独占インタビュー
―――やぁ、ごめんごめん待たせたね。
―――え?なに、もしかして起こってるのかい?だからごめんって。
―――21年と3ヶ月と2週間、16時間44分51秒も待ったって?それはどれぐらいなんだい?
―――あぁ待った。当ててやる。そのむすっとした目つきや口調から察するに、君にとってはかなり長い時間だったのかな。
―――あははは。まぁまぁ、落ち着いてよ。お互いに時間も限られているし、早速始めようか。
―――はーん。この先自分はどうしたらいいか、か。あっはっはっは。
―――いや、ごめんごめん。随分と待たせておいて、しかも開始早々でアレなんだけどさ、君もさっきの子と全く同じことを尋ねるんだな、と思って。
―――へー。多くの人間は自分の将来に怯える習性があるのか。別の人類に会う機会があれば、今度そいつにも聞いてみるよ。そうだな。その質問に答えるにはまず、君のことを少し聞かせてくれないか。
―――教えたくないって?おいおい、俺が君のこと少しも知らずに、君の『この先』について答えられるわけないだろ。断片的でいいからさ。
―――ふーん。それで?君は今までそれをしてきて、どうだったの?
―――はーん。楽しかったのか。それはいいね。
―――でも?
―――ただの自己満足で完結してしまうのか。うんうん、それで?
―――え?だから、どうしたらいいのかって?
―――おいおい、君、それ本気で言ってるのかい?
―――あー。なんかさっきの子と同じ質問だけど、悩んでいる方向性が少し違うな。
―――いいかい?よく聞くんだ。まず大前提として、君、というか"君たち"がやっていること全てが自己満足なんだ。経済を回したり、自分が描いた想像を言葉にしたり。他人のために役に立つことを、とか、社会のためにどうのこうの、とかそういうの。地球環境を保全したい、なんてのもね。結局はさ、君たち自身が欲しているのは、そういうのから得られる快感なんだよ。
―――怒るなって。別に君を、"君たちを"煽りたいわけじゃないんだ。でもさ、これ、君も薄々は気づいてたんじゃないかな。
―――でも、なんとなく分かるよ。そりゃ焦るよな。いきなり生み堕とされて、気づいた時には、周りにいる自分と似たような見た目の奴らから選択を迫られててさ。「ここで自分は、何をしていけばいいんだろう」ってなるよな。
―――うんうん。でもさ、俺思うんだけど、君のやってきたことをさ、もうしばらく続けてみたらどうかな。別に、聞いてる限り、君がやっていることは全然恥ずかしいことじゃないと思うよ。一人でもいいから、君のやっていることを肯定してくれる人を探すんだ。
―――え?自信がないって?自信なんて、後からついてくるものだよ。君は、自分のやっていることに満足してるんだろ?じゃあさ、まずはそれを誰かに見てもらいなよ。
―――そりゃあ、その誰かが君を肯定してくれるとは限らないよ。もしかしたら、口にすることも憚られるような罵声を浴びせられるかもしれない。
―――分かるよ。他人の反応とか評価って怖いよな。でもさ、世界中に叫べば、一人でも君のことを肯定してくれる人が見つかるかもしれないだろ?
―――もし、誰からも肯定されなかったら、だって?随分と先のことを恐れるんだな、君は。そんなことは後回しでいいんだ。まずは自分の存在に気づく人が現れるまで、腹から声出して叫んでみればいい。
―――「雨乞い」って知ってるかい?あー、知らないか。君の国には、そんな文化はないんだね。いや、知らないなら丁度いい。説明するよ。
―――ちょっとだけ前に、君と同じ人類から聞いた話なんだけどね、そいつが住んでた国では、晴れの日々が長く続くと、人々は神様に雨の恵みを頂こうと天に向かって必死に祈りを捧げたんだ。ほら、よくある農作物を豊作を願って、みたいなね。それが「雨乞い」と呼ばれる儀式なんだけど…
―――だろ?おかしな話だよな。でもさ、これが驚くことに、その雨乞いをした翌日には絶対に雨が降ったんだよ。
―――嘘つけって?君、人の話を真っ向から否定するのは感心しないな。まぁ、君が顔を赤くしてそんなことを言うのも当然、気づいているかもしれないけど、この話には少しトリックがある。
―――そう。大正解。人々はさ、雨が降るまで雨乞いをするんだ。
―――そりゃ、今の君が生きる時代よりも科学の進歩が乏しかった頃の話だ。彼らは自分たちが住む惑星の映像なんて見たことないだろう。本気で神様を信じて祈りをささげていただろうね。次の日が晴れたら、「昨日は神様も忙しくて、我々に耳を傾ける暇がなかったんだだろう」とか言ってさ。それで、雨が降ったら、神様に感謝するために村全体でお祭りを催して、皆で歌って踊って、育った農作物を少しばかり神様に献上するんだ。
―――都合よすぎ、だって?そうかな。俺は素晴らしい儀式だと思うよ。自分たちの頑張りで、神様が振り向いてくれて、「仕方ないなぁ」なんて言って気まぐれに雨を降らすんだ。だから畑を耕したら、性懲りもなくまた雨乞いの儀式をする。すごく理にかなっていると思わないか?それに、君は今の自分に向かって同じこと言えるのかな?
―――君たちは昔の人たちに比べて、良くも悪くも賢すぎるんだよ。もっと自分のことを愚直に信じてみなよ。雨が降るまで雨乞いをするようにさ、誰かに気づいてもらえるまで叫び続けるんだ。
―――でも…、じゃないよ。君に向けられ得る罵詈雑言は、雨乞いの晴れと一緒だ。都合よく解釈して、また叫べばいい。雨が、君のことを好きだと言ってくれる人が、訪れるまでね。
―――色々と文句を言いたげな顔してるね。でも、もう少し聞いてよ。
―――それで、雨が降ったら……というのは、君を受け入れてくれる人が現れたらさ、そいつと一緒に歌って踊ろうよ。「気づいてくれてありがとう」って言ってさ。「本当にありがとう」って。
―――なんだ、その顔。君はしばしば、複雑な表情をする時があるよね。俺がこうやって話している間も時々そんな顔してるけど。
―――え? 答えになっていないようで、でも何だか納得させられている気がして厭だ? あはははは。それは複雑だな。俺の答え、そんなに回りくどく聞こえたかい?
―――そうだな。俺ももっと、簡潔に答えをまとめられるように、色んな奴らと話して練習しないとな。
―――でもさ、君、質問をする前よりも、少しだけ明るくなったね。
―――うんうん。そうそう。そうやって顔を上げなよ。こうして改めて顔を見ると、君の瞳ってとても澄んでいるよな。
―――え?俺今、変なこと言ったかい?
―――えぇ……、なんだよ。君は笑ったり、泣いたり、感情の起伏が激しい奴だな。
―――え?それも人間の習性なのか。なんだか、忙しいんだな。人間は。
―――まぁいいや。今日はとことん、こんな感じで進めていくからね。じゃあ、次の質問に移ろうか。