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069 見舞いする魔術師

「これが……公国?」


「わかっちゃいたが……これは酷えな」




 総勢二百を越える冒険者が一堂に会し、足並みを揃えてメラクを発つこと三日後。

 隊商キャラバンを交え、一個大隊と化した救助隊は、我が目を疑うような光景を目の当たりにしていた。



 外敵の脅威から公国を守っていた堅牢な壁は大地に突き刺さり、瓦礫と化した広大な荒野がそこに広がるだけ。

 確かにそこには公国があったのだと、微かな気配を残して。



 

「冒険者の皆様、メラクからわざわざ……ありがとうございます」




 先遣隊が設置したであろう簡素な野戦病院から、一人の女性が歩いてきた。どこかで見たことのある風貌の彼女は、薄汚れたドレスを引きずって立ち止まった。

 紅色の彼女は、今にも壊れてしまいそうな顔を懸命に引き締めて、声を震わせた。




「私は、レイリ・カルロフ。亡くなられた父上――シュナイザー・カルロフの代わりに私が指揮を任せられております」










 先遣隊が設置した野戦病院に向かったレオとアマリリス。生き残った負傷者の治療は大方終わっているのか、病院内はそれほど慌ただしくなかった。



 だが、一人だけ――重症を負ってまだ危ない状態の者がいると聞いて、レオはアマリリスを連れてこの場までやってきた。

 



「……あぁ? どっかで見たことがある顔だな」


「お久しぶりです、ベティさん。武道会の時は、お世話になりました」




 複数の治癒魔術師に囲まれた、鮮やかな赤髪の女性。椅子にふんぞりかえり、血の滲んだ包帯を至る所に巻いた彼女は、鋭い目つきでこちらを見やり、




「……あー、てめえ……はん、来やがったな【燃える黒(シュヴァルツ)】」


「それ、ベティさんが命名したって聞きましたよ」


「あたしが一番近くで観てたからな。あたし以外につけさせねえよ」




 左手をひらひらさせて、治療を中断させるベティ。

 魔術師の体で見えなかったが、ベティは……右腕を失くしていた。




「傷……深いんですか?」


「話にきく限りな……寄せ集めの術師じゃあ、すぐには完治させられねえとさ」


「申し訳ございません……他にも患者がいますので、丸一日つきっきりっていうのは」


「責めてねえよ、悪りぃな。――今日はもう十分だ、他のところをまわってくれ」




 しかし、と狼狽える治癒術師たち。包帯の隙間から苛立たし気な表情を見せたベティが、手をひらひらさせると、渋々その場から立ち去っていった。




「……んで、かっけえ異名に文句でもつけに来たっつうわけでもなさそうだな?」


「当たり前でしょう、重傷者相手にそんなことしないですよ」


「じゃあんだよ? 土産の一つもねえみたいだが?」


「いえ、彼女が土産です」


「あん?」




 視線を、レオから隣のアマリリスに移したベティ。

 血のように赤いドレスを娼婦のように着飾った、黒髪ツーサイドアップの女。

 露出度の高さとその美貌なら、まいとし武道会で審判レフェリーを務めているアルカが見たら逃げ出すレベルだなと評価して、また視線をレオに戻す。




「……おいおいおい、おいおいおいおいおい……あたしゃ、女に興味はねえぞ?」


「たいちょー? この人ぉ、私のこと娼婦かストリッパーかなんかと勘違いしてません~?」




 心外ですぅ、と唇をすぼませたアマリリスは、両腕でその巨悪な双丘そうきゅうを挟み込みながらレオを見上げた。




「ベティさん、こう見えても腕のいい術師なんですよ」


「こう見えてって、たいちょー? どう見えてるんですかあ? マリィのこと、どう見えてるんですかあ? ()()見てるんですかあ~?」


「すいません、ちょっと()()ですけど腕は確かなんで」


「たいちょー!? アレってなんですかちっさいですかまだ足りませんかあ!?」




 やんやんやんとくびれを淫らに曲げながらレオの胸に擦り寄る黒髪の女を見て、ベティは嘆息した。




「娼婦じゃねえならなんだ? どっから連れてきた?」


「俺の仲間です。しばらくはマリィをそばに置いておきますので、治療を受けてください」


「どもっ、たいちょーの第一夫人です☆ アマリリス・スィリ・クレア・フォン・カーディナリス、よろしくね♡」


「…………」



 …………。

 すっと、再びレオに視線を戻したベティが、色気を振りまいてかわいこぶるアマリリスを指さして、




「こいつ、殺すかもしれない」


「う……腕は、確かなんです……ちょっと……性格に難がありますけど」


「たいちょー? 私を壊したの、たいちょーですよねえ? 責任とってくれるんですよねえ? マリィの処女奪っておいてなに貶してるんですか落としますよ?」


「…………」


「おまえ……なんか弱味でも握られてんのか?」




 押し黙ったレオへ不憫そうな視線を送ったベティだったが、仕方ないと表情を崩した。




「わぁったよ、アマリリスつったか? よろしく頼むな。今はゴブリンの手でも借りたい状況なんだ」


「ゴブリン? 私をいま、ゴブリンでたとえましたか?」


「マリィ? 治療に戦斧は要らないから、な? 相手、怪我人だから……な?」




 なんとかアマリリスを宥め、ベティの治療をさせることに成功したレオは野戦病院を出た。




「うまくやってくれることを祈るしかないな……」




 そこまで悪くない相性だとは思うが、いかんせんアマリリスは癖が強い。仲良くやってくれと願いながら外に出ると、




「レオ、お呼ばれよ。Aランク以上は集まれってさ」




 野戦病院の手前で、サングラスをかけたエヴァが迎えに来た。

 



「アマリリスは大丈夫そう? うまくやれるかしら」


「大丈夫……だと信じよう」




 微妙そうな表情を浮かべたレオの背中を叩いて、エヴァが天幕へと先導した。



 



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