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054 奪い合う魔術師たち①

「――こっちはいつでもいいですよ、ヴィンセントさん」




 仲間にピエルパオロを加えて、五人揃ったレオたちは並び立った。

 威風堂々と、先ほどまで敗戦ムードを垂れ流していたとは思えない、強気な表情だ。




「ふっ……では、始めるとしようか」


 


 それだけを告げて、甲冑を鳴らしながら迷宮へ向かっていくヴィンセント。

 続く面々が、レオ一行へ視線を向けた。



 

「オイ、黒髪のサル。てめえは俺様がぶち殺す。気張ってこいよ」





 白髪のアナスイがレオに啖呵を切る。しかし、その視線はなぜだかヌゥに固定されていた。





「じゃあ、レオくん~、みんなぁ。手加減はしないからね~」


「キュるるる~~~」





 日傘を差して、ほんわかに笑顔を浮かべて手を振るお嬢様然としたミリアン。と、その頭部に乗っかる漆黒の幼竜が高い声を鳴らした。





「……お互いに……頑張ろう……」


「はい。ローランさんと手合わせできること、楽しみにしていました」




 相変わらず目を合わせてくれないローランだが、レオにはその些細な機敏も伝わっていた。

 彼は、彼なりにレオやみんなの目を見ようと努力している。

 そのことがうかがえるからこそ、レオは彼のことを気に入っていた。




「俺も……今回は……張り切るよ……先輩らしいところ……みせるから」




 それだけを言い残して、ローランもヴィンセントの後を追った。



 【シャフリーヴァル】の面々が迷宮へ潜った後、残された青髪の背のちいさな少女が、レオたちの前へ立った。





「はい、みなさんこんにちは。わたしは【シャフリーヴァル】のベルティエ・アルベール。今回の監視役よ」





 ベルティエ・アルベール。

 名前だけは聞いたことがあった。あのフレデリカとセットで名を挙げたSランク冒険者だ。





「【蒼の女王(ブルー・クイーン)】……お目にかかれるなんて、光栄です」




 レオの言葉に、青髪の女性がはにかんだ。





「正解、よく知ってるわね。きみが【燃える黒(ザ・シュヴァルツ)】のレオくんかしら?」


「はい、俺がレオです」


「ふーん? フレデリカって、あなたみたいな顔が好きなのね」


「そ……それは、どうでしょう?」




 頬をかいて、そうであったら嬉しいなと、ここにはいないフレデリカに想いを馳せる。




「そういうことでしょ、実際。まあいいわ、話を戻しましょう。――ルールは単純明快。一人も殺さずに相手の大将を倒す。大将は好きに選ぶといいわ。必ずしもレオくんやヴィンセントである必要はないから」



「なるほど。ヴィンセントさんを倒しても終わらない可能性があるんですね」


「そのとおり。そしてこっからが一番大事なんだけど」




 一拍置いてから、ベルティエは続きを口にした。




「これは実戦ではなく、お遊びの延長戦。だから、死人が出た瞬間、あるいはその行為が感知された瞬間に、対抗戦は終了よ。そこは肝に銘じておいて」




 ベルティエの真剣な眼差しに当てられて、その場の全員が頷いた。




「わたしからは以上よ。五分後に開始するから、それまではお好きにどうぞ」




 踵を返して端っこに消えていった青髪の彼女を送って、レオ一行は円形を作った。





「つまり僕たちは、無理に敵を倒す必要はなく、最悪足止めでもいいということだね。レオと向こうの大将を引き合わせれば、僕たちの出番は終わり。精々が邪魔の入らないよう引き留め役に徹すればいいわけだ」




 腕を組んだピエルパオロが、レオにウィンクをした。次いで、エヴァが口を開く。


 


「レオが負けないという保証があれば、ね。あちらの大将は、十中八九ヴィンセントとかいう騎士でしょう? 負けるとは思えないけれど、用心しておいた方がいいわ。最悪、レオの支援も視野に入れておかなきゃ」



