学園の王子様にスキスキ言ってたら、なんか婚約者になってた
「ギルバート様ー!今日もカッコいいです!好き!」
「ありがとうリリアナ、僕も好きだよ」
「はうっ」
リリアナと呼ばれた侯爵令嬢は、ミーハーだ。貴族の子女の通う学園の、王子様のような存在であるギルバート公爵令息に毎日のようにスキスキ言い続けている。
「ギルバート様、好きです!愛してます!だからこれ受け取ってください!」
「手作りのクッキー?嬉しいな、ありがとう。僕も調理実習で作ったからフォンダンショコラをあげるね」
「はうっ」
ギルバートは〝リリアナに対してだけは〟ファンサ過剰だ。リリアナは推しのファンサに今にも溺れてしまいそうなほどだった。
「ギルバート様、ギルバート様」
「どうしたの、リリアナ」
「ハンカチに刺繍をしてみたんです!プレゼントです!」
「ありがとう、リリアナ。僕も美術の授業で陶芸に挑戦したんだ。良かったらこの湯呑みをプレゼントするよ」
「はうっ」
リリアナは推しが今日も尊い。幸せだ。だから、この展開は青天の霹靂だった。
「私が」
「うん」
「ギルバート様の婚約者に?」
「うん。喜んでくれるかい?」
「なんで!?」
ギルバートの家からリリアナの家に、二人の婚約が持ちかけられた。二人は晴れて婚約者同士になった。
「おや、不満かい?」
「いや、嬉しいですけど私なんかじゃとても!」
「僕はリリアナが良いんだけど」
ギルバートは思う。顔や金や爵位が目当ての貴族女性達に囲まれて辟易して、消えて無くなりたいとすら思って病んでいた自分に唯一真っ直ぐな好意を寄せてくれたリリアナの存在は大きい。今更逃してたまるか。
「あう…本当にいいんでしょうか…」
「咎める人などいないよ。僕たちは相思相愛だもの」
「はうっ」
リリアナは推しが婚約者になって、今日も幸せにきゅんきゅんする。そんなリリアナに、ギルバートはただ微笑んだ。