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068 出発する魔術師

 明朝。まだ陽が出始めた時間帯に目覚めたレオは、隣のエヴァを起こさぬようにベッドを出た。

 散乱する下着を避けて、運動着に着替えたレオは庭に出る。




「ん。おはよ」


「おはよう、ヌゥ。きょうも頼む」




 毎朝、この時間帯はヌゥに稽古をつけてもらっていた。



 いつも履いているロングスカートではなく、鍛錬時にしか見られないミニスカメイドのヌゥは、体を上下に倒したり逸らしたりして、「んっ、んっ」と艶かしく吐息を吐いていた。



 いつものことなので、レオは気にしない。

 ふりふりと振られる小ぶりなお尻にも、チラリと見え隠れするへそにも気を留めない。




「剣を媒介にした魔法行使が案外難しくってな。ヴィンセントさんが使ってたんだが、これをモノにできれば間合がさらに伸びると思うんだ。けど……」




 木刀を手に取ったレオが、魔力を流す。

 木刀の柄から切先まで魔力で満たしたはいいものの、




「あの時はうまくいったんだが、ご覧のとおりてんでダメでな」




 刀身が炎に覆われたかと思うと、灰へと変わっていく木刀。メラメラと真紅の炎が燃えたぎる。




「どうすればいいと思う? 木刀が燃えないように火力を調整してみても、時間が経つと灰になってしまうし耐久力が低いんだ。他に何か、いい方法はないだろうか?」




 困ったようにヌゥへ助けを求めるレオ。

 腕を組んだヌゥは、うんうんと頷くと、レオに光明を差し出した。




「炎に耐えられる剣で練習すればいい」


「――おおっ!! そ、そうだ……! そうすれば、火力を調整しなくとも炎を行使できるッ!」


「ん」


「さすがだ、ヌゥ! ありがとう!」


「ん。頭を撫ででもいい」




 ヌゥの要望に応えて、白髪を撫で回すレオ。その顔は、希望に満ちていた。

 なんでこんな単純なことに悩んでいたなんて、かわいい。口には出さないが、表情は物語っていた。




「——というか……今更、剣を媒介に魔法を使わなくてもいいのに」




 つぶやいたヌゥの意見は、至極真っ当なものだった。



 卓越した空間把握能力を持つレオは、ヌゥとの修行の結果、半径二十メートル圏内なら0.1秒にも満たぬ刹那で敵を燃焼させることができるようになった。



 故に、炎を剣に纏わせ間合いを伸ばそうとしなくとも、既に半径二十メートという間合を確立しているのだから、やるだけ無駄である。

 とはいえ、とても楽しそうにしているから無碍にはできなかった。




「レオ……もう、ヌゥから教えることは何もない」


「そんなことはない。ヌゥ、おまえはまだ俺に何か隠しているはずだ」


「気のせい。それ以上強くなられると困る」


「俺はもっと強くなりたいんだ。まだまだ満足できない」


「……貪欲。でも、そういうところも好き」




 ヌゥもまた木刀を手に取って、水平に構えた。

 



「ヌゥの全て、知りたい?」


「ああ、知りたい」




 レオが踏み込んだ。一息でヌゥに肉薄し、木刀を振り上げる。




「なら――ヌゥを孕ませて」


「っ!?」




 動揺。

 瞬間、キレを失った木刀の一振りを払ったヌゥが、その場でブリッジ。両手を芝生につけると同時に両足を離し、手首にスナップを利かせ、勢いよく地面を突き飛ばした。




「ふがっ!?」


「んあっ!」




 結果、レオの顔面に弾丸のごとく飛び込んできたヌゥの股座またぐら

 ミニスカートの中に顔面を突っ込ませ、鼻と口のあいだにヌゥのぬぅが押し付けられながら仰臥した。



 両頬を挟み込む、健康的な太もも。

 見た目にそぐわず、欲情をそそる黒色パンツ。

 漂ってくる淫らな芳香ほうこうに鼻を埋めながら、レオは脱出しようと手を動かした。




「ぁっ、ちょっぅと、レオ――鼻が、んんっ!」


「んぅ!? んぅ!! んぅぅっ!?」


「あっ――」




 体勢を崩したヌゥが後ろに倒れ、ソレに手をついた。

 びくんと、ヌゥの手のひらで踊るレオのれおに、ほのかに顔を赤くしたヌゥが、口角を釣った。




「レオ、んっ……ここ、なに入ってるの、ぁぅ!」


「んがっ! んぅっ!!」




 指先で円を描いたりなぞったり。レオのれおを弄ぶヌゥから抜け出そうともがくも、彼女の黒色パンツが窒息を誘う。

 わずかに、それが湿ってきたのは気のせいだと信じて、レオは必死に手足を暴れさせた。

 



