表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/74

006 公国へ向かう魔術師

 次の日の朝。

 久々にベッドのうえで眠ったレオは、昼過ぎに飛び起きた。

 



「やっべ、だいぶ寝過ごした……もう昼かよ」




 時計の短い針は十二を示していた。

 のそのそとベッドから這い出たレオは、身支度をととのえて宿を出る。




「追加料金を払ってしまった。無駄な出費だな、これは。反省しなくては」




 ダンジョン内だったら死んでいたぞと呟きながら、近くの定食屋に入った。

 安くてうまい、よく利用していた店だ。

 いつも食べていた定食をたのみ、コップの水を飲み干した。




「――なあ、そろそろだよな? 公国のあれ」


「魔道武闘会だろ? 俺も行きたかったんだがねー、仕事だよ」


「仕事休みだったらなー。こっから往復で六日だから、なかなかいけるもんじゃねえ」


「仕事やめるしかねえか……見に行くなら」


「老後の楽しみだな。有給取るのもなんだかなーって感じだし。はぁー……ガキんときに行ったきりだなあ。すっげえ熱いよな、あれ」


「ああ。各国の重鎮も観にくる大イベントだからな。優秀なヤツはスカウトされるらしいぞ」


「そりゃあみんな気合い入るわな。生半可な輩は本戦にゃ入れねえしよ」


「なんつーか、本当に強いやつしか出てこねえからおもしれーんだよな」




 運ばれてきた定食をつつきながら、盗み聞きしていたレオは「武闘会か」とつぶやいた。



 『カルロフ公国』で行われる、年に一度の大イベント――魔道武闘会。

 後ろの席に座る衛兵が言っていたとおり、武を競い合う者たちを観戦しに各国の重鎮が赴く。



 レオは見たことなかったが、聞いたことはあった。

 かのSランク冒険者フレデリカもその武闘会に参加し、優勝したと聞く。

 武を極めんとする者たちが一堂に会す、年々激しさを増すエンターテイメント。




「ふむ……いい機会か。魔道武闘会」



 

 真に強くなったかどうかを確かめるにあたって、ちょうどいい見せ場かもしれない。

 それに……。




「運が良ければ、会えるかもしれない……」




 なにせ、大陸随一の娯楽だ。

 もしかしたら、フレデリカと会えるかもしれない。

 あわよくば、強くなったことを証明し、次は情けない姿ではなく、かっこいい姿を見せたい。




「……決まりだな。公国へ行こう」




 ここから往復で六日ということは、行きに三日かかるということだ。

 いつ始まるのか、正確な日時は知らないから、すぐにでも立ったほうがいいかもしれない。



 期待と不安が混じった想いを抱えながら、レオは定食を食べきった。



 定食屋を出て、向かったのは商店街だった。

 三日ほどではあるが、ポーションや寝袋など買っておく必要がある。

 野宿になるのは確実だ。食料なども用意しておかなくてはいけない。




「――ある程度そろったか? やっぱり大きめのリュックを買っておいてよかった」




 リュックに敷き詰められた食料と折り畳みテント、地図など。寝袋は紐でくくりつけてある。

 すぐに出せるポーチにはポーションと水筒を入れて、出発の準備がととのった。



 門近くまできて、一度町を振り返る。

 きっと、よそものがひとり消えてもこの町は気づかない。何事もなかったかのように、時は進む。




「女々しいな、俺は。そういうところはもう……捨てよう」




 今となってしまえば、この町によかった記憶はない。

 全て、黒く汚れてしまった。

 ノイトラに……スイマに追放されたあの日から。ここには、もう。




「行こう。忘れることはできないが、いつか汚点を取り除く。俺自身の手で」




 まずは、カルロフ公国の魔道武闘会。

 そこで己の成長を見極め、今後どうするかを考える。



 実力が不足しているようであれば、またどこかのダンジョンに潜り。

 力を実感できれば、その力の使い道を探す。



 そしていつの日か、ノイトラの面々を――




「全てを浄化して、きれいになってからあの子に――いや、あの人に、フレデリカ様に告げよう」




 友達になってください、と。









「スイマ、カルロフ公国といえばー?」


「なんだ、メルツ。そこは魔道武闘会しか取り柄のない小国だろ」


「かぁーっ! Aランク冒険者はいうことが違うねえ。その自信ってどこからきてんの?」


「――スイマぁ、武闘会出ようよ。きっと楽しいよ?」


「ぷふふ。俺ら【ノイトラ】で上位埋めちまうか?」




 マンティコアのサソリ状になった尻尾から射出された棘を、セナが展開する防護魔法で防ぎ。



 繰り出される爪牙をメルツが弾いて眼球を抉る。



 怯んだ隙を見逃さず、ゴウゾウが身の丈ほどの斧で尻尾を切り落とした。

 そして、




「ふっ。それもまたおもしろい。バカどもが俺らを射殺すように賞賛する姿が目に焼き付くわ」



 正面に立っていたスイマが、剣を振り切った。

 一刀の元に両断された、推定Aランクの魔物マンティコア。



 誰一人として傷を負うことなく、マンティコアを討伐したノイトラの面々は、すぐさまに素材回収をはじめた。

 




