064 立ち上がる魔術師
スイマは、俺のために死んだ。
メッキの剥がれた俺を救うために、何もかもを捨てて、演じていたのだ。
俺を救うために。
弱かった俺の心を強く作り替えるために。
「ばかだよ、おまえ」
妹や友人や、その他諸々の関係や環境を犠牲にしてまで。
本来なら、憎しみの対象であるはずの俺を、スイマは……。
「俺は、強くなれたか?」
問いに、返事はない。
それもそうかと笑って、大きく息を吸い込んだ。
全て思い出した。
最初ほど混乱はしていないし、だからといって整理できたわけじゃないが。
「おまえが信じた俺を、俺もまた信じてみるよ」
そうじゃないと、おまえはなんのために死んだのかわからなくなってしまうから。
「これは弔いだ」
黒炎が、俺を中心に円を迸る。
「ありがとう。おまえのおかげで俺は、また強くなれる」
今は亡き親友に、心からの感謝をこの号砲に乗せて。
「——【爆ぜ螺旋する黒流】——」
俺は、産声を上げた。
*
そしてフレデリカを抱きとめたレオは、壁に彼女を寄り掛からせると、一緒に担いできたヴィンセントもその隣に降ろした。
「貴様とは、これが終わったら決着をつけてやる」
「楽しみにしてますよ、ヴィンセントさん。……それとありがとうございます。俺のこと、守ってくれてましたよね?」
「ふん、巻き添えなんかで死なれるのは御免だからな」
「それでも、です。あ、でもこれで貸し借りなしですからね?」
「……好きにしろ」
嘆息したヴィンセントから目を離して、振り返るレオ。ついで、交わった視線の冷ややかさにレオは苦笑した。
「懐かしいな、マリィ。随分と変わっちまったようで」
「……そういうあなたは、少し落ち着きましたか?」
「あんま変わってないぞ、それ。……ともかく、ありがとう。マリィが思い出させてくれなかったら、俺は一生、あいつの想いを知ることなくあいつを憎んだまま、生きていくところだった」
「そうですか。それは何よりです。——それで、他に何か言いたいことは?」
にっこりと、微笑んで首をかしげたアマリリスの、わずかに孕ませられた怒り。それを察したレオは、頬を指で掻いた。
「あー……その」
「そういうところは何も変わってませんね。何か言いたいことがあるんでしょう? なら言ってスッキリさせた方がいいですよ?」
「そ……うだな、ああ。俺の悪い癖だ」
棘が多分に含まれた指摘に頷いたレオは、大きく深呼吸をしてから、言った。
「俺が勝ったら、婚約解消って話を撤回してくれ」
——その言葉を、理解するのに多少の時間を有した。
今、なんていったのだろうか、彼は。
彼の言葉を反芻して、咀嚼して、噛み砕いて、味わって、ああダメだ。全く理解できない。
「婚約……解消? 戦って? 言うに事欠いて、そんな話ですか?」
「ああ。ちなみに、他にどんな話があるっていうんだ?」
「……もしかして、レオさん。まだあなた、私に好かれていると思ってます? そんな都合のいい頭をお持ちでしたか?」
「え、違うのか?」
「…………」
ジト目で返答するアマリリス。
私の恋した男ではないと、戦斧を水平に構えて睨めつける。
「お兄様は、レオさんを女たらしのクズ野郎に変えてしまったのですね」
「スイマじゃない、これは俺の意思でなったんだ」
「たくさんの女性を侍らせて、王様気分を味わうことがあなたの意思だと?」
「ま、どう思われようと構わんさ。そこにマリィも入るんだからな」
「……クズですね」
「クズだクソだ言われようとも、今更後には退けないんだよ。俺を信じてついてきてくれるみんなのためにも……俺自身のためにも」
ポケットに手を突っ込んだレオは、悠然と外套をひるがえす。
「それで、マリィ。言いたいことは他にないのか? ただ俺の記憶を戻すためだけにこの場所まで来たわけじゃないんだろ?」
「だから、理由なんて——」
「ないわけないだろ、聞かせろよおまえの本心を」
「!?」
一歩、動いたのは見えた。
だが——
「ないなら別に構わんが。文句の一つや二つ、言っておきたいなら今のうちだぞ?」
「——ッ、このっ!!」
一瞬で、アマリリスの真横へ移動してきたレオへ戦斧を振りかざす。
しかし、陽炎のようにレオの体が消え、
「後から泣かれても、すぐには慰められないぞ? 知っての通り、俺には三人の彼女が——」
「うるさいッ!!」
すぐ隣から聞こえてきた声を切り裂く紅蓮の斬撃。
己の流した血液と、今もなお傷口から溢れてくる血を消費して、アマリリスの体が再び赤を纏う。
「大っ嫌いです——私たちの幸せを奪って、家族を奪って、したり顔で近づいてきてッ!!」
加速するアマリリス。避けて攻撃を一切しかけてこないレオに怒りを滲ませながら、射殺さんばかりに気迫を飛ばして、肉薄する。
「好きになんて、ならなければよかった……っ!! あなたが、黒炎使いだって知らなければ私はっ!! あの日、あの瞬間——好きになることなんてなかったのにっ!!」
斬撃の赤が四つ。天井と地上を同時に引き裂きながら迫る特大の斬撃は、彼女の故郷を焼き払った黒炎によって掻き消された。
「どうして私を振ったの?! どうして私との婚約を破棄したのよ!!」
「それは——」
「お兄様のせいにしないで、わかってるからッ!!」
それでも、わかってるし理解してるけど、許せない。
だって、本気で好きだったから。
何もかもを許せてしまうほどに、彼のことが好きだったから。
「私は覚えてた!! お兄様に記憶をいじられようと書き換えられようと、私はあなたのこと覚えてた!! 最後まで、お兄様が全て託してくれるまで、私はあなたのことを——!!」
決して、忘れたことなんてなかった。
好きだから。愛してたから。
スイマの力は強大だ。生半可な力では防げないし抗えない。
常人ならば彼の操り人形と化してしまうだろう。
——だからこそ。
「あなたにとって、私はその程度だったってこと……! 簡単に記憶を消されて、簡単に忘れられる……!」
だからこそ、悔しかったし腹立たしい。
同等ぐらいに愛して欲しいとは望まない。けど、それに匹敵するぐらいの——記憶を失っても尚、忘れることのできない、深い愛をもっていて欲しかった。
わかってる。これはただのエゴだ。
それでも。
「どうして私のことを忘れたの!? あなたにとって私は何!? あなたは私の全て——じゃあ、私はあなたのなんなの!?」
全身全霊を賭した上段からの一撃は、かつてないほどに弱々しく女々しい斬撃だった。
ゆえに、躱すことなく戦斧を掻い潜った彼は、
「んぅぅ……!?」
唇を這わせ体を抱きとめ固定した。
逃げられないように力強く引き寄せられて、同じようについばんでくる唇。
視界いっぱいに広がるレオの目は、困ったように目尻を下げていて。
ばか。どうしてあなたが、困った顔をしているのよ。
叫んで怒鳴り散らしてやりたかったけど、この状態では、声を出せなかった。
だから、仕方なく。
「んっ! んぅっ〜!」
責め立てるようにキツく睨めつけながら、ついばむ唇を包み込んで、さらに深く押し付けた。
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