エリス=アローシェンの力
エリスはティエルノに言われたように魔力を少しずつ送り込む。
ティアの魔力を吸わないように、自分の魔力をティアの体中に送り込んだのだが。
「・・・うっ・・・ばぎぞう・・・」
気持ち悪くなった。
ティアに魔力を送り込むということは。
今までの量から膨大に変化するので、体の外に逃がそうとする機能が働く。
それを必死で止めるのがティエルノ。
そのせいで魔力を送り込む側が、ティアのあふれ出している魔力に充てられた。
「が、頑張れ!」
「お父様、黙って!」
エリスは気を取り直して“核”なるものを探す。
エリスの息が切れかかったところで、黄色い光を放つ何かを感じた。
「・・・見つけた・・・と思います。たぶん・・・これでしょうか・・・」
「では、その核を包み込むイメージで。」
包み込む。包み込む。包み込む。包み込む。包み込む。包み込む。包み込む。包み込む。包み込む。
心の中で繰り返しながら、エリスは魔力を動かす。
汗が流れ自分のドレスを濡らす。
汗がドレスに落ちた瞬間を感じたが、エリスは気にせず目の前にいる人に集中する。
魔力が黄色い光を包み、光を抑えつけた。
そのままゆっくりと引っ張る。
とても重い感覚だった。
漸く引っ張り出せた。
「よし。上手じゃの。天才じゃ。」
ティエルノがそう言って、ティアの上に浮かんだ光をつかんだ。
「イアンよ。ティアに癒しを」
ティエルノがイアンを見ていった。
言われた通りイアンはティアに癒しの魔法を施した。
ティエルノはため息をついて、光を見ていた。
「・・・全く無茶するのお・・・壊す気か・・・」
ティエルノのつぶやきは、元伯爵とその隣にたつ、見えない何かにしか聞こえなかった。
ティアが目を覚まし、他のメンバーの目はそちらに向かっていた。
騒ぎが落ち着き、ティアが寝かされている部屋には、伯爵、元伯爵、ティエルノにイアン、そしてアレクサンダーがいた。
エリスは残りたがったが、オリバーに引っ張られて出ていった。
ティアが瓶に入った光を見る。
「それは一体何なんですか?」
「・・・これか・・・・」
ティエルノは少し厳しい目つきで瓶の中の光を見て、ティアに視線を変え、最後に後ろを見た。
誰もいない。
「・・・これは、“時戻りの石”じゃ」
この言葉に息を呑んだのは、イアンとティアのみであった。
「時戻りの石とはなんですか?」
アレクサンダーが聞いた。
「そのままの意味じゃ。時を戻ることもできるし、先に行くこともできる。」
「あ・・・ありえない・・・」
伯爵が顔面蒼白でつぶやく。
「ティエルノ様・・・なぜ私の中に時戻りの石が?」
ティアが聞いた。
「・・・ティアは知っているのかい?」
アレクサンダーが聞いた。
「・・・」
ティアは言葉に詰まる。
建国の物語に出てくる魔法は、光、水、火、土、風、読み取り、幻覚、磁波重力の8つ。
学院の図書にも、古の国の図書にも魔法が馴染んだのは10人と書かれていた。
違いは、学院の図書には9人の魔法を使えるものが生き残ったとあったが、古の国では8人の魔法を使えるものが生き残ったとある。
そして実際知られている魔法の種類は8つ。
残りの二つは無くなったことになっている。
だが、無くなったのではない。
隠されただけなのだ。
人間の奥底に。
時戻りの石。
それは、全ての魔法が集まっている石。
8つ以外に必要な魔法は、再生の魔法と空間の魔法。
10個揃って初めて時戻りは発動する。
「・・・そんな話聞いたことないぞ・・・」
伯爵が呟いた。
「仕方がない。帝国の信条が元々その神話と合わないのだ。どこぞのプライドの高い皇帝が全て消し去った。帝国中からな。」
元伯爵がぶっきらぼうに言う。
プライドの高い皇帝。
前皇帝のことである。
前皇帝の周囲は皇帝にそっくりの考え方をした貴族ばかりであった。
それが歴史をゆがませる原因となっていた。