「ヴィンセントだけじゃない。他の輩も強者ツワモノ。ヌゥたちがしっかり足止めしないとダメ」




 ヌゥの指摘どおり、敵は全員がSランク冒険者。

 フレデリカと同等か、それ以上の実力を持つ者たちだ。

 ヴィンセントだけを注視するという選択肢は、あまりに危険すぎる。




「じゃあ、こういうのはどうですかあ?」




 腰元で黒髪をうねらせて、アマリリスが手を挙げた。




「担当を決めましょう~。たいちょーはあの金髪ナイト、ヌゥさんはヤンキー、かーいいエヴァさんはわたし、そちらのゴールドキャットさんは根暗と女騎士を相手にしてください」



「……もしかして、ゴールドキャットって僕のこと?」


「あ、ども。アマリリス・スィリ・クレア・フォン・カーディナリスですぅ」


「ご丁寧にどうも。僕はピエルパオロ、よろしくね。ミス」




 向かい合ったピエルパオロが手を差し出して、アマリリスがその手を握りしめた。

 うっすらと開いた猫目から、品定めをするかのようにアマリリスの赤眼をのぞく。




「エヴァさんのこと、好きなのかい?」



「はい、かーいいじゃないですか。エヴァさんは、私が壊そうと思ってます。他の誰にも譲る気はありませんよー?」



「ハハッ、レオもゲテモノが好きだよね、相変わらず」


「あら~? その中にゴールドキャットさんも入ってるんじゃないですかあ?」


「僕、ピエルパオロっていうんだけど。名前で呼んでくれないかな?」


「ごめんなさい、私ぃ、だれかに指図されるの好きじゃないんですぅ」


「嫌だな、これはお願いだよ。いかんせん、僕も指図されるのは好きじゃないんだ」


「へえ、なのにゴールデンキャットさんは傭兵なんですねえ~」


「……何が言いたいんだい?」


「ふふっ、なんだか気が合いますねえ」




 手を握り合ったまま、視線で牽制する二人。

 初対面で何かシンパを感じたのか、あるいは他に理由があるのか。

 これ以上険悪になる前に、エヴァが横槍を入れた。




「とりあえず、その案に乗りましょう。私はミリアン、ピエルパオロはローランをお願い。アマリリスはあの女騎士を……いいわね?」



「はぁい♡」


「うん。それで行こう」




 エヴァの仲介により、手を離した二人が彼女の提案に頷いた。




「ヌゥはアナスイ。レオはヴィンセント?」



「それで行きましょう。大将同士を引き合わせたほうがいいでしょ。というか、これはレオとあの金髪騎士の闘争なんだから」



「ああ。そうだな、その役は俺が引き受けよう」




 エヴァの言葉に頷いたレオ。

 ある程度方針が固まったところで、ベルティエの声が飛んで来た。




「そろそろいいかしら?」




 その問いかけに、レオは全員を見渡した。




「みんな、きょうはよろしく頼む。そしてありがとう。俺のワガママに付き合ってもらって」




 その言葉に、エヴァがクスリと笑った。




「思い返せば、だいぶあんたのワガママに振り回されてきたわね。まあ今更だし? とことん付き合うわよ、この先も。ずっと」




 次いで、ヌゥとピエルパオロも頷いた。




「ヌゥはやらされてやってるわけじゃない。みんなのことが、レオが好きだからやってる。この先も楽しませてもらうから」



「友達だからね。楽しい苦しいに関わらず、どこまでも付き合うよ」




 最後に、アマリリスが笑顔を咲かせた。




「私も自分の意思で今、ここに立ってますから~。全力で楽しみましょーうっ!」


「ありがとう。――それじゃあ、行こうか」




 迷宮入り口へと、先陣を切るレオ。

 その後を、四人がついていく。




「――フレデリカ様を奪いに」

 



 フレデリカ奪還戦、開幕——。

 



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