052 パーティ名を考える魔術師
「かーいいですね、エヴァさん~」
「……何よ、気持ち悪いわね。くっつかないでくれる?」
「そういう嫌がった顔もかーいいです。……もしかして、本気で嫌がってますぅ?」
朝、九時ちょうど。
ギルドに集まった面々は、テーブルを囲み重要な事柄を話し合っていた。
「あんたのせいで脱線してんのよ、ちょっと黙ってなさい」
「はぁい。……たいちょー? グラス空ですねぇ、何か飲みますかあ?」
「あ、ああ。水をくれないか?」
「はぁい! 持ってきますねえ、たいちょー♡」
「お、おう……」
きゃぴきゃぴとカウンターへ小走りするアマリリスに、エヴァが口角を引き攣らせた。
「いちいち仕草が癇に障るわね……なんなのかしら、あれ? 最近の流行り?」
「そういうキャラ」
「ですが、ヌゥさん。あのキャラが濃すぎてヌゥさんが霞んでますよ」
「それはフランも……と言いたいところだけど。昨日はハッスルしてた」
「~~~っ!?」
「はーい、そこも話脱線しないでー」
「たいちょーさん、お水、持ってきましたあ~」
「「チッ……」」
アマリリスが小走りで戻ってくる。腕に水の入った瓶を抱え、大きく胸を揺らしながら。
言うまでもなくガン見するレオに、エヴァとフランが舌打ちした。
「あれぇ? なんか険悪な雰囲気ですね~? あ、もしかしてぇ、マリィがいなくて寂しかったんですかあ? ――みなさん、かーいいですねえ☆」
「……話、再開してもいいかしら?」
エヴァの、冷たい声音にレオは頷いて、アマリリスも席に着いた。
「アマリリス、話の内容おぼえてるかしら?」
「はいはい、おぼえてますよー? パーティ名を考える、ですよねえ。私ぃ、案出したじゃないですかあ~? それでどうですかあ?」
「【ノーチラス】? どうしてこれにしたのかしら?」
「なんかあ、『ノーパンなのにチラッと見られたっス』的な姉御肌を感じしませんかあ?」
「どこに姉御要素あったのかわからないわ」
「え、つっこむところそこじゃない気がします、エヴァさん」
「却下」
「下ネタ要員のヌゥさんが却下するほどですよ? 相当ダメですよそれ」
「じゃあみなさん、何か意見があるんですかあ?」
アマリリスの一声に、全員が押し黙った。
ニヤリと口角を上げたアマリリスは、テーブルの上に胸元を置いて、肘を乗せた。
「あれ~? みなさん、私のこと叩くのに必死で何も考えてなかったんですかあ?」
三人の視線が右往左往している。
流石に可哀想だと感じたレオが、助け舟を出した。
「マリィ、あまり虐めないでくれ。これでもみんな、一生懸命なん――」
「やん、たいちょーさん。おっぱいと会話してるんですかあ~?」
「い、いやちが――」
「ちゃんとお話しするときは~? お目めをみてするんですよぉ?」
「―――」
アマリリスの弾けるような色気に一瞬、昏倒しかけたレオ。
しかし、
「――ふぅ。落ち着け、俺……俺はもう、百戦錬磨だ」
もはや、彼は童貞ではない。
百戦錬磨には程遠いが、それでも経験済みで、二人の女性を相手にしているのだ。
この程度の色気に溺れる男ではない――そう言い聞かせて、レオは提案する。
「【シュウィラーレ】……どうだろうか、この名前は」
「シュウィラーレ……? それって確か、兄さんの必殺技ですよね?」
「必殺技……ぷふっ」
「わ、笑うなヌゥ! 名前をつけるとイメージしやすいんだ!! 誰だってやってることだぞ!?」
「レオ、必死。でもいいと思う、必殺技」
必殺技、という単語にニヤケを隠せないヌゥ。
その隣で、エヴァが訊いた。
「ちなみに、それってどういう意味なの?」
「捩じり狂え……『アムルタート英雄記』で登場した魔術師の杖の名前がそれでしたよねえ」
「すごいな、マリィ。知ってるのか?」
「お兄ちゃんと一緒に、よく読んでたんですよぉ。なんでも~、尊敬する友人が好きな本だから、丸暗記するってえ。だから知ってました」
「へえ、お兄さんと。きっと、その人とは話があうな。俺も大好きなんだ、アムルタート英雄記」
「はい、きっと仲良しになれると思いますよぉ? でも残念ながら、亡くなってしまったんですぅ」
と、平然と、なんともないかのようにいってのけた。
「そ……そうだったのか」
「実は、お兄ちゃんのパーティに入ろうとしてたんですよ~。そのためにお友達のパーティを抜けたんですぅ。でもそのパーティが行方不明になってしまって~」
淡々と言葉を並べるアマリリス。それはまるで、友人のかわいらしいハプニングを聴かせるかのような、ほがらかさで。
「そんな時にたいちょーさんのパーティがメンバーを募集してるって聞いたんですよ~。助かりましたあ。一人だと心細いですし、寂しいですからあ」
心の底から、このパーティに出会えてよかったと。
破顔して語る彼女に、レオは何故だか、薄気味悪いものを感じていた。
「……ああ。その気持ちは、わかるよ。俺も昔はそうだったから」
「ありがとうございますぅ。――それでえ、もうパーティ名は【シュウィラーレ】でいいんじゃないですかあ?」
アマリリスの問いかけに、全員が頷いた。
「じゃあ、きょうから【シュウィラーレ】ですねえ! かーいいですぅ」
「早速登録して来よう。ちょっと待っててくれ」
「あ、私もなんか手頃な依頼をさがしてきますねぇ。【シュウィラーレ】の初陣だ☆」
席を立ち、動き出す二人。
その後ろ姿を見て、三人が視線を重ねた。
「……何か様子がおかしいわ」
「ヌゥも感じてる。あの二人、何かある」
「でも……兄さんは、それがなんだかつかめていない様子ですね」
「アマリリス……少し、泳がせておきましょうか。気になることもあるし、ちょっと調べてるわ」
「いや、調べるのはヌゥに任せて。エヴァは、レオとフランのそばにいる」
「何か、あてでもあんですか? 情報屋とか、そういうの」
「秘密」
唇に人差し指を当てたヌゥに、エヴァがため息を吐いた。
「そういえば、正体の不明さでいえばあんたも同類よね」
「あはは、確かに……。でも、ヌゥさんは悪い人ではないですよ。長い間、ずっとそばにいますし」
「最近、フランに下に見られてる。ヌゥの方がお姉さんなのに」
「そういうキャラだから悪いんでしょ。――とりあえずは、あの女ね」
安全であるという保証を確認できるまで、警戒は怠らない。
そのことを共有した三人は、二人が戻ってくるまで密かに話し合った。
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