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月姫の涙とアンドロイド  作者: ゆの
第一部:空より落ちて、月に触れるまで
11/24

第11章:王宮に忍び寄る影



夜の王城は、日中の賑わいが嘘のように静まり返っていた。

衛兵たちは交代で見回りを行い、灯りは最小限。

風がカーテンを揺らすたび、どこか遠くの塔で風見鶏がかすかに鳴く。

蝋燭の火が細く揺れ、壁の影が静かに伸び縮みしていた。



ルナの私室は変わらず穏やかだった。



少女の寝息は安定していて、柔らかい毛布の下で耳と尾がふわふわと静かに揺れている。


隣のレイアは、深層待機モード。

しかし、その感覚器は完全には眠らない。


──異常、感知。


彼女の瞳が音もなく開いた。


視線は天井に向けられ、次の瞬間には壁の向こうへと向けられていた。


(推定、侵入者:魔力反応、微弱。質量感知──獣人種、ひとり)


レイアは、ルナを起こすことなく静かに布団から抜け出した。

音を立てず、まるで風のように扉を開け、廊下へと滑り出る。


深夜の王城内は、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。


だが、彼女のセンサーには“意図的な気配の消失”という、曖昧な異変がはっきりと捉えられている。


その気配は、王家の保管庫――封印魔法が施された区域へと向かっていく。


一方その頃、ルナは夢の中。


「……レイア……?」


寝言のように呟いて、指先をほんの少し動かす。


しかし、隣にいるはずの気配はもう、そこにはなかった。



--



レイアは城の奥へと進む。

途中、夜番の侍女や衛士とすれ違うが、誰も気づかない。

それほどに、彼女の動きは静かで、気配を消していた。


そして、長い回廊を抜けた先――


保管庫の扉の前で、ようやく侵入者と遭遇した。


フードを被った細身の影。

手には小型の魔導具と解錠用の銀の鍵爪。

魔力で光る目が、こちらに気づいて驚く。


「誰だ……ッ!? 気配は完全に消したはず……!?」


「あなたこそ、誰?」


その声には、迷いも揺らぎもなかった。

侵入者はレイアの姿を見て、ほんの一瞬、後ずさった。


「お前、人間か……?」


「否。観測対象(ルナ)に仇なす者と断定、拘束します。」


「ちっ……」


侵入者はすぐさま詠唱を始めた。掌に灯った魔力が、夜気をざらつかせる。

防御魔法を展開しつつ、後方に跳ぼうとした――だが、その動作すら遅すぎた。


「──逃走意図を確認、阻止します」


空気を裂くような動きで、レイアは一気に距離を詰めた。

鋼のような手刀が振るわれ、防御魔法が軋みを上げて裂ける。


その一撃は正確に、侵入者の肩口を撃ち抜き、侵入者の身体は壁へと吹き飛んだ。

背中から叩きつけられた衝撃で呻き声を上げ、そのまま床へと崩れ落ちる。


「な、なんだこいつ……人間じゃねえ……!」


呻くようにそう漏らした次の瞬間、

城中に警鐘が鳴り響いた。

駆けつけた衛兵たちが、レイアの傍らに倒れる侵入者を見て、目を見開く。


「一体、何が……!?」


「顔識別結果:王国職員リストと一致。職務登録、禁書庫補佐。

  ──裏切者と断定。尋問、開始します。」



--



拘束された侵入者は、魔力封じの枷をつけられ、床に転がったまま呻いていた。

周囲には警備兵のほか、侍女長マルレーンや衛士たちが集まっている。


「情報開示優先。脳幹接続ユニット、展開」


レイアの瞳が僅かに光る。

次の瞬間、腕部装甲が展開し、蛇のようにうねるコードが這い出す。

その先端には鋭い管と鉤爪が一体となったユニット──獣の牙のように、空気をかすかに震わせながら、じり……と動いた。


「ヒィ!? な、何を……!? ま、待て! それは――っ!」


「記憶抽出、準備完了。対象の頭部位置、固定」


「待ってくださいレイア、それはさすがに……!」


慌ててマルレーンが止めに入る。


「姫様はこんなことを望みません!」


レイアの腕が、空中でぴたりと静止した。


しかし、無表情の奥に、静かな怒りがにじんでいた。


「……対象が、無害な存在であればよかった」


その一言に、侵入者はついに泣き出した。


「ぜ、全部話すから……! 助けてくれ!!」


* * *


朝。


ルナが目を覚ましたとき、カーテン越しの光が柔らかく差し込んでいた。


「ん……」


目をこすって体を起こすと、レイアが微笑んで椅子に座っていた。


「おはようございます。ルナ」


「おはよう……なんだか変な夢を見た気がする……」


その直後だった。


「ルナ、入ってもいい?」


扉の向こうから聞こえてきたのは、母である女王シェリルの声だった。


「母上?」


扉が静かに開き、女王が姿を現す。

レイアの姿を見とめ、ため息混じりに呟く。


「レイア、ここにいたのね。あなたの部屋にいなかったから……」


そしてそのまま近づき、レイアに向き直る。


「レイア。あなたのおかげで、裏切り者は排除できたわ。」


レイアは静かに一礼する。


「任務として、対処したまでです。しかし、これで全てではない気がします。」


「心得ておくわ……でも、私はあなたに感謝しているわ。ありがとう」


レイアの瞳が、わずかに揺れた気がした。


「……へ?」


寝ぼけた声でルナが呟いた。


「それじゃあ、また後でね。ルナ、いい拾い物したわね。」


女王はそれだけ言い残して、そっと扉を閉めた。


ルナはまだ寝ぼけ眼でレイアの方を見る。


「レイア……何かあったの?」


レイアは悪戯っぽく微笑み、人差し指を口元に当てた。


「秘密です」


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