「!?」




 ふにゅう、という感触が右手を通して伝わった。焼き立てのパンのようなやわらかさ。



 ああ、やっぱり大きいな――率直な感想が頭をよぎって、ついで左手がヌゥに掴まれ、にゅゅう。



 右手同様の柔らかさ。

 両手が幸せだった。

 



「ん、積極的。好き、レオ。レオは貪欲でなくっちゃダメ」


「―――」




 よし、もうどうでもいいや――

 理性という壁を自ら取っ払って、レオは黒色パンツへ――――





「兄さん――わたしの敷地内で、朝からなに盛ってるんですか?」





 朝露よりも冷たい義妹の声に、理性が警鐘を鳴らした。

 サクッと何か、鋭利なものが芝生に突き刺さる音を聴いて、レオは生唾を飲み込む。




「最近、お肉の解体にハマってるんです。兄さん、どこの部位が好きですか? よかったら食べさせてあげますよ。――生で」




「兄さん、好きでしょ? ナマ」と、不気味に笑って、フランは縁側から消えていった。




「……やっぱり、ナマが好き?」


「好き―――じゃない、退けろヌゥ殺されるぞ!」




 案の定、芝生に突き刺さっていたナイフを見て顔を蒼白にしたレオは、ヌゥを体から無理やり退かした。







「兄さん、もう少し抑えてください。聖女様が大変なことになってるっていうのに……分かってるんですか?」


「……すまん」




 ジト目のフランからリュックを受け取って、ぐうの音も出ないレオは平謝りした。

 



「ほんと、あんたたち危機感なさすぎなのよ。これから相手取るのはあの魔王なのよ?」


「エヴァさん、昨日は激しかったですね。どうしたんですか? いつもは気を使って声を押し殺してくれてるのに」


「―――」


「エヴァ、危機感が足りない」




 そっと、明後日の方向を向いた金髪ツインテールの美女。胸元に差していたサングラスを装着して、二人の視線から逃げた。




「エヴァさんもヌゥさんも、こういう状況なんですから弁えてくださいね? 兄さんもですよ?」


「「「……はい」」」


「わかってくれればいいんです。わたしは戦力外通告(居残り)ですし、とやかく言える立場じゃないんですが」




 通称、聖女奪還戦――ギルドマスター命名――にフランは参加できなかった。

 理由は、ランクが低いから。

 エヴァやヌゥ、アマリリスに関しては仮ランクとしてAに昇格しているが、フランは与えられなかったのだ。



 だから、フランはメラクで待機ということになった。

 



「その、フランの分も頑張ってくる」


「すぐに帰ってくるから、ジッとしてなさいよ?」


「ご飯もしっかり食べる」


「大丈夫ですよ、少し寂しいですが……みなさんのことを、新しくなった家でお待ちしてますから」


「そういえば、明日から改装だもんな……楽しみだ」




 すっかり忘れていたが、フラン宅をレオの拠点へと改造するための工事が明日から始まるのだった。




「ということは、明日から宿屋暮らしか。気をつけるんだぞ? あまり夜は出歩かないようにして……」


「そんなに心配ですか?」


「ああ、もちろん。できるなら連れて行って俺のそばに置いておきたい」


「ふふ、ありがとうございます。大丈夫ですよ、兄さん。わたしは、何があっても兄さんのものですから」


「何かある前提の話やめてください!」


「レオが泣きそうになってる」


「まあ……気持ちはわかるけど……」




 苦笑するヌゥとエヴァに肩をぽんぽん叩かれて、レオは目元の涙を拭った。




「――じゃあ、いくよ」


「はい。いってらっしゃい、みなさん」




 フランの屈託のない笑顔で見送られ、玄関のドアを開けようとしたその時だった。




「あっ、兄さん――忘れ物です」


「ん?」




 振り返ると、視界いっぱいにフランの顔が飛び込んできた。

 唇をむヌルっとしたやわらかい感触。

 すぐ離されたその感触に名残惜しさを感じつつ、レオは鼻先のフランを見た。

 両肩に手を置いて、おでこをくっつけさせたフランが頬を朱に染めて、ぎこちなく笑った。




「……いってらっしゃい、兄さん」




 よほど恥ずかしかったのか、視線を斜め右に移しながら、レオにしか聞こえぬ声音でいった。

 そのあまりにも可愛らしい姿に射抜かれたレオは、もう一度フランの唇を求めた。




「――おっはようございまーすぅ。みなさーん、きょうから旅行気分でたのしみま……あれえ? …………たいちょー、朝から危機感足りなさすぎません?」




 三人の女子に痛々しい視線を送られながら、フランと長いながいキスをたのしんだ。




 

「おもしろかった!」



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