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【ネトコン13受賞】代筆令嬢リゼットはくじけない ~あなたの代筆はもうやめにします~【9/1 第1巻発売】  作者: 糸四季


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【騎士と面会】

 

 そう言うと、侍従は紅茶や茶菓子を用意し退出していった。

 呼びつけておいて主は不在か。まあ、それもいつものことだ。


 ウィリアムは短くため息をつき、ソファーに腰かける。胸元からリゼットの手紙を取り出し、先ほどの思考の続きを開始した。どんなことを書けば、リゼットが喜んでくれるのか。

 リゼットと言えばやはり手紙だ。いつも同じ便せんだから、違うものを用意してみるか。

 それともリゼットが好きそうな本の話をするか。しかしウィリアムは軍や戦術に関する本しか読んだことがない。


 こんなことなら、筆記用具を持ってくれば良かったか。王太子を待っている間、案を書き留められたのに。

 そう考えていたウィリアムだったが、真上にあった太陽の位置が大きく傾いても、王太子は一向に現れなかった。いくら何でも遅すぎる。

 これ以上待たなければならないのなら、日を改めてもらおう。そう思い、ウィリアムは部屋の呼び鈴を鳴らした。

 だが、いつもならすぐに飛んでくるはずの侍従が来る気配がない。さすがにおかしい、とウィリアムは立ち上がる。通されたのが一階の応接間でも、二階の王太子の執務室でもなかったのも妙だ。



「おい。誰かいないか」



 廊下に控えているだろう侍従に声をかけ、扉を開こうとしたウィリアムだったが、ノブに手が触れる前にガチャンと鍵のかかる音がした。



「……は?」


 一応、ノブを回してみる。しかしやはり鍵がかけられていた。

 王太子宮の一室に閉じこめられた。一体なぜ。


 ウィリアムは自分以外誰もいない部屋を振り返り、今度は何の冗談なのかとため息をつくのだった。




 *****




 王女宮の廊下の角を曲がったところで、誰かとぶつかってしまった。

 目に入ったのは白い騎士服。謝ろうと顔を上げるより先に「リゼット嬢?」と名前を呼ばれ驚く。



「あ……ヘンリー様。申し訳ありません、私の不注意でぶつかってしまい」

「いやいや、お互い様です。お怪我はございませんか、お嬢様?」



 芝居がかった様子のヘンリーに右手を取られ、リゼットはくすくす笑う。


 柔らかで落ち着いた印象の近衛騎士が多い中、ヘンリーはどちらかというと気さくでくだけた印象があり、リゼットもあまり緊張することなく接することができた。

 ウィリアムの親友だからというのもあるかもしれない。ウィリアム本人はそれを強く否定するけれど。



「お急ぎのようでしたが、どちらへ?」

「入口の待機室です。来客があって……」

「待機室? 応接室ではなく? 失礼ですが、お相手は?」

「ええと……」



 いつもの人好きのする笑みは消え、真剣な顔つきになったヘンリーは誤魔化せない。

 仕方なく、リゼットは来客が幼なじみであるシャルル・デュシャンだと告白した。その途端、ヘンリーの表情が険しいものになる。


 シャルルからの『会えないか』という手紙に、リゼットは王女宮から出ることは出来ないので、待機室で会うのはどうかと返事をしていた。

 待機室というのはその名の通り、王女宮に入る申請をした者が、許可が下りるのを待つ場所のことである。王女宮入口の受付横に位置し、王女宮の外と中を繋ぐ境界のような空間となっている。



「王太子殿下付きの近衛騎士ですね? 選定の日に問題を起こした。このこと、ウィリアムは知っているのですか?」

「いえ……でも、もうあのようなことにはならないと思います! 謹慎を終えて、反省していると手紙にもありましたし……」

「失礼ですが、反省とは言葉で示すものではなく、行動で示すもの。幼なじみを信じたいお気持ちは理解できますが、あまりに不用心ではありませんか?」

「う……。ヘンリー様のおっしゃる通りです」



 忙しいウィリアムの手を煩わせることなく、自分でシャルルとの問題を終わらせてみせる。一人前の淑女として、頼ってばかりではいられない。

 そんな気持ちでいたが、不用心であるのは確かだ。もちろん警備している衛兵がいるので、ひと声かけてからシャルルと対面するつもりではあったが、言い訳にもならないだろう。

