第5話:召喚事故ってマジですか? 運だけで収拾つけていいんですか??
その日、午後の授業は“召喚魔法基礎演習”。
俺は当然、見学組。
「強運じゃ召喚できませんので」って理由で、ベンチに座ってた。
(うん、見てるだけなら安全……なはずだった)
ところが、演習の途中。
生徒の一人が魔法陣の式を間違えて、魔力暴走。
次の瞬間、空間が裂け、異界から何かが降臨した。
「……え? なんか出てきたんだけど?」
「お、おい!? あれ、制御外れてるぞ!!」
でっかい猿みたいな魔物が現れて、グワアアアと吠えた。
教師たちは結界を張るのに必死。生徒たちは逃げ惑う。
そんな中、俺はパンを落とした。
「もったいねぇ!!」
拾おうとして転んだ。
——そのとき、俺の肘が床の装置のレバーを偶然下ろした。
《魔力反転結界・非常装置、作動》
次の瞬間、魔物が光に包まれ、あっさり消滅した。
……沈黙。
「……お前、なにした?」
「え、パン落としただけ……」
「パンで魔物を倒した……だと……?」
なんか、生徒たちが神を見る目で俺を見てる。
ちがうんだ。俺、ただパン拾おうとして転んだだけなんだ。
「ふふっ……あなたって、ほんと面白いわね」
隣から笑い声。
アリシアが、微笑んでいた。
その瞳が、一瞬だけ淡く光ったように見えたのは——気のせい?
──運で救った学園。
けれどこの“偶然”が、王都にまで波紋を広げるとは、
この時の俺は知る由もなかった。