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自室のベッドに腰掛け、英知は膝を抱いた。もうとっくに日は暮れているのに、照明をつけようともしなかった。

頬を伝う涙は枯れることをしらない。

腕を解き、ベッドに身を横たえた。

沈んでゆく身体とともに、追憶の闇に意識が呑まれた。


木造のこじんまりとした礼拝堂に、キリストの磔刑像が悲しく自分を見つめていた。故郷の教会。自分は中学2年生くらいだったろうか。赤い小さなワンピースを新調してもらい、少女は嬉しそうにそれを僕に見せにきた。僕と彼女以外にはそこに誰もいなかった。

彼女は小学1年生になったばかりだった。髪の長いお人形のように愛らしい少女。不意に僕の中に沸き起こったどす黒い感情が渦をまく。


「ねえ、お兄ちゃんに抱っこされないか?」


そういうと、少女は嬉しそうにすこしはにかみながら、ちょこんと僕の膝の上にすわった。意外と肉付きがよく、あの時も乱れたスカートの中から白い小さな太腿が覗いていた。

僕は薄く笑い彼女のワンピースをたくしあげた。

露わになる小さな下着にそっと手を滑らせた。


「おにいちゃん……はずかしいよぅ」

少女は泣きそうな声を出した。

「大丈夫だよ。だけどこのことは絶対に誰にも言ってはいけない」

そう口止めをすると、少女は青ざめた顔をして小さく頷いた。


少女はこのことを誰にも言わなかったらしい。

だけど、それ以後僕は彼女の存在に恐怖した。


しばらくして彼女は、彼女の父の転勤でどこか遠くに引っ越していったのだが、それでも心が休まることはなかった。


僕は罪人だ。

少女が僕の前からいなくなっても、この罪悪感は決して消えることはない。

そして犯してしまった罪を自分では償うこともできない。

死を望んだことも一度や二度ではない。

だから縋った。

幼いころから聞かされ続けたキリストの神に。

神の御子でありながら、人として生まれその罪を負いキリストは十字架につけられたという。

「いいかい、よくお聞きなさい英知。たとえどんな罪びとであってもキリストの救いをその心に受け止めるなら、許されるのですよ」


牧師である父が、よくそういって僕の頭を撫でながら話してくれたのだけれど、『キリストの救いをこころに受け止める』とは一体どういうことなのか、僕にはよくわからなかった。だけどその許しに縋らなければ生きてはいけないと、僕にははっきりとわかっていた。人のいない礼拝堂でずっと泣きながら祈り続けた。

祈りは、格闘だった。

僕は泣きながら自分の罪を悔いた。どれだけ悔いても、自分が許されているという実感はまったくなかった。

そして気付く、許されることを心のどこかで頑なに拒んでいる自分の存在があったことを。そこに暖かな一筋の光があたった。


脳裏に浮かぶキリストの磔刑の場面。

想像を絶する苦しみの中で、キリストが僕に向かって笑った。

「もういい。お前の苦しみは私が引き受ける」とそう語ってくれたようだった。

涙が溢れて止まらなかった。

だけど涙は苦くはなく、暖かなものだった。

夜明けのきらきらと輝く太陽の光に闇が溶けた。

不意に心の中に、生きようという意欲がわいた。

「あなたが、僕を許してくれるのなら、僕の人生はあなたに捧げます」

そう祈った。

僕は父が牧師だからという理由で献身したわけじゃない。キリストに出会い罪許されたものとして、確かにそこに立ったのだ。


だけど、今日僕は確かに御国ちゃんに対して情欲を抱いた。

それはキリストの愛とは程遠いものに思われた。

6年前に抱いた少女への汚らわしい思いと、なんら変わることはなかった。


神の前にも、御国ちゃんの前にも堂々と立つ自信が、今の僕にはなかった。


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