表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月姫の涙とアンドロイド  作者: ゆの
第一部:空より落ちて、月に触れるまで
3/24

第3章:狼姫と銀の来訪者





森の奥に、静寂の穴が空いていた。





そこだけ、空気がひどく静かだった。

焼けた葉がくしゃりと崩れ、焦げた地面に淡い光が揺れている。

まるで、空がそこに触れた痕のようだった。


「……ここね」


ルナはヴェルナの背から、ひらりと降り立つ。

焼けた土のにおい、鉄のような風――それらを感じながら、地面に残された細い足跡を見つける。


「“何か”が、歩いていった……」


その瞬間、心が跳ねた。

胸の奥が熱くなる。


美少女が空から落ちてきた――

そう信じたくなるほど、ルナの本能が告げていた。


そして、


**ざく――。**


枯れ枝を踏む音が、森の静寂を破った。


振り向いた先、光の差す木立の奥。

そこに立っていたのは――


銀の少女。


液体金属のような髪。

滑らかな肌。

身体にぴたりと沿う白銀の衣装は、布とも革とも違う、未知の素材。


そして瞳――

青白く輝くその目は、まるで心を持たないような、静かな冷たさを湛えていた。


思わずつぶやいたルナの口元に、感嘆の色が浮かぶ。



「……かわいい……」



一歩踏み出したルナに、少女の指がわずかに動いた。


**カチ。**


何かが起動するような音。耳がぴくりと反応する。


「生体反応、接近。対象確認。外見特性:獣人型。観察適性……高」


「……は?」


少女は無表情のまま、淡々と告げた。


「観察対象、確認。あなたです」


「え、わたし!?」


ルナは一歩引いた。狼耳がぴくぴくと揺れる。


「あなた、誰なの? どこから来たの?」


「識別名:レイア。観察ユニット・L-07R。任務により地上へ降下」


「……それ、どこの国の……?」


「誤認の可能性:高。所属不明。回答不能」


ルナは目を細める。柔らかな笑みの奥で、目が獣のように光っていた。


「……ねえ、あなた。人間?」


「いいえ」


即答だった。

その答えに、ルナの緊張がわずかにほぐれる。


「なら、いいわ。人間だったら、ちょっと困るの。うち、昔けっこう土地を削られてね。母上が“人間は侵略者”ってよく言ってたから」


その言葉に、レイアの目が一瞬だけ、揺れた。


「じゃあ、あなたは……精霊? 神の使い? それとも……ゴーレム?」


「定義不能」


「答えになってないけど……まあ、いっか」


ルナはくすっと笑った。

この子は何もわかってない。でも、それがなんだか愛おしかった。


「いい? 私の名はルナ・ルクレティア。月の姫にして、この森の主よ!」

「確認。王族属性。観察対象、確定」


「ねえ、その“観察対象”って、要するに私を監視するってこと?」

「その通りです。あなたの行動・思考・感情を継続的に記録します」



「……ストーカーってことでいいのかしら?」

「“ストーカー”:未登録語彙。分析中……対象への過剰な執着?――該当しません」


「ふふ、ちょっと惜しいわね」


ルナは笑う。もう警戒心なんてどこかに行っていた。


「じゃあ、うちの城に来なさい! 観察でもなんでもしていいから!」


「了解。任務継続に適した環境と判断」



ルナは満足げに指笛を吹く。

ヴェルナが現れ、翼を揺らして降り立った。


だがレイアは、その飛獣を見ても恐れず、ただ静かに観察するだけだった。


こうして――


狼の姫と、銀の来訪者は出会った。


それは偶然のようで、きっと必然だった。

まだ物語が始まったばかりだと、ふたりは知らなかったけれど。


空は、今度は何も言わなかった。

ただ、風だけが、ふたりの髪をやさしく揺らしていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