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働きすぎなガードメンズ ~人を守る使命そして哀愁の果てに~

 深淵の闇が蔓延る洞窟にある砦にて彼らは主を守るために24時間体制の警備を強いられていた。常に闘いが勃発する戦場、そんな劣悪な環境でも平然と立つその後姿からはむしろその場所が我らの縄張りだと主張しているようにも見える。誰に何を言われようとも何をされようともひるまず怯えず驕らず甘えずに与えられた場所を守り続け、栄誉も勲章も賞与も出されないにも関わらず暗闇でひたすら闘い続ける姿はまさにプロフェッショナルと言えよう。彼らこそ真の英雄と呼んでも遜色ない。彼らは膨大な数の凶悪で化け物じみた侵略者との戦いに常に備えており、日頃から鍛錬を欠かさず肉体を磨き上げ続けていた。その結果、彼らはすさまじい能力を有した。その能力とは、生命の源を奪われぬ限り、いや、奪われてもなお蘇る可能性を秘めているという不死鳥のごとき力であった。そんな彼らを巷では畏怖を込めて様々な名で呼ばれた。不死身の兵隊、フェニックスの傭兵団、等価交換を無視する無敵の錬金術師衆など…この物語はそんな彼ら、今回のところはフェニックスの傭兵団と呼ぶことにするとしようか。そのフェニックスの傭兵団の見えざる闘いの日々の一部を明らかにした物である。


「隊長、今日もお疲れ様です」

 洞窟の出入口に最も近い見張り番を務める新米兵士が新鮮な空気を一身に浴びながら挨拶という名の念を飛ばす。

「ああ。今日もいい天気みたいで何よりだ。というか吾輩の周辺は常に真っ暗だけどな」

 隊長は気さくな笑みを浮かべてテレパスで返す。洞窟の最深部で仁王立ちするこの男がこの砦の最高責任者であり最高司令官でありしかも最強の戦士と名高い不死身の隊長である。フェニックスの傭兵団の戦士らは全員が一蓮托生の儀式と呼ばれる秘技を用い、洞窟内ならばどんなに離れていてもテレパシーという伝令法で会話が可能となっていた。

「最近は主が何やら防護壁の魔術の類を使用してくれているみたいで侵略者が滅法減りましたぜ。まぁ、楽と言えば楽ですけれども体がなまっちまいそうで困りものですわ」

 新米兵士を後ろからサポートをする中堅兵士が横から口を、もとい念を挟む。

「気は抜くなよ。こちらからは何とも言えないが、今回の外敵は恐るべき連中らしい。古から主に仕える吾輩の記憶がたしかだとするならば、我らが主がこんなにも長い期間魔術障壁を使用したことは一度たりともなかったはずだ」

「主も心配性ですよねぇ。俺らをもっと信用してくれてもいいのにさぁ」

 話を聞いていた中核を担うベテラン兵士がおどけた様子で念を飛ばした。

「口を慎め。主がそれだけ警戒しているという事は、とてつもなく強大で極悪な未知の生命体ということなのだろう」

 隊長が真剣な眼差しを周囲に向けた。毎年冬になるとどこからともなく地獄の番犬を名乗る怪物どもが大量の軍隊を引き連れこの洞窟にやってくる。そして壮絶な戦いが繰り広げられる戦場となるのだが今年は違った。いつまでたっても地獄の番犬どもはあらわる気配が微塵もなく現在に至る。稀に番犬どもの鉄砲玉が紛れ込んできたが、少数規模の悪漢など苦も無く対処してしまえるので何の問題にもならなかった。

