060 奪い合う魔術師たち⑦
【ドラゴン・スカー】最終階層。
かつて巣食っていたドラゴンの姿はここになく、代わりに白金の甲冑に身を包んだ金髪の騎士と巨大な鳥籠に囚われた薄桃色の少女が、そこにいた。
円形に広がるそのフロアへ、短い階段を降りて地を踏んだレオ。
視線は騎士へ。
そらすことなく、その瞳を睨め返した。
「――もはや、言葉は不要だな」
ヴィンセントの問いかけに、レオは剣を抜くことで返答とした。
一足の間合。
正眼に構えるレオと、対するヴィンセントは霞の構え。
嵐の前の静けさのような、激しい静寂が耳鳴りを掻き立てる。
鳥籠の中で行手を見守るフレデリカは、彼の立ち振る舞いに息を呑んだ。
「違う……別人だ……」
昨夜――隠れてレオの様子を見に行った時と、いま彼女の視界に入っている彼とは、別人だった。
立ち振る舞いから気質、視線の一つでさえ。
何が起きたのか――わからない。けれど、昨夜から現在にかけて、彼を成長させる何かがあったに違いない。
「レオくん……」
感じたのは、不安だった。
少し前までは、あんなにも小さなかったのに。
今ではもう、手の届かないところまで大きくなってしまった。
敵わないよ、きみには。
もう私が守ってあげる必要は、どこにもないんだね。
……いや、思えば。
記憶を反芻する。懐かしい彼と出会った頃の、記憶を。
思えば、あの時。
フレデリカが助けに入らなくとも、彼はあの窮地を脱していたのかもしれない。
ちがう。
脱していたのだ。
あの瞬間に、かすかに感じていた術の発露。
見方を変えれば、彼の邪魔をしたようなもの。
だから、私は――
彼のことを、一度だって守ったことはない。
彼から恩を感じられるようなことは、何一つもしていない。
「――ッ!!」
「らッ――!!」
刹那、掻き鳴らす慟哭が弾け、火花が喘ぐ。
重なりあう剣戟は、都合十。
この一秒にも満たぬ時の最中で、常人では既に追えぬ領域で剣が踊っていた。
「これほどまでか……ッ! 見かけによらず恐ろしいな、貴様は……!!」
「あなたのおかげです。この催しが、また俺を強くしてくれた……感謝しかありませんよ。その上、フレデリカ様までいただけるなんて」
「この俺を前にして、一石二鳥だとほざくか? 舐めてくれるなよ童。貴様には、決して届かぬ高みというものを味合わせてやる」
ヴィンセントの銀剣が瞬いた。
超高密度の魔力が荒々しく輝き、放出先を求めて暴れ狂う。
「避けろよ。まあ、受け止めても構わんがな」
「―――」
魔力の放出――その勢いを利用して、速度をあげたヴィンセントがレオへ肉薄、剣を振り下ろした。
同時に、解放された超高密度の魔力。
銀色の剣撃が天井を引き裂きながら、レオを袈裟に迫る。
「最高だ――ええ、受け止めますよ。俺は逃げない」
視界が銀色に染まり行く中、レオは微笑みを讃えて剣を重ね合わせた。
直後、剣を伝って生じる破壊の余波。超重量の剣圧、荒れ狂う極光。
ミシミシと握った剣から悲鳴が上がり、本能で理解する。
一度触れれば、レオの敗北は確定する。
これは生半可な気持ちで立ち向かっていい剣撃ではない、と。
「だからこそ、屈服させたい。させることに価値がある」
強いのは承知の上。
だからこうして挑んでいる。
おまえを倒すことができたなら、俺は強いんだろう?