 上手くいったとしても、ウィリアムに知られればきっととても怒られる。


 冷静になると、怒れる軍神様のこめかみに浮かぶ血管まで想像できてしまい、ぶるりと震えた。



「では、こうするのはどうでしょう。私が待機室までご一緒するというのは?」

「え……でも、ヘンリー様にもお仕事がおありでしょう?」

「それが、ちょうど休憩に入ったところでして。同席をお許しいただけるのなら、このままエスコートをしても?」



 流れるように左腕を出され、リゼットはほっとして笑顔で手を添えた。さすが騎士様、エスコートが手慣れている。


 王女の近衛騎士の前では、シャルルも何かしようなどとは思わないだろう。あの日のように興奮することがあったとしても、ヘンリーが同席していれば歯止めがかかるはず。

 そんな風に考えてしまうこと自体、幼なじみのシャルルに対して失礼ではないか。と、申し訳ない気持ちにもなるのだが、いまリゼットにとってはウィリアムがどう思うか、ウィリアムが悲しまないかということのほうが重要になっていた。



「……と、少々失礼」



 待機室の前まで来て、ヘンリーは近くにいた衛兵に声をかけていた。

 ヘンリーが戻るのを待ち、待機室の扉をノックする。すぐに返事があり中に入ると、正面奥に開いた窓から外を眺めているシャルルの姿があった。



「シャルルお兄様」

「……やあ、リゼット。待っていたよ」



 にこやかに言うと、シャルルはリゼットの背後に立つヘンリーを見て軽く騎士の会釈をした。ヘンリーも同じように黙って会釈を返す。



「出来れば、ふたりきりで話しをしたかったんだけど」

「申し訳ないが、それは承服しかねる。これは王女殿下のご意思でもあるので、理解いただきたい」



 リゼットより先に、ヘンリーがそう答えていた。


 いまレオンティーヌは本宮に呼び出されており不在だ。そのレオンティーヌからは、面会の申しこみには気を付けるよう言われてはいたが、シャルルとふたりきりにならないようにとは言われていない。

 本当にレオンティーヌが言っていたのか、ヘンリーの独断なのかはわからないが、リゼットは何も言わないことでヘンリーに合わせる姿勢をとった。



「それならば仕方ない。ここは王女宮だ。そちらの意志に従おう」



 シャルルに促され、花柄の布張りの椅子に腰かける。ヘンリーは座らず、一歩下がりリゼットの背後で直立不動の姿勢をとった。

 ちらりとそちらを見ただけで、シャルルは言及することなくゆっくりと話し始めた。



「王女宮に滞在していると聞いて、驚いたよ。代筆として、王女殿下に立派にお仕えしているんだね」

「はい。滞在と言っても一時的なもので、明日で最後なのです。明日が終わればスカーレット様……ハロウズ伯爵邸に戻ることになっています」

「そうか。……子爵邸には、帰らないんだね」

「お兄様……。家を出るとき、シャルルお兄様に何の相談もせずごめんなさい。でも、私は後悔はしておりません。スカーレット様のもとでまだまだ学びたいことがたくさんあるのです。そしていずれ独り立ちをして――」

「わかってる。わかってるよ、リゼット。すまない。あの日、君にひどいことを言った。謝るべきなのは僕のほうだ。君から届いた手紙にも返事をせず、本当にごめん。何を書いたらいいのかわからなかったんだ。君を失うのかと思うと、僕は……」



 俯いたシャルルの声は震えていた。その姿に、リゼットは何と声をかけるべきかわからない。

 リゼットにとって、自分の家を出たことはもう終わった過去のことだが、シャルルにとってはそうではないことは、幼なじみの様子を見れば伝わってくる。

 それでもやはり、リゼットにとっては過去なのだ。



「……後悔してるんだ。僕は、リゼットの境遇を知りながら、僕の都合で気付かない振りをした。それは君にとってひどい裏切りだっただろう。きっと君は僕に失望しただろうね」

「それは……」

「いいんだ、わかってる。当然のことだ。僕は嫌われて当然のことをした。本当は僕が君をあの家から救い出さなきゃいけなかったのに、僕は自信がなくてそれを先延ばしにした。もっと、君を守る力をつけてからじゃないと……ってね」



 自嘲するように笑うと、シャルルは深いため息をついて、リゼットを見た。

 真っ直ぐな瞳にどきりとする。以前のシャルルはいつだって穏やかな目をしていた。理想の貴公子を具現化したような幼なじみが、いま目の前でリゼットの知らない顔をしている。



「リゼット。もし……僕が何もかもを捨てて遠くに行くと言ったら、ついて来てくれる?」


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― 新着の感想 ―
これが見たかったんですよ!(ズザアーと正座 さぁさぁパパさん勢いよく全部ぶちまけちゃって!
おお〜 パパのターン 待ってました なんだか根が深そうな 続きがとっても気になります!
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