


ゴルゴスがピクンと鼻を動かした。

よし、食いついたぞ。


「た、隊長! 前方から、人間の男が何かを引きずって歩いてきます!」


俺は魔王軍の目の前でぴたりと足を止め、満面の笑みで声を張り上げた。


「いらっしゃいませーっ!! 魔王軍の皆さん、遠路はるばる遠征お疲れ様です! 腹が減っては戦はできぬと言いますし、まずは温かいものでも食べていってください!」


魔王軍の兵士たちがざわつく。


「おい、罠か? 罠なのか?」


「しかし、めちゃくちゃ美味そうな匂いだぞ…ゴクリ」


ゴルゴスは警戒しつつも、匂いの誘惑に勝てず、じりじりと屋台に近づいてきた。


「人間よ、我らを愚弄するか! 我ら魔王軍が、人間の作った餌など――」


「お待ちどおさま! 『オーク肉の爆弾メンチカツ・とろ〜り濃厚チーズソースがけ』です!」


ドンッ!!

俺が差し出したのは、皿からはみ出るほど巨大なメンチカツだった。

サクサクの衣にフォークを入れると、肉汁が噴水のように溢れ出し、中から黄金色のチェダーチーズがこれでもかと流れ出てくる。


「な、なんだこれはっ! 肉汁の輝きが、我々の闘気よりも眩しいだと!?」


ゴルゴスは唾を飲み込んだ。


「毒見だ!」


と言い訳をしながら、我慢できずにメンチカツを丸ごと一口でパクリと口に入れた。

その瞬間、ゴルゴスの巨体がビクンと震えた。


「――っ!!! う、美味すぎるッ!! なんだこの衣の軽快な食感は! そして口の中に広がる暴力的なまでの脂の旨味! 濃厚なチーズが肉の旨味を何倍にも引き立てている! おかわりだ! おかわりを寄こせ!」


「はい、次は『ドラゴンカルビのメガ盛りマヨネーズ丼』です!」


「ぐはぁっ! 米と肉とマヨネーズ! 悪魔のトリニティぃぃぃ!!」


四天王の一角が陥落した。

それを見た魔王軍の兵士たちも、もはや我慢の限界だった。


「俺にもくれ!」


「こっちにもだ!」


「美味い、美味すぎるぞ人間!」


地獄の軍勢だったはずの魔王軍が、『行列のできる飲食店の客』と化した。

俺は無心でフライヤーを回し、肉を焼き、白米を盛り続けた。


「どんどん食べてくださいね! おかわりはタダですよ!」


マヨネーズをドバドバとかけ、バターを塊のまま投入する。

高カロリーの波が、魔王軍を襲う。


◇


数時間後。

広場には、信じられない光景が広がっていた。


「うぅ…もう食えん、お腹がいっぱいだぁ」


「ダメだ、横になると、胃からカルビが逆流してくる…」


さっきまで凶悪なオーラを放っていた魔族の兵士たちが、全員、地面にゴロゴロと転がっていた。

そのお腹は一様にぽっこりと膨らみ、スイカでも入っているかのようだ。

隊長のゴルゴスにいたっては、あまりの満腹感と幸福感に包まれ、


「ふぇぇ…もう戦いたくないよぅ。 この街に永住して、毎日あのメンチカツ食べるぅ」


と、幼児退行して涙を流していた。

そこへ、ようやくドア枠からお腹が抜けた勇者レオンたちが、武器を構えて(よろよろと)駆けつけてきた。


「待たせたな魔王軍! 覚悟しろ――って、えええええ!?」


レオンが驚愕の声を上げる。

目の前にあるのは、戦意を喪失し、ただのクッションの山と化した魔王軍の姿だった。


「トール…お前、一体何をしたんだ…?」


「いや、ちょっと炊き出しをしたら、みんな動けなくなっちゃって」


俺がおたまを片手に笑顔で答えると、聖女マリアと魔術師ルナがブルブルと震え出した。


「恐ろしい男だわ…。 剣も魔法も使わずに、カロリーだけで魔王軍の精鋭を無力化するなんて」


「この男こそ、真の『破壊神』よ」


その後、動けなくなった魔王軍の先遣隊は、街の自警団によってあっさりと捕縛(というか、重すぎて動かせないのでその場に放置・監視)された。

この事件はすぐに魔王城の本隊にも伝わった。

四天王ゴルゴスが『飯の美味さに負けて降伏した』と聞いた魔王は激怒し、自ら大軍を率いて出陣してきた――のだが…。

街の門の前で、俺が全力で準備した『二郎系超にんにく背脂マシマシラーメン』の匂いを嗅いだ瞬間、魔王軍の全兵士が武器を捨てて行列に並んだ。


◇


現在、魔王軍は休戦状態にある。

というか、魔王様(元・スリムな魔界の支配者)が俺のラーメンにドハマりしてしまい、今やすっかり丸いフォルムで、玉座が小さくなったこともあり、座れなく(仕事の時間が短く)なってしまったのだ。


「トールよ…今日の限定メニューはなんだ? 頼むから、あの『からあげマウンテン定食』をもう一度食わせてくれ。 世界なんてどうでもいいから…」


そう言って、贅肉を揺らしながら懇願する魔王様のために、俺は今日も元気に包丁を握っている。

勇者パーティを追放になった俺だけど、魔界への再就職が決まりました。


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