表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

第■■次 特異固体接触実験 進行ログ


 SECURITY CALL!


 施設番号■■重要区画より職員が逃走しました。職員は機密保持のため、当施設からの外出は許可されていません。

 なお職員は当施設での研究対象である『第二種新人類(LUX ANIMUS)』特異固体を拉致しています。

 特異固体は非常に不安定な素体であり、音を媒介にした高次元知覚への誘引現象を引き起こす危険があります。回収班は指定装備とマニュアルを遵守してください。もしも同素体の誘引現象により、高次元知覚を用いた物理世界改変能力を発現させた個体が現れた場合、直ちに該当対象は終了してください。

 

 ―――――


 逃走した職員の行方が判明しました。

 職員は住所ナンバー■■、一般案内用施設(レベル:safety)へ潜伏した模様。特異固体の制御方法を得るために、当局へ勤務している上位メンバーのレポートが目的と思われます。


 CONTROL:『逃走職員が接触しようとしている上位メンバーのレポートを開示できますか?』


 ANSWER:『部分的には可能です。上位メンバーは研究の殆どを紙媒体で記録しています。彼の研究の全貌は殆ど彼の部屋の中にのみ存在しています』

 

 CONTROL:『どうして彼のレポートはデータ化されていないのですか?』


 ANSWER:『有事の際の焼却マニュアルを選択する際に本人の強い要望がありました。もしも彼のレポートを破棄するべきだと言う命令が下された場合、彼の研究は区画ごと燃焼処理されます』


 CONTROL:『質疑終了、制御委員会は焼却マニュアルの見直しを検討します』


  ―――――


 逃走職員の身柄の確保に成功しました。

 なお、職員は接触した上位メンバーによって既に射殺されています。

 

 CONTROL:『どうして逃走職員は絶命しているのですか? 命令は生存状態での確保が望ましいと通達があったはずですが』


 ANSWER:『組織治安部が発見したとき、既に職員は遺体でした。上位メンバーの護身用に配布している小銃による胸部の穿孔が死因です。報告書は提出済みです。なお、奪取された特異固体は上位メンバーが隔離しています』


 CONTROL:『詳細は把握しました、説明は結構。制御委員会は今回の事態発生に伴い、いくつかのマニュアルの見直しが必要と判断しました。上位メンバーの権限および、職員の管理態勢については、特に、です』


 ANSWER:『治安部から言伝を預かっています。制御委員会には今回の事例をしっかり反省し、より安全な制御を提供していただきたい、とのことです』


 CONTROL:『委員会は常にベストを心がけています。心配なさらずとも治安部の仕事とコスト削減は近い将来に必ず実現しますよ』


 ANSWER:『マニュアルに従い上位メンバーのレポートと逃走職員が接触したと思われる人物を焼却します』


 CONTROL:『レポートは提出しなさい。データ化されていないレポートは管理AIに登録されていない可能性があります』


 ANSWER:『レポートの一部は既に焼却済みです。マニュアルは遵守され速やかに実行されなければならない、委員会(自分達)で定めた標語は覚えておいでですか?』


 CONTROL:『何事にもエラーは付き纏います。その乱数に対応する為にあなたや組織の各部署に生身の人間を配置しているのですよ。……しかし、今回の失態を鑑みるに、あなたの仕事はAIにやらせた方が良いのかもしれませんね」


 ANSWER:『辞令があればいつだって異動しますよ。仕事ならあるでしょ? 我が組織であなた達から()()が途切れたことなんて無いんだから』


 CONTROL:『あなたはどうにも我々が直面している問題と責任を正しく認識が出来ていないようだ。よろしい、きっと適切な職位をプレゼントしますよ』


 ANSWER:『楽しみです。ピッツァが食べたい。配給食も協力者のスプラッタもウンザリだ』


 ――――


 特異固体が移送準備中に失踪しました。

 焼却マニュアルは既に実行されました、上位メンバーは移送しています。


 CONTROL:『事態を正しく理解していますか? 最悪は都市を焼却することになるのですよ? あなた一人のペナルティ程度では贖えない。……応答なさい。役割をなさい』


 ANSWER:『ああ、ああ、聞こえているかな? 待て、切断するな、待ってくれ、部外者じゃあない。メンバーだよ。ナラバだ。上位メンバーのね』


 CONTROL:『適切な手順が無ければあなたには我々と交信する権限は無いはずです。今すぐ回線を伝令に返しなさい。処分は追って下します』


 ANSWER:『だけど、彼はなんにも知らない。知っているのは私だけだろう? ツクモ――特異固体が何処へ行ったのか?』


 CONTROL:『事態を把握しているならあなたには報告の義務があります。懸かっているのはこの世界の未来です』


 ANSWER:『それから私たち末端の安泰だね。うん分かってるさ。隠すつもりもない。だって、協力して貰わないといけない』


 CONTROL:『協力?』


 ANSWER:『そう、協力だ。何にもしないで欲しい。見守って欲しい。特異固体は私が預かっていたイレギュラーと暮らして貰うことにした。覚えているかな? 過去、彼女に接触してたった一人だけ死を選択しないで生きることを選んだ固体のことを』


 CONTROL:『固体番号213ですか。あなたの研究は彼の詳しい固体情報の調査でしたね? しかし届くデータは役に立ちそうもないお粗末なものばかり、まさか紙媒体なんて旧世代の遺物で組織を欺いていたとは、ペナルティは避けられませんよ?』