「つうか、セナ戦えんの? 支援でどうぶっ倒すんだよ」


「幼馴染のスイマしか知らないとおもうけど、私けっこう肉体派なのよ? 槍術ずっとやってたから」


「へえ。じゃあ槍もって武闘会でんの?」


「いや。それは隠しておくわよ。バカ正直にふところへ入ってきたアホを――」


「――なーるほど、大杖ロッドでやっちまうのね。ぷふふ、そりゃあ痛いわあ」


「それで、武闘会。出るってことでいいかよ、スイマ?」




 メルツがマンティコアの牙を引き抜きいて、スイマに目を向ける。

 声をかけられたスイマは、剣に付着した血をハンカチで拭っている最中だった。




「ああ。こっからそう遠くないしな。俺らをアピールするチャンスだろう。固定のクライアントもつけておきたいと思っていたところだ。特に、帝国にはな」


「傭兵にでもなるつもりか? 冒険者よりかはそりゃあ、儲かるだろうがよー」


「バーカ、スイマが欲しいのは金じゃないのよ」


「あ? じゃあなんだよ?」


「ぷふふ、名声に決まってんだろ」


「ちがうわよ。スイマが欲しいのは、最強っていう称号よ」


「最強ぉ?」




 メルツとゴウゾウがセナを一斉に見やった。

 まったくと、嘆息したセナは、スイマの代わりに答える。




「この世で一番強いっていう称号。それがスイマの夢なのよ」


「おいおい……そりゃあどでけえ夢だな。考えたこともなかったわー」


「夢物語っぽけど、ぷふっ。手に届く範囲まで来ちゃったよなあスイマは。なんたって最速でAランクに駆け上がってんだ。SもSSも最速で駆けられるぜ、ぷふふっ」


「SSランクが最強というのは王国だけの概念だ。俺はそこだけで留まらない」


「ほお?」


「ちなみにメルツ、ゴウゾウ。現最強はだれだと思う?」


「……ふむ」




 顎に手を当てて考える二人をよそめに、セナが手を挙げた。




「【五星賢者】かしら。全員の実力が拮抗していると言われているけど」


「他には?」


「んー……そう言われてみれば、最強ってなかなか出てこないな。身近だと【舞遊ぶフレデリカ】とかいるけど」


「個人というよりかは、組織なんだけど【ヴォルトリア王国】の【漆黒の飛禽(ブラック・バード)】は埒外らちがいに強いらしい。ぷふっ」


「それなら【セレノガ】の【殉教者の戦列(マーター・ジューダス)】もやべえらしいな。不死身だとか言われてるらしいぞ」




 矢継ぎ早に飛び交う最強候補たちを、スイマは鼻で一蹴した。




「つまり、これといった存在が出てこないだろ?」


「ああ、そうだな。それで? スイマはだれが最強だとおもうんだよ」


「そのまえに、どうして俺が最強という称号が欲しいか。それを説明してやる」


「ぜひとも教えて欲しいな。ぷふふぅ」


「この世界には紛い物が多すぎる。最強を自称するのはいい。しかし、他のだれかと比べられた時点でそいつは最強じゃない。真に最強と呼ばれる存在は、並び立つものがいないんだよ。かの勇者アムルタートのように」


「あー、おとぎ話にもなった?」


「ふんふん。確かに、そうだな。つまりはあれだ、だれかと比べられたくないんだなスイマは」


「ちがう。最強には役割があるんだよ。何かわかるか、セナ」




 スイマに問いかけられたセナは、そんなこと決まってると言わんばかりに即答した。




「抑止力」


「正解だ。そいつがいるだけで敵は手が出せない。手を出されなければ、こちらも攻撃をしかけない。恒久的平和の成立だ」


「な、なるほど。ぷふっ、でもスイマ。寿命云々で死んだ場合のことについて訊きたいところなんだけど、それよりも訊きたいことがある」


「なんだ、ゴウゾウ。言ってみろ」


「スイマ、人類はいま――いや、ここ数百年は戦争をしていない」


「……つまり、何が言いてえんだよゴウゾウ」


「ぷふっ。メルツ、ここまで言ってわからないのか?」


「……なんだと?」




 にやにやと止まらない笑みを浮かべて、ゴウゾウはスイマをみて言った。




「スイマ、もしかして【魔王】と張り合ってるの?」






「おもしろかった!」



「続きが気になる!」



「早く読みたい!」



と思ったら



下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!



面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!



新作更新しました! こちらもぜひご一読いただければ幸いです!!


『追放された俺、気がつくとマフィアの首領になっていた件。〜望んだ結果を引き寄せる超絶スキルの覚醒〜』

https://ncode.syosetu.com/n1033gw/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