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賢者ティエルノ


アレクサンダーが部屋の扉を蹴破って中に入ると、床に自分を抱え込むようにして座っているティアの元に駆け寄る。


「ティア!」

アレクサンダーはティアの肩に触れ揺さぶる。


やめて。

「ルクレティアナ!」


やめて!!


「しっかりしろ!」


やめて!!


感情のコントロールができずティアの魔力が勝手に動き出す。


「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」

イアンが少し焦る。


魔力とマナの大きさは、イアンよりもティアのほうが数倍は大きい。


イアンにはティアの暴走は止められない。


「・・・っ本当にごめん」

そう呟いてティアの首に手刀をいれた。


ティアは気絶し、そのまま深い眠りに入った。





イアンはティアの体を抱き上げ、ベッドに寝かせる。

鏡が割れており、自分の手鏡を出す。

術式を書き魔力を込める。


『ん?こりゃまた珍しい。イアンかの?』

鏡に映ったのはティエルノであった。


「ティエルノ様!ティアの様子がおかしいのです!」


『・・・どういうことじゃ?』

普段はふざけている老人だが、イアンの焦りを聞いて表情を厳しくする。



イアンは鏡をティアのほうに向ける。


『ふ~む見た限りではわからんの。』


「・・・どうしたら?」


『様子がおかしいというのは具体的には?』


「カリオペが遠話機で先に話していたみたいなんですが、昨日の出来事を覚えていない様子で。確かに、帝国に入ってから同様のことは時々あったんです。・・・度忘れ程度に誰も気にしていなかったんですけど。」


『・・・物忘れ・・・』


ティエルノは少し考えてから、ため息をついた。


『そちらへ向かおう。1時間くらいでつくじゃろう。古の魔法で行くから・・・そうじゃの・・・確か帝国にはアローシェンの奴がいたのう・・・その奴の家へ連れていけ。わしの名をだせば入れてくれる。』



イアンは鏡の通信を切り、すぐティアを抱いて使用人出入口のほうから馬車小屋まで向かう。

馬車に寝かせ、自分は御者台に乗り馬を操る。




アローシェン家につくと、使用人たちはパニックになった挙句、見知らぬ御仁を屋敷に入れるわけにはいかない、と忠実な臣下よろしく中にいれようとしなかった。


屋敷の入り口で押し問答をしていると、杖をついた身なりのいいおじいさんが声をかけてきた。


「何をしている?」

低い声が使用人たちの神経を余計尖らせた。


「大旦那様。お休み中申し訳ありません。この者たちが旦那様に会わせろと・・・」


使用人の中でも、執事服を着ている男性が老人に説明しているのを遮るようにイアンが叫んだ。

「お願いです!伯爵に“ティエルノ様もいらっしゃる”とお伝えください!」


イアンの言葉に“大旦那様”と呼ばれた男性は目を瞠る。


「ティエルノ様・・・そなた・・・彼の国の者か?」

つぶやきに近く、イアンもあまりしっかりと聞こえたわけではなかったため、いぶかしげな表情になる。


老人は咳ばらいをして手で合図した。

「気にせんで良い。中に入りなさい。」

老人の誘導にイアンはティアを抱いたままついていく。




玄関ホールでは騒ぎを聞いたのか、伯爵とアレクサンダー、オリバーが出てきた。


アレクサンダーはすぐにティアに気付き、驚いている。


「ルアン!どうした・・・なぜ・・・」


「どちらに運んだら?」

イアンが聞く。


伯爵が使用人に指示をだす。



バタバタと使用人たちが走り回る中、イアンは少し息切れをしながら使用人の後について行く。


伯爵やアレクサンダー、オリバーですらもついていっていた。


彼らの後ろで玄関ホールの扉の目の前に立っていた老人。

元伯爵であり、この家の大旦那は目を細めため息をついた。

「まさか・・・現実になろうとは・・・扉は開けておこう。心配なら、ともに来るが良い。」


誰もいない。

人影もない。

元伯爵はそっと呟いた。




別室のベッドに寝かされたティア。

顔色が悪く、呼吸も荒い。


「・・・何があった?」

アレクサンダーが低い声を出した。


「わかりません。友人から連絡あって、彼女と話しをしていたら彼女の様子が変だったから見に行ってくれと言われました。」


イアンの言葉に次は伯爵が聞いた。


「様子が変とは?」


「それが・・・私も詳しいことはわかりませんが、昨日友人に連絡して頼んだことを今日報告したら何のことかわからなかったみたいで。最近・・・そういうことが増えているようです。」