 ANSWER:『構わないさ、きっと今回で私の研究も完成する、確信しているんだ。テオは必ずツクモをこの世界へ孵すだろう。運命を信じるかい? 何かを為す者というのは決められている。神に祝福されているんだ。為すべきドラマを人生に与えられ、世界はその生に纏うことになる。ツクモには世界を変える、テオにはそのツクモに影響する運命が与えられている。私は確信している」

 

 CONTROL:『最近古典文学(シェイクスピア)でも読みましたか? あれらの正体は抽象を印象化するために文言を大袈裟にしたものです。内容(あらすじ)を抜き出せば展開も文脈もそう大したものではないと判断出来るでしょう』


 ANSWER:『シェイクスピアをバカにするな。あれを理解しないのは私たちが文字に秘められた美しさを正しく汲み取れないほどつまらなくなったからだ』


 CONTROL:『戯れ言は結構、特異固体の居場所を白状なさい。アレは危険です。収容しなければなりません』


 ANSWER:『収容ではなんにも進展しない。そして彼女は不要な痛みを繰り返す。君たちこそ戯れ言を止めたまえ、彼女が発現させた不死性をきちんと理解したか? あれこそは彼女が歪められた証拠だ。気づきたまえ、私たちごときが彼女を導けるはずが無いんだ。彼女を導けるのは、もっと純粋な感情だけだ』


 CONTROL:『精神鑑定が必要なようですね。嘆かわしい、あなたには療養と保護の用意をしておきましょう。しかし、研究が行き詰まっているのは事実です。あなたも組織に重要と認められた上位メンバーの一人です。参考までに聞いておきましょう。213との接触で特異固体にはどのような変化がもたらされると?』


 ANSWER:『私たちが求めたものだよ。人類を一つ先にシフトさせるための重要なキー。テオとの接触でツクモは物理世界を自覚する。生きること、命の存在を確かめることになる。我々の与えた苦難によって彼女は既に痛みを知っている。後は意思なんだ。高次元に存在する無数の情報に目移りせずに自身の情報のみに着目出来るかなんだ。テオがそのとっかかりになる。彼女の精神に引っ張られずに、彼女をこの世界へと導ける、彼にはその素養がある』


 CONTROL:『我々には与えられず、我々の管理下にある213だけが与えられるものですか。彼が特別ならばどうしてそのデータを提出しなかったのですか? あなたの研究は組織のものです。あなたには知り得た発見を共有する義務があるのですよ?』


 ANSWER:『データ。データデータデータ! だから私たちは行き詰まったんだ。私が彼に期待したものはデータには纏まらない。限界化した科学ですら観測は出来ないんだ』


 CONTROL:『今度はヒステリーですか。定期診断は終わったばかりですが、今回の事態が収束したなら全職員のストレス検診を臨時で実施することにしましょう。それで、聞きましょうか、あなたは213のいったい何に期待しているんすか?』


 ANSWER:『ツクモを目覚めさせるのに必要なのは純粋な感情だと言っただろう。誰かを想い、誰かの為に心を竦ませながら、触れたいと願う憧れにも似た感情。それは、()()だ』


 ――――


 組織は特異固体と固体番号213の接触実験を容認することに決定しました。

 以降組織はデヴァイス及び治安管理システムを用いた監視態勢を整え、対象の観察をします。

 当実験は対象の自主性によって進行します。

 当実験で対象に接触することは極力禁止します。

 当実験は、適宜、刺激を与えながら進行します。刺激内容は担当職員上位メンバーの指示を参考に決定します。

 当実験中に物理世界への不安定な影響力を手に入れた固体が発生した場合は、即座に終了してください。


 ――――


 対象が訪れた住所番号■■大型ショッピングモールにて、特異固体が暴走しました。

 組織の管理する社会福祉に従事する協力固体複数体に高次元知覚を用いた物理世界改変能力への覚醒の兆候が認められたため、終了しました。

 なお、特異固体の暴走は213の接触によって沈静化しました。その際、特異固体の挙動に変化がありました。


 ――――


 特異固体に自発的な発言、行動と言った大きな挙動の変化が認められます。

 213には社会及び、当組織に対して反抗的な感情の発露が認められます。


 ――――


 観察対象が、与えたマンションを放棄しました。

 現在、観察対象は富裕区画の路地にて浮浪生活をしています。拡散レンズを用いた監視態勢に支障はありません。


 ――――


 213に脱水症状と衰弱が認められます。

 このまま放置すれば213が終了することも有り得ます。


 ……


 指示に従い、現在の監視態勢を継続します。


 ――――


 213が不可解な回復をしました。飲食はしていません。物理世界改変能力への覚醒の可能性がありますが、精神状態は安定しているように見えます。


 指示に従います。協力個体を用いた刺激を実行します。


 特異固体に暴走の兆候は認められません。213が物理改変能力を用いる気配も見られません。

 観察対象は東南方角、サブストリートを走っています。


 指示に従います。213の覚醒状態を確認するためにドローンを用いて刺激を与え続けます。


 対象は集荷車両を追跡しています。


 指示に従います。対象を誘導します。


 対象はショッピングモールへ入場しました。実験は問題なく進行しています。対象はリニアレールに乗り込みました。

 乗車の際、特異固体に抵抗が見られましたが、暴走の兆候は以依然見られません。



 指示に従います。車両にあらかじめ配置した協力固体のバッグのロックを解錠し、終了指示をします。


 指示を連絡中。

 指示を連絡中。

 指示を連絡中。

 …………。 


 協力固体が指示に従いません。




 指示に従います。

 配置した全ての協力固体は終了します。

 次に停車する駅で瀕死状態の213と、特異固体を専用装備を装着した部隊で回収します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