006 公国へ向かう魔術師
次の日の朝。
久々にベッドのうえで眠ったレオは、昼過ぎに飛び起きた。
「やっべ、だいぶ寝過ごした……もう昼かよ」
時計の短い針は十二を示していた。
のそのそとベッドから這い出たレオは、身支度をととのえて宿を出る。
「追加料金を払ってしまった。無駄な出費だな、これは。反省しなくては」
ダンジョン内だったら死んでいたぞと呟きながら、近くの定食屋に入った。
安くてうまい、よく利用していた店だ。
いつも食べていた定食をたのみ、コップの水を飲み干した。
「――なあ、そろそろだよな? 公国のあれ」
「魔道武闘会だろ? 俺も行きたかったんだがねー、仕事だよ」
「仕事休みだったらなー。こっから往復で六日だから、なかなかいけるもんじゃねえ」
「仕事やめるしかねえか……見に行くなら」
「老後の楽しみだな。有給取るのもなんだかなーって感じだし。はぁー……ガキんときに行ったきりだなあ。すっげえ熱いよな、あれ」
「ああ。各国の重鎮も観にくる大イベントだからな。優秀なヤツはスカウトされるらしいぞ」
「そりゃあみんな気合い入るわな。生半可な輩は本戦にゃ入れねえしよ」
「なんつーか、本当に強いやつしか出てこねえからおもしれーんだよな」
運ばれてきた定食をつつきながら、盗み聞きしていたレオは「武闘会か」とつぶやいた。
『カルロフ公国』で行われる、年に一度の大イベント――魔道武闘会。
後ろの席に座る衛兵が言っていたとおり、武を競い合う者たちを観戦しに各国の重鎮が赴く。
レオは見たことなかったが、聞いたことはあった。
かのSランク冒険者フレデリカもその武闘会に参加し、優勝したと聞く。
武を極めんとする者たちが一堂に会す、年々激しさを増すエンターテイメント。
「ふむ……いい機会か。魔道武闘会」
真に強くなったかどうかを確かめるにあたって、ちょうどいい見せ場かもしれない。
それに……。
「運が良ければ、会えるかもしれない……」
なにせ、大陸随一の娯楽だ。
もしかしたら、フレデリカと会えるかもしれない。
あわよくば、強くなったことを証明し、次は情けない姿ではなく、かっこいい姿を見せたい。
「……決まりだな。公国へ行こう」
ここから往復で六日ということは、行きに三日かかるということだ。
いつ始まるのか、正確な日時は知らないから、すぐにでも立ったほうがいいかもしれない。
期待と不安が混じった想いを抱えながら、レオは定食を食べきった。
定食屋を出て、向かったのは商店街だった。
三日ほどではあるが、ポーションや寝袋など買っておく必要がある。
野宿になるのは確実だ。食料なども用意しておかなくてはいけない。
「――ある程度そろったか? やっぱり大きめのリュックを買っておいてよかった」
リュックに敷き詰められた食料と折り畳みテント、地図など。寝袋は紐でくくりつけてある。
すぐに出せるポーチにはポーションと水筒を入れて、出発の準備がととのった。
門近くまできて、一度町を振り返る。
きっと、よそものがひとり消えてもこの町は気づかない。何事もなかったかのように、時は進む。
「女々しいな、俺は。そういうところはもう……捨てよう」
今となってしまえば、この町によかった記憶はない。
全て、黒く汚れてしまった。
ノイトラに……スイマに追放されたあの日から。ここには、もう。
「行こう。忘れることはできないが、いつか汚点を取り除く。俺自身の手で」
まずは、カルロフ公国の魔道武闘会。
そこで己の成長を見極め、今後どうするかを考える。
実力が不足しているようであれば、またどこかのダンジョンに潜り。
力を実感できれば、その力の使い道を探す。
そしていつの日か、ノイトラの面々を――
「全てを浄化して、きれいになってからあの子に――いや、あの人に、フレデリカ様に告げよう」
友達になってください、と。
*
「スイマ、カルロフ公国といえばー?」
「なんだ、メルツ。そこは魔道武闘会しか取り柄のない小国だろ」
「かぁーっ! Aランク冒険者はいうことが違うねえ。その自信ってどこからきてんの?」
「――スイマぁ、武闘会出ようよ。きっと楽しいよ?」
「ぷふふ。俺ら【ノイトラ】で上位埋めちまうか?」
マンティコアのサソリ状になった尻尾から射出された棘を、セナが展開する防護魔法で防ぎ。
繰り出される爪牙をメルツが弾いて眼球を抉る。
怯んだ隙を見逃さず、ゴウゾウが身の丈ほどの斧で尻尾を切り落とした。