なら証明してみせる他あるまい。
どちらが下で、どちらが上なのか。
強者を名乗るのなら、強者たる己がそのなんたるかを指し示してやる必要がある。
「ヴィンセントさん……俺は、もっと上へ行きますよ」
銀色の世界に、炎が生まれた。
刀身に渦巻く炎。レオを中心に、炎が吹き荒れた。
剣に魔力を注ぎ込み、爆発させることによって剣速を瞬間的に引き上げる。
「なに――ッ!?」
「怪我するとか死んでしまうとか、そういう枷はもういりませんよね? お互い本気で——殺す気で殴りますから殴り返してくださいよ!!」
火花が舞い、銀剣の切先が天井を向く。
白銀の波動が天に穴を開け、壁を走りレオへ再び迫るも――
「うぉぉぉッ!!」
激しく滾る炎剣が噴火のごとく奔流を巻き上げて、銀剣の一撃を再び真上へ弾いた。次いで――裂帛の気合とともに。
「これで――——ッ!!」
振り下ろした炎剣。ヴィンセントを袈裟に、防御する暇もない剣速で。
トドメの一撃を――
「終わりです♡」
炎剣が振り下ろされるよりも速く、ヴィンセントの身体が弾けレオを押し倒した。
「な、んだ……?!」
レオの手にしていた剣が、暴発した。
行き場をなくした魔力が暴走し、爆発を引き起こしたのだ。
熱風と粉々になった剣が、ヴィンセントの甲冑をへこませていく。
下敷きになっていたレオは、被害を被ることなくヴィンセントの甲冑に守られる形をとっていた。
「お、おもた……重たいです、ヴィンセントさん……!!」
「む……?」
レオの体にのしかかるヴィンセント。何が起きたのかわからないといった様相の彼は、真下のレオに気がついて、睨めつけた。
「ふン、なかなかにやるじゃないか。しかし、言っておくが俺はまだ本気ではない――ほんのお遊びのようなものさ。これからが本番……そうだろ? ————ッ!?」
「あっれえ~? 確実に殺したと思ったんですけどぉ……どうして生きてるんですかあ?」
「無粋だな、貴様……騎士の一騎討ちに横槍を入れるか?」
重みが消えた、かと思うと凄まじい剣戟が鼓膜を打った。
ヴィンセントの背中を襲った戦斧は、しかし戦闘態勢に移った彼によって阻まれる。
重さを失ったレオは、その姿を視界に移して息を呑んだ。
「ま、マリィ……?! どうしてここに」
「どうして? そりゃあ、私たちは同じ対抗戦に出場してるパーティだからじゃあないですかあ。たいちょー、忘れちゃったんですかあ?」
そう微笑んだアマリリスの表情は、泥で汚れていた。
顔だけではない。全身から、激しい戦闘の傷跡を伺わせた。
打撲、裂傷、刺傷……あと数センチずれていれば確実に死んでいるような、そんな傷跡もある。
だというのに、眼前の彼女は。
にこにこと、大したことなさそうに笑って、己の体重よりも重いであろう戦斧を軽々と振るいヴィンセントと拮抗している。
「さあ、たいちょー! 一緒にこの騎士もどきを倒しましょう! それで籠のお姫様を救出しましょう~!」
「あ、ああ……」
「貴様……騎士道精神というものを知らないのか?」
「あはッ! それ戦場で同じこと言えますぅ?」
「大将同士の一騎討ちなどよくあることだろう」
「さあて、お生憎さまですが戦場に出たことがありませんので~」
「戰の作法も知らぬ童が……やはり冒険者の質も下がったな。これは遺憾である」
違和感。違和感が——そこにあった。
それはきっと、その場の誰もが思っていたことだろう。
直接対峙するヴィンセントをのぞいて。
「んぅ~? 冒険者の質ですかあ? 下がったのかどうかは知りませんけどぉ」
銀の極光が剣から放たれ、しかし次の瞬間には、深紅の斬撃によって相殺されていた。
吹き抜ける暴力の余波を感じながら、レオは目を剥いた。
「そういうのは、Bランクの私を倒してからいってくださぁい☆」
「貴様……何者だ?」
全身から血を噴き出して、それでも立っているヴィンセントが、眼前の女を睨めつけた。
問いかけに、ボロボロのドレスをつまみ上げたアマリリスは、優雅にお辞儀の姿勢をとって、
「アマリリス・スィリ・クレア・フォン・カーディナリス―——―地獄へ堕ちた兄の供養をするため、この場に馳せ参じましたぁ」
にこりと笑って、嗤って、ワラッテ――彼女は胸の谷間からソレを取り出した。
Aランク冒険者をあらわす黄金のタグ。
そこに刻まれた名を見て、レオは、動揺を隠すことができなかった。
「スイ……マ……!?」
「ふふ。ふふふ……ふふふふふ……たいちょーさぁん、過去を語り合いましょう?」
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