「そういえばちょっと前に殴り込みに来た、変な冠を被った奇天烈な輩はなんだったんでしょうか」

「さーな。今までに見たことも無い連中だったな」

「あぁ、あの気味の悪い奴らね。あっしも初めて交戦して相当手こずったからよく覚えてる。あんなしぶとい怪物みたことねぇなぁ」

 部下たちの念のやり取りに耳を傾けて隊長は考える。以前に何度か少数で砦に侵入した未知なる怪物。今まで戦った化け物どもの変異種だと考えられるが…おそらく主が防壁を作ってでも我々と交戦させたくない相手だと推察できる。つまり奴らが地獄の番犬をも凌ぐ新たな脅威という事なのだろう。だが…未だに進化という名の変異を繰り返して勢力を増しているのは理解できるが、それはやっかいな番犬の連中も同じはずだ。なのに何故ここまで冠の怪物のみを警戒をするのだろうか。わざわざ主自らお手を煩わせるほどでもなかろうに。

 禅問答のような問いかけが続き謎が謎を呼ぶ状況に辟易とするもフェニックスの傭兵団の日常に変わりはなかった。彼らは主を守る最前線の戦士として持ち場を離れることは決してない。持ち場を離れる時があるとすればそれは絶命した瞬間のみである。

 戦士たちが意地でもこの場所を百鬼夜行の魔の手から守ると決意を固めようとしていたその時だった。

 突如として緊急警戒の念が飛びかう。それは見張り番を務める新米兵士からの伝令だった。

「すいません隊長! やらかしてしまいました!」

「何があったか説明しろ」

「実はその。冠の怪物の話に夢中で気が付いてなかったんですが…一歩、たった一歩だけですよ? 洞窟の外に足を踏み出してしまいました…本当にすみませんっ!」

「馬鹿野郎ッ! 何してくれたんだ。洞窟の外には一歩たりとも出るなと主からの命令だろう!」

 隊長への伝令を聞いていた中堅兵士が新米兵士に怒鳴り散らす。

「落ち着け。主は慈悲深いお方だ。命までは取らないだろう」

「これが落ち着いていられますかってんだ。新米一人のミスで俺たちまでカマイタチの刑ですぜっ? やってられるか!」

「新参者どもはこれだから困る。俺がガキの頃は、掟を破った輩は肉体ごと魂を根こそぎ持ってかれるのが当たり前だったんだぞ。まったく…主も甘くなったもんだ」

 ベテラン兵士はゆったりとした様子でニヒルな笑みを浮かべ中堅兵士を諭す。終わりなき戦で培った経験、そして主との厳密な契約を守り続けた男の凄味がオーラとしてにじみ出ているのを中堅兵士は感じ取り黙らざるを得なくなった。

「フェニックスの傭兵団は死ぬも生きるも一蓮托生。一人のミスを皆で背負いかばいあう。それが掟だ。確かにカマイタチの刑は恐ろしい。本音を言えばこの吾輩も怖い。だがたとえ主から罰を受け、傷だらけになり疲弊したとしても掲げた『誠』の字の元に笑いあい支えあって戦い続けるのが吾輩らの理念。忘れるべからず」

 凛とした様子で堂々と正面を見据える隊長の念を受け取り感動を覚える兵士たち。その場にいる誰もが覚悟を決めるのに時間は不要であった。

 その刹那、けたたましいうなり声が洞窟内に響き渡ってきた。兵士たちは思わず身構える。

「ヤレヤレ。おいでなすったぜ。今日もご機嫌斜めみたいで何よりだ」

 ベテラン兵士が皮肉交じりにジョークを飛ばした。

「総員黙祷!」

 隊長の声が響き渡ると同時に周囲の一切のものが凄まじい嵐に巻き込まれ、次々と兵士たちを切り刻んでいった。




「最近、マスクを付けっぱなしだったから油断してたなぁ」

 都内のマンションの自室、鏡の前で鼻の穴に鼻毛カッターを突き刺している女子高生が独り言をつぶやく。カマイタチの刑を執行され戦力をほとんど奪い取られたフェニックスの傭兵団たちの戦いは主と共にこれからも続くのだった。


                                  




 

 




はたらく細胞や白血球王さまのネタをモチーフにしてみましたが、如何でしたでしょうか。

相も変わらず、気分の赴くままに筆を走らせておりますので、誤字脱字チープな表現がてんこ盛りかと思われますがご了承くださいませ。ではまたどこかで。

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