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【ネトコン13受賞】代筆令嬢リゼットはくじけない ~あなたの代筆はもうやめにします~【9/1 第1巻発売】  作者: 糸四季


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【一時帰宅】


「それは少し違う。リゼットの“祝福”が手紙を受け取った者にどんな結果を与えるかは、その者次第だ」



 スカーレットはそこで、自分の力の話を聞かせてくれた。

 スカーレットの宿す妖精の力は“愛”だそうだ。スカーレットからの手紙を読んだ者は、時には恋が愛へと高まり、時には消えかけた愛が再燃し、誰かを愛し慈しみたくなるのだという。

 しかしその愛を相手に上手く伝えられるかどうかは本人次第であり、必ず恋が成就するとか、別れたあとに復縁を約束するなど、そういうものではないのだとか。



「きっかけにはなるが、絶対ではない。そこまで強制力のある力ではないから、安心しなさい」

「はい……」

「お祖母様の言う通りだ。例えばリゼットが“この人の復讐が果たせますように”と祈ったとする。もしそれで誰かの復讐が叶い、別の誰かが死んだとしても、それは君のせいではない」

「そんな恐ろしいことは祈りません……」



 たとえ話だ、とウィリアムに睨まれ、リゼットは笑った。

 軍人らしく励ましてくれたのだろう。


 未来を切り開くのはその人自身。

 ふたりのおかげでそれが伝わり、リゼットはほっとすることができた。



 ***



 すっかり夜が更けた頃、リゼットは子爵邸に戻ってきた。

 だがひとりではなく、スカーレットとウィリアムも一緒だ。迎え出た使用人たちがギョッとしていたので、少し申し訳なくなった。

 なぜスカーレットたちがついて来たかと言うと、リゼットに子爵邸を出てはどうかと提案してくれたからだ。



「継母に部屋に閉じこめられたんだろう? また同じことをされるとも限らない。リゼットの安全のためにも、うちに来ないかい」



 突然のことに驚きすぎて、リゼットはなかなか言葉を発することができなかった。

 スカーレットと一緒に住む? 長年住んだこの家を出て?


 だがスカーレットとは今日会ったばかりだ。亡くなった母の師だとしても、リゼットとスカーレットが血のつながりのない赤の他人であることに変わりはない。

 それなのにいきなり一緒に住むなんて許されるのだろうか。


 しかし遠慮するリゼットに「そうしたほうがいい」と強く言ったのは、スカーレットの孫であるウィリアムだった。



「今日は監禁だったが、次は拘束もあるかもしれないぞ」

「大丈夫ですよ。さすがにそこまでは……」

「なぜそう言い切れる? 奴らは反省しているようにも見えなかったし、父親も当てにはならないのだろう?」



 人の家族に随分な言いぐさだが、心配されているのをひしひしと感じるので嫌な気持ちにはならなかった。なぜだか少し、くすぐったい気分だ。




「それに君も次は何をしでかすかわからない。今日は窓から落ちてもおかしくなかった。次は屋根からだってありえる」

「さすがにありえません。何があったら私が屋根に上ることになるのですか……」

「戦場ではそういうこともある」

「私は戦場に行く予定はないと言いました……」



 ウィリアムの軍人ジョークはわかりにくい。


 大丈夫だと言ったが、ふたりは譲らなかった。

 結局、代筆者に怪我でもされては困ると言われたのが決め手となり、リゼットは荷物を取りに一度子爵邸へ戻ることになったのだ。

 家族には反対される予感しかないが、それもふたりが何とかしてくれると言う。

 ありがたいが、リゼットも自分で話すつもりだ。自立したい、その一歩なのだと伝えれば、きっと理解はしてくれるはずだ。


 ウィリアムが壊したリゼットの部屋の扉は、すっかり直されていた。

 継母が、父に見つかる前に証拠隠滅したのだろう。扉のない部屋で眠るのは嫌だなと、家を出たとき思ったので良かった。



「狭いし、窓は小さくて薄暗いし、こんな所でお前は生活していたのかい」

「慣れればなんてことはありません。でも、部屋をここに移されたばかりの頃は、怖くて寂しくて、よく泣いていました」



 母が亡くなり、新しい母が来て、でもその人には疎まれていることがわかり、何度心がくじけそうになったことだろう。

 その度にリゼットは母の手紙を読み、筆跡を真似たり、送り方のわからない母への手紙を何通も何通も書いたりして過ごした。

 大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて。そして――。



「……そういえば、この部屋で私、妖精さんを見たかもしれません」



 ふと、遠い記憶がよみがえり、リゼットは窓の下のあたりでうずくまりながら、床で手紙を書いていた自分の幻をそこに見た。



「時々、手紙を書く私のそばに、小さな姿がありました」

「それは妄想ではないのか?」



 ウィリアムに問われ、リゼットは「私もそう思っていました」と答える。

 あまりにも寂しかった自分が作り出した、妄想の小さな友だちだったのだろうと。



「あれが本当に妖精さんだったかはわかりません。いつの間にか見えなくなってしまいましたし。でも、私はあの小さな存在に救われていました」

「きっとそれは妖精だろう。私も幼い頃に何度か見かけたことがある。大人になってからはとんと姿を現してくれなくなったが」

「お祖母様も? そんな話は初めて聞きましたが」

「言ったところで、お前は“幻覚ですね”としか言わないだろう」



 スカーレットに容赦なく指摘され、ウィリアムはムッと口を閉じた。

 確かにウィリアムは言いそうだ。先ほども妄想ではと似たようなことを言っていたし。



「だが、私の場合は妖精の残像を見ることがある程度だった。さっと机の下に隠れるお尻が見えたとか、本棚の裏に逃げこむ羽が見えたとかね」

「やっぱり、妖精さんは恥ずかしがり屋なのでしょうか?」

「さあ。そうかもしれない。だが、リゼットは全体をはっきり見たことがあるんだろう? とても愛されているんだろうね」



 スカーレットに言われ、そうだったら嬉しいなとリゼットは笑顔になる。

 あの頃は、本当に毎日がつらくて寂しくて。小さな友だちが時々姿を見せてくれるのを心待ちにしていた。彼、もしくは彼女がいたからくじけそうになっても耐えられたのだ。

 スカーレットが言うには母も恐らく同じ力を持っていたそうなので、もしかしたら母についていた妖精が、自分の元に来てずっと寄り添ってくれたのではないかと、そんな都合の良いことを考えた。


 元々少ない私物をまとめると、鞄一つにしかならなかったことに驚かれた。



「たったこれだけ?」

「はい。服は普段着が数着だけですし、本はスカーレット様のお屋敷にもあるものばかりでしたから。文房具は元々持ち出していましたしね」

「ありえないね。足りないものは後でそろえるとしよう。あと持ち出したいのは文机だけだね?」

「業者を手配します。明日中に届くでしょう」



 ということは、早くも家を出る準備が整ってしまった。

 あとは家族が帰ってくるのを待つだけだと思っていると、ちょうどその彼らが夜会から戻ってきたようで、階下が騒がしくなる。



「では、行こうか」


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― 新着の感想 ―
 立派な不敬罪だわー、うん斬ってよし( ´∀` )b
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