魔塔庁長マシアス
魔塔はいわば魔法を使う人々の組合のようなもの。
魔法を使うには魔塔に登録が必要になる。
魔塔に登録しないと、マナを取られるから。
魔塔に登録することで魔法による弾圧や虐殺を防いでいる。
その長がティアの命の恩人であり、復讐相手の一人でもあるマシアス。
『・・・私は構わないが、鏡を使っての映像連絡は魔力を大幅に使う。古の国のように魔力石があれば良いが、ないだろう?大丈夫かい?』
マシアスが心配そうに言う。
「大丈夫です。考えて魔力を使っていますから。」
映像での通信は基本的に鏡を使う。
要は自分が映ればどこでも可能。
ただ魔力消費が著しく、ティアでも結構疲れてしまうのだった。
「マシアス様。聞きたいことがあるんです。」
『・・・私で答えられるなら答えよう。』
間があったなあ・・・
「・・・バール帝国の皇后がメイラに瓜二つなんです。他人の空似レベルの話ではなくて・・・」
『・・・なるほど。それで?』
マシアスの声音も表情も変わらない。
ただ少し考えて、慎重に答えているのか、言葉の間がある。
「・・・私、帝国に戻ってくるまでそのことを忘れていたんです。」
『うんうん。それで?』
少し笑顔が深くなった気がする。
「帝国を出る直前、私自身幻覚魔法がかけられてました。未だに誰にかけられたかわからないのですが・・・。」
『ふんふん。それで?』
少し面白がる口調に変化した。
「古の国に渡って、幻覚魔法や読み取り魔法を使われても気づけるように訓練もしてきました。」
ティアも少しイラッとしてつんけんした言い方になる。
「帝国に戻って、再度幻覚魔法にかけられたとは思えないし、以前帝国を出たときにかけられたとも思えないんです。・・・なぜ私は忘れていたのでしょうか・・・」
『うーん・・・私にはわかったよ。たぶん賢者たちも知っているんじゃないかな。でも、私からは教えられない。たぶん賢者たちも教えてくれないよ』
マシアスの言葉に、ティアは鏡の縁をつかんだ。
「どうしてですか!?・・・どうして・・・」
『そうだねえ。ヒントを言うなら、今は時期じゃないってことかな。知るべき時が来たら知る』
「どうして今じゃないんですか?」
『今知ってしまうと、たぶん“変わるから”。だから今じゃないんだよ。その時が来たらおのずとわかるよ。』
そこでマシアスが強引に通信を切ってしまった。
ティアは鏡を見つめながらため息をつく。
マシアスは昔から曖昧な答えを好む。
聞いているこちらとしては苛立たしいことこの上ないが。
それに、私の復讐相手のような人なのに・・・なぜか優しい。
そして愛情を感じてしまう。