WHITE
この部はシリーズとしての間章です。
前作に触れた人のための辻褄合わせであり、本編のエンディングとして書いてはいません。
世界は変わっていった。
わたしだけが変われないままに残された。
凍り付いた地球、人類の生存圏はみるみる縮小した。
物資も建物も不足し、人はますます隣人を疎んだ。
生命活動へのストレスに揺さぶり起こされたかのように、地上の人類の中には人格を保ちながら物理外知覚能力を目覚めさせる者達が増えていった。
生まれたのは差別だけだ。
能力のある者と無い者。
かつて無骨なスーツを着ていた彼らの続きである者たちが、今度は彼らを蔑称で呼んでいた者たちの続きの者たちを見下した。
人の社会は何時まで経っても冷たいままで、その凍えは滅びへの航海を繋ぎ止める最後の楔さえも千切ってしまった。
無能者に地上での居場所は与えられない。
迫害され、追いやられ、いつの間にか暗く狭い奈落の牢獄と囁かれるようになっていた海の底の人工都市へと逃れるほか無かった。
無能者が地上からいなくなってからは、あっという間だった。
能力を目覚めさせた人類同士で争いだしたのだ。
自分以外の生命情報を破壊しようとみんなが躍起になった。
誰一人として、その能力で自分以外の誰かを理解しようとはしなかった。
そうして争ってる内に、世界からは音が消えた。
情報の大海から物理世界へ辿り着くための灯台を失った彼らは、ひとり、またひとりと消えていった。
六〇〇万年以上の歴史を刻み、地球の支配者として君臨した人類は、その繁栄の果てに生命の進化に辿りつき、たったの数十年で地上から居なくなったのだ。
喧噪が排除された世界は、ゆっくりと、傷と汚染を癒やした。
空は青を取り戻し、雨が降った。
コンクリートからかつての縄張りを取り戻そうと、緑が割って芽吹いた。
人が無機質を演出していた世界が、着実に原初へと回帰しようしていた。
人の世界は崩壊した。
そんな世界に、まだ、わたしだけが生きている。
世界は変わった。
地表は太陽の暖かさを謳歌し、緑は風と謳う。
世界は変わったのに、
空はこんなにも青いのに、
こんな世界で、わたしはいったい、誰を愛したらいい?
――――
ra ra rara ……
瓦礫の街に歌声が響いていた。
rarara rarara ……
倒壊したビルに這うツタ、コケ生した壁面。その景色はさながら、文明が大地に食われる様を如実にしていた。
空は青かった。
わざとらしいくらいに、綺麗に澄んでいた。
ra ra rara ……
生物の気配は微塵も無く、まさしくは緑の楽園。
rarara rarara ……
そんな世界に、一人だけが、歌を奏でていた。
髪も肌も真っ白い少女。空を呆然と見つめるその目だけが、ビジョンブラッドよりも鮮やかに輝いていた。
ra ra rara rarara ……
諦念すらも浮かばないその双眸はいっそ魔性が潜んでいて、少女の姿はそこに孤独という事象をそのままに抜き出したかのようだった。
my fair ――
――ギュンッ
突如として、閃光が少女を貫き、宙空へと投げた。
瓦礫にぶつかっても相も変わらず呆けたような少女は身を起こし、千切れた自らの腕を眺め、はたと首を傾げる。
その僅か数瞬後、少女の肉体は損傷を忘れ、失くなったはずの腕は何事も無かったかのように元の場所で常態を続けていた。
紅い双眸が泳ぎ、自らへと銃口を向ける集団を見留める。
ああ、懐かしい。
無骨なヘルメット、ぽってりとした体型はまるで映画に出てくるバイオスーツだ。
彼らは平気な姿の少女を指さして、しきりに慌てている。
そんなに慌てることは無いのだ。
別になんにもしない。
ただ、心を交わしたいだけ。
「こんにちは……」
到底人間が浮かべる物とは思えないほど凄絶に、少女は真っ白に微笑んだ。