そして、
「ふっ。それもまたおもしろい。バカどもが俺らを射殺すように賞賛する姿が目に焼き付くわ」
正面に立っていたスイマが、剣を振り切った。
一刀の元に両断された、推定Aランクの魔物マンティコア。
誰一人として傷を負うことなく、マンティコアを討伐したノイトラの面々は、すぐさまに素材回収をはじめた。
「つうか、セナ戦えんの? 支援でどうぶっ倒すんだよ」
「幼馴染のスイマしか知らないとおもうけど、私けっこう肉体派なのよ? 槍術ずっとやってたから」
「へえ。じゃあ槍もって武闘会でんの?」
「いや。それは隠しておくわよ。バカ正直にふところへ入ってきたアホを――」
「――なーるほど、大杖でやっちまうのね。ぷふふ、そりゃあ痛いわあ」
「それで、武闘会。出るってことでいいかよ、スイマ?」
メルツがマンティコアの牙を引き抜きいて、スイマに目を向ける。
声をかけられたスイマは、剣に付着した血をハンカチで拭っている最中だった。
「ああ。こっからそう遠くないしな。俺らをアピールするチャンスだろう。固定のクライアントもつけておきたいと思っていたところだ。特に、帝国にはな」
「傭兵にでもなるつもりか? 冒険者よりかはそりゃあ、儲かるだろうがよー」
「バーカ、スイマが欲しいのは金じゃないのよ」
「あ? じゃあなんだよ?」
「ぷふふ、名声に決まってんだろ」
「ちがうわよ。スイマが欲しいのは、最強っていう称号よ」
「最強ぉ?」
メルツとゴウゾウがセナを一斉に見やった。
まったくと、嘆息したセナは、スイマの代わりに答える。
「この世で一番強いっていう称号。それがスイマの夢なのよ」
「おいおい……そりゃあどでけえ夢だな。考えたこともなかったわー」
「夢物語っぽけど、ぷふっ。手に届く範囲まで来ちゃったよなあスイマは。なんたって最速でAランクに駆け上がってんだ。SもSSも最速で駆けられるぜ、ぷふふっ」
「SSランクが最強というのは王国だけの概念だ。俺はそこだけで留まらない」
「ほお?」
「ちなみにメルツ、ゴウゾウ。現最強はだれだと思う?」
「……ふむ」
顎に手を当てて考える二人をよそめに、セナが手を挙げた。
「【五星賢者】かしら。全員の実力が拮抗していると言われているけど」
「他には?」
「んー……そう言われてみれば、最強ってなかなか出てこないな。身近だと【舞遊ぶフレデリカ】とかいるけど」
「個人というよりかは、組織なんだけど【ヴォルトリア王国】の【漆黒の飛禽】は埒外に強いらしい。ぷふっ」
「それなら【セレノガ】の【殉教者の戦列】もやべえらしいな。不死身だとか言われてるらしいぞ」
矢継ぎ早に飛び交う最強候補たちを、スイマは鼻で一蹴した。
「つまり、これといった存在が出てこないだろ?」
「ああ、そうだな。それで? スイマはだれが最強だとおもうんだよ」
「そのまえに、どうして俺が最強という称号が欲しいか。それを説明してやる」
「ぜひとも教えて欲しいな。ぷふふぅ」
「この世界には紛い物が多すぎる。最強を自称するのはいい。しかし、他のだれかと比べられた時点でそいつは最強じゃない。真に最強と呼ばれる存在は、並び立つものがいないんだよ。かの勇者アムルタートのように」
「あー、おとぎ話にもなった?」
「ふんふん。確かに、そうだな。つまりはあれだ、だれかと比べられたくないんだなスイマは」
「ちがう。最強には役割があるんだよ。何かわかるか、セナ」
スイマに問いかけられたセナは、そんなこと決まってると言わんばかりに即答した。
「抑止力」
「正解だ。そいつがいるだけで敵は手が出せない。手を出されなければ、こちらも攻撃をしかけない。恒久的平和の成立だ」
「な、なるほど。ぷふっ、でもスイマ。寿命云々で死んだ場合のことについて訊きたいところなんだけど、それよりも訊きたいことがある」
「なんだ、ゴウゾウ。言ってみろ」
「スイマ、人類はいま――いや、ここ数百年は戦争をしていない」
「……つまり、何が言いてえんだよゴウゾウ」
「ぷふっ。メルツ、ここまで言ってわからないのか?」
「……なんだと?」
にやにやと止まらない笑みを浮かべて、ゴウゾウはスイマをみて言った。
「スイマ、もしかして【魔王】と張り合ってるの?」
「おもしろかった!」
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