伯爵がティアの手に触れる。

魔力を流し込んだ。


バチバチ・・・・


電気が走り、伯爵の魔力が弾き飛ばされた。


「!!父上!・・・大丈夫ですか?」


「今のは一体・・・」

オリバーも驚いて、倒れこんだ伯爵のそばによる。



「症状からすれば限りなく幻覚魔法に近いが・・・」

アローシェン家は自身の魔力を相手に注入し、相手の魔力をとることで、相手にかかっている魔法を知ることができる。


「お前では無理じゃの・・・」

扉から声が聞こえ振り向く。


「誰だ・・・」

オリバーが剣呑な雰囲気のまま聞く。


「ほっほっほっほっ・・・若者は無礼者が多いのお」


「ティエルノ様!」

イアンが声を上げた。


「おお。孫よ!」

急に両手を広げた。


イアンは、ティアが倒れたことで少し動揺していたが、ティエルノの悪ふざけで冷静さを取り戻した。

「ご無沙汰しております。ひーひーひー・・・ひーくらいのお爺様」


冷たい表情のイアンに、ティエルノは笑う。


「ティエルノ殿。はようやりなされ。」

ティエルノの後ろから元伯爵が入ってくる。



「わかっておる。若いのはせっかちよのお。・・・そなたは・・・大丈夫なのか?」


「何がですか?」


「そなたも爺だろう?魔力がもたないのではないのかえ?」


ティエルノの言葉に元伯爵は鋭くにらむ。


「失礼な。」


「待ってください!父上、何をなさるつもりですか?」

伯爵が焦ったように駆け寄る。


「あの娘の倒れた原因を調べるのと解呪するのに大量の魔力と技術が必要なんだ。」


「では、私がいたします!」

伯爵が言う。


「お前には無理だ。」


「ですが・・・」



二人が押し問答をしているのを見て、ティエルノがため息をついた。

「どっちでも良いからはよおしてくれんかのお・・・」


つぶやきは二人に届かない。


「私では無理ですか?」


ティエルノの横に立っていたアレクサンダーが聞く。


「・・・ふむ。そなた、魔力探知と読み取り魔法はできるか?」


「できます。」


「では、たぶんじゃが・・・ティアの中には、何者かの魔力の核なるものが植え付けられているはずじゃ。それを探し当てて、自分の魔力と交換する。交換は探知の要領でやればよい。」


「はい。」


「じゃが、その核はそなたは吸い上げてはならない。よいな」


「・・・なるほど。それでお爺様にしかできないということですね。」


本来、魔力探知はアローシェン特有の魔力を相手側に入れ、相手の魔力を吸い取る。

そうすることで、アローシェンの魔力が、相手の中と自分の中で魔力を探知鑑定してくれるのだ。


しかし、元伯爵はアローシェンの血が濃く、自分の魔力を相手に入れるだけで探知鑑定できる。ただ、かなりの魔力量を有する。

元伯爵は老齢。身体的にも精神的にもきつい。



「・・・そなたは・・・どうやらアローシェンの血が薄いな。」

アレクサンダーの瞳が鋭く光った。


「けなしているわけではない。そなたの身に何かあってからでは遅いのじゃ。」

ティエルノが諭すように言う。



バ—-ン!!!

勢いよく扉が開いた。


アレクサンダーそっくりの少女が仁王立ちで立っている。


「わたくし、エリス=アローシェンの参上ですわ!!」


エリスが鼻息荒く現れた。




「ですから!!わたくしは先祖返りのため、アローシェンの血がお爺様より濃いのです!!任せてください!!」

エリスが平らな胸を叩く。


「いや・・・しかし、訓練も何もしていないエリスでは・・・危険が・・・」

威厳たっぷりのはずの元伯爵はしどろもどろに、かわいくて仕方ない孫娘に答えていた。


「大丈夫です!普段からお兄様に鍛えてもらっていますもの!!任せてください!!」


「ありがとうエリス。頼んだよ。」

アレクサンダーがさわやかな微笑みで返す。


「「アレク!!」」

父と祖父がハモる。


「なんです?エリスができるというのですから信じましょう。エリスは天才です。そして私の大事な妹だ。この子にはできます。」


兄の言葉にエリスは涙ぐむ。


咳ばらいをして、ティエルノに向き直る。

「ではルノ爺様!やりましょう!!」


ティエルノのことを”ルノ爺”と呼ぶ。


「ルノ爺様?・・・ほっほっほっほっ・・・」

ティエルノはきょとんとして、笑いだした。


「なんと、前伯爵夫人にそっくりなくらいお転婆じゃのお!」





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