007 助太刀する魔術師
サナダの町を出発してから一日が経った。
ひたすら西南へ向けて歩きつづけ、旅は順調に進んでいた。
「結構進んだな。もうすこし歩いたら休憩するか。そろそろ昼時だ」
道中、魔物に襲われることもなかったが、商人ともすれ違うことはなかった。
もし馬車が近づいてきたら、相席させてもらおうと考えていたのだが、こういう時にかぎって商人も通らない。
「公国で一大イベントをやるってなったら、こぞって商売しに行きそうなんだが。他にも観戦しにとか……」
馬車のみならず、歩いているひともいない。
べつに危険な魔物が出るというルートではない。比較的、安全なはずの道だ。
「もしかして、もう始まってたりするのか……? それはそれでマズイぞ。もしそうなったら、時間を無駄に浪費することになる」
なんとしてでも魔道武闘会に間に合わせたいのだが、いかんせん、確認する手段がない。
「こればかりはたどり着いてみるまでわからないか。走るか――ん?」
その時だった。
道を外れた山林の奥で、風に混じって血の匂いが漂ってきた。
「……魔物か?」
魔物の血、だろうか。それならそうでいいのだが、もし人間だとすれば……。
本来ならもっとひとがいてもおかしくはないルートなのだ。
何かトラブルがあって山林をさまよい、怪我でもしていたら……。
その結論に至った瞬間にはもう、山林へと駆け出していた。
気のせいならいい。魔物同士の抗争ならまだ安心して旅を進められる。
けれど、そうじゃない可能性があったら。
「――魔物じゃない。なるほど、そういうワケか」
視界に入ってきたのは、複数の男たちに囲まれた少女の姿だった。
「盗賊が近くに根城を張っているから、この道を避けているのか。納得だ。しかし、あの子はどうしてこの道を……? 俺とおなじで知らなかったのだろうか」
レオと同年代にも見える金髪ツインテールの少女は、囲まれているというのに余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》とした表情で三叉槍をかまえていた。
「……なんでサングラスをかけてるんだ? オシャレか? 山の中は薄暗いから、逆にアドバンテージを与えている気がするぞ」
状況がわかっていないのか、それとも腕に覚えがあるのか。はたまた危機感がないだけか。もしくは何か理由があるのか。
とりあえず、助太刀することを決めたレオは、様子をうかがっていた木から体を離した。
と同時に、少女が動きはじめた。
「――いいわよ、教えてくれないってならここで殺すわ」
「舐めんなよガキが、こっちは家族養ってんだ! そう簡単にやら――」
「ダッチ!? ちくしょう、何してくれてんだゴラァ!!」
「喋ってる暇あるなら構えなさいよ三下っ!!」
「ぎゃばらッ!?」
「………」
助太刀するまもなく二人の男を三叉槍で仕留め、残りを牽制する少女。かなりの手練れのようで、助ける必要を感じなくなったがせっかくなので加勢した。
「クッソぶっ殺してや――ぎゃあああああっ!?」
「な、なんで燃えてんだおまえッ!?」
「待てよ、おまえも腕がもえ――がああああああッ!?」
男たちの背後を歩いていき、半径五メートルに到達した瞬間。
盗賊たちの体が燃え上がり絶命した。
「すまん。なんか助けるまでもなかったみたいだ」
「動かないで。あなたは何者? 助けてくれたってことは、盗賊ってわけじゃなさそうだけど」
「俺は冒険者だ。公国に向かう途中で、偶然見つけたんだ」
冒険者のタグを見せる。それを確認した金髪サングラスの少女は、三叉槍を降ろした。
「青色ってことはCランク……よね?」
「ああ。Cランクだ」
「にしては卓越した魔法技術のようだけど。空間把握っていうのかしら。あなた、学生?」
「いや、なにも。特別な勉強をした覚えはない」
「ふぅん? まあいいわ。こんな山林の奥地で、偶然ってことばで片付けるのはすこし無理があるけれど。盗賊ってわけじゃないなら問題なしよ」
どうやら警戒は解けたようだった。
金髪の少女はサングラスを外した。紫色の、宝石のような瞳があらわになる。
……魔眼の類をもっているわけではないようだ。
「私はエヴァ・グリーン。公国に向かってるってことは、魔道武闘会めあて? もしかして参加予定かしら?」
「ああ、参加する予定だ。きのうその話を聞いてな、急遽参加を決めたんだ」
「なるほど。私も参加するために向かっていたのよ」
「そうだったのか。その途中で、盗賊に襲われていたのか?」
「いいえ。公国に向かう途中で盗賊に襲われた形跡のある馬車を見つけたのよ。損害が激しくって、馬車自体は放置されていたんだけど、積荷と女の子がひとり連れてかれたようで……」
「もしかして、その子を助けるために?」
「ええ。ご両親がね、死ぬ間際に言ったのよ。フランを助けてくださいって。それだけ言って、亡くなったわ。――まったく、困っちゃうわよ。こっちは公国に向かわなくっちゃいけないってのに」
「………」
吐き捨てたエヴァの瞳には、純粋な怒りが宿っていた。
魔道武闘会に参加できないかもしれない――という怒りではなく、二人の人間が無慈悲に殺されていったことに加えて、一人の少女を奪った盗賊に対しての、怒り。
死の瀬戸際に、己のことではなく子を想う、まさに親の鏡だろう。
だからこそ許せないのだと、エヴァ・グリーンの心中を察した。
「……俺も手伝おう。一人よりかは、二人の方が効率よく救出できるはずだ」
「当然でしょ、なんのためにここまで話したと思ってんのよ」
「狙ってたのか、俺が乗るのを」
「お人好しそうな顔してるしね。これも何かの縁よ、とことん付き合ってもらうからね」
「ああ。付き合おう。よろしく、エヴァ」
「ええ。って、そういえばあんたの名前、まだ訊いてなかったわね。きかせてもらえるかしら?」
「レオだ」
「そう。レオ……いい名前ね。シンパを感じるわ」
「……なんで?」
「まあ、そこはおいおいね。んじゃ、行くわよレオ」
「おう」
言って、歩き始めるのかと思いきや、無言で立ち尽くすエヴァ。
それにならい、レオも動きを止めた。
「………」
「…………?」
「…………」
「………………ああ。もしかして、根城がわからないのか?」
「あんたが全員焼き殺すからでしょ。忘れてたわ、すっかり。一人だけのこして聞き出そうとしてたんだけど」
「それは……すまない」
「ま、いいわ。口硬そうだったし、虱潰しで行きましょう」
「おい、そんな適当でいいのか? いつ連れ去られたのかはわからないが、時間はあまりかけられないんじゃ……?」
あてもなく歩き始めたエヴァについていきながら、そう声をかけたレオ。対して、エヴァは何を根拠にしているのか、ヤケに自信満々と答えた。
「盗賊の思考を読めばあるていど位置を特定できるわ。すでに候補は三つまで絞り込めた。そこを一つひとつ確認していきましょう」
意外と頭がキレるタイプなのかもしれない。
「頼りにしてる、エヴァ」
「任せなさいな、レオ」
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