変化
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『――管理者があなたのアクセスを許可しました』
『WELCOME TO USER』
『当サイトのデーターをコピー、筆記等の手段で持ち出す行為は厳罰の対象となります。違反者は例外なく処罰されることになるでしょう。厳重な管理と責任を準備してから取り扱いをしてください』
記録日 ■■■■/11/9
『実験目的 対象異能適性体の死に対するトラウマの構築による自傷行為の克服』
(※『異能適性体』は研究初期段階に命名された仮称です。現時点の研究成果により、彼らの構造、能力のすべてが現人類の延長線上に拡張されたものであることが判明しています。『異能』という単語は相応しくはありません。近い未来に別の呼称が与えられることでしょう。)
(※当実験に協力する対象個体は特別な個体です。同じ内容の実験を行い同様の成果を期待するには、同じ特性を持つ個体を選出する必要があります。また、この特性を持つ個体は非常に希な個体であり、損失を避けるために、十分な注意と安全性を確認してください。)
(※実験に協力する対象個体は、当実験で発声を媒介にして、周囲の人間の異能適性を引き上げる現象を起こすことが判明しました。これには、全く適性が無かったはずの人間を適性者に変えた事例も確認されています。もしも当実験を再検証する場合は、協力する異能適性者意外は、防音装備を装着のうえで接触をしなくてはいけません。)
(※当実験はすべて防音装備が完備されている状況を想定しています。防音装備を外した状況で実験を行うことは異能適性体への強制移行、および深刻化のリスクが伴います)
『実験手順概要』
実験の開始前に、対象の個体を別の個体と複数回面談させる必要があります。
面談は対象の個体が面談させた個体に呼びかけを行い始めるまで続けます。
この際、対象の個体と接触させた個体に、物理接触を伴わない周囲への干渉の予兆が見られた場合、直ちにその活動を終了してください。精神が物理世界への依存を伴わないまま干渉が行われ場合、大規模な被害が予想されます。
一度のカセットで面談させる個体の人数は対象の個体が記憶していられる程度です(個体によって変動はありますが、5~10人程度が望ましいでしょう)。
面談の終了後、対象の個体と面談させた個体はそれぞれ別の部屋へ移動させ、休みの無い監視をしてください。
対象の個体を管理する部屋は特別な準備が必要です。
対象を管理する部屋は横、縦、幅ともに三メートル程度の立方体。すべての壁、床、天井を鏡で覆ってください。
対象の個体を管理する部屋からは、あらゆる装飾、家具、特徴を排除してください。監視用のカメラも同様です。部屋の中からは決して目視できない状態での監視体制が必要です。これには対象の衣服も含まれます。
シンプルな構造の椅子を一脚だけ持ち込むことが出来ます。
部屋の中で、対象が対象自身にのみ注目する環境を作り上げてください。
部屋に連れてきた対象には椅子に座ることを指示して、実験の進行係は直ちに退去してください。
部屋への入出は、日に一度、食事と対象の排泄の清掃をする時のみ許可されます。それ以外は例外的事象を除き、対象へ接触することは許されません。外部から監視を続けてください。
対象は外部からの接触が皆無になると、呼びかけを始めます。
別の部屋に隔離した面談させた個体の中に、対象からの呼びかけに反応する個体が現れます。面談をした個体が自傷を実行することが可能な状況を準備して拘束を解除してください。
個体の死亡が確認できたら、再び対象の呼びかけに反応する個体の出現に備えて待機してください。
すべての個体の死亡が確認出来たら再び面談を行います。
対象の個体が面談した個体の死亡時に、監視者が視覚的な反応を確認出来るまで続ける必要があります。
反応を確認出来ない場合は手順を繰り返してください(当実験では、呼吸の乱れ、全身の発汗、落涙のような生理現象が確認出来ています)。
対象の個体に反応が確認が出来た場合、死に対するトラウマが定着しているか確認をするために、対象の前に自傷行為が行えるキットを用意してください。
対象の個体がキットを用いた自傷を行おうとした場合、直ちに対象を拘束し、面談からの手順を繰り返してください。
『補足』
当初の実験目的の通り、異能適性体の死亡への感応体験の連続と、自身の肉体の完全を確認させ続けることで、対象の個体に死に対してトラウマを構築することに成功しました。
次に予定していた対象の個体の協力を要した実験の進行中に、対象の個体に新たな異常性が発現していることが確認されました。
この事故により、当直の研究員および、研究に協力する異能適性体を合わせた■■名に被害が及びました。
対象の個体の異常性を明確にするための検証実験を行います。
『実験手順概要―2』
対象の個体を、対象の個体を中心に周囲3キロ圏内が無人な場所へ移動させてください。
対象の個体の周囲3キロ圏外からライフルによる狙撃を行います(無人遠隔機による代替が可能と思われるが、この段階の精神がどれほどのストレスを許容できるか不確かなため、意識外からの狙撃が適切と判断されました)。
医療態勢を万全にした上で、待機してください。
対象個体への狙撃は殺傷力を調整した弾丸を使用します。
頭、首、心臓、内臓のような致命箇所への狙撃は避けてください。
狙撃後、対象を注意深く監視してください。
対象の肉体が異常な治癒能力を発揮しない場合は直ちに待機させていた医療チームを出動させてください。
対象の肉体に異常な治癒能力が確認された場合は、実験のプロセスは終了します。対象の個体が自力で平静な状態に立ち戻るまで待機した後、対象を回収してください。
『補足―2』
当実験により、対象の異常性は明確になりました
サンプルと監視記録による調査の結果、対象の個体の肉体があらゆる損傷、劣化を克服し、常態を維持し続けることが確認されました。
切り離された肉片は消失し、対象の個体の肉体の一部として常態を継続します。
この現象を物理的な論拠で語ることは無意味だ。
それでも説明を求めるのなら、我々が彼女に与えた恐怖は彼女の魂を凍り付かせてしまったとでも言っておこう。
彼女は今後、あらゆる手段を用いたとしても、損なわれることはない。そう言う現象に、彼女はなってしまった。
以下は実験時の資料、記録です。
画像データ#1
画像データ#2
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動画データ#1
動画データ#2
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