045 行動する魔術師
「――ここがフランの家、か」
「はい。……そんなに日数は経っていないのに、なんだか懐かしさをおぼえてしまいます」
住宅街に立つ、ちいさな家。
周りの家に比べるとこじんまりとしてはいるが、それでも、フランにとっては思い出が詰まった家だ。
「しばらく、誰も寄り付いていないみたいね。草も生えまくってるし、匂いが全くない。誰かが侵入した形跡もないわよ」
「そうですか。よかったです」
「後で手入れしような。家の中も、掃除をしよう。四人でやればすぐに終わるだろ」
「そんな、手伝う必要はありません! 兄さんたちはやることがあるのでしょう? 何のためにメラクに来たのか、忘れてはいけません」
「ここに来た理由のうちの一つが、フランをこの家に送り届けることだ」
「なら……」
「こっからは兄として、おまえの手伝いをする」
「兄さん……」
フランの頭の上に手を置いて、レオは笑いかけた。
つられてフランも、微笑む。
「では、まず家の中へ入ってみましょう。そこで役割を決めましょう」
「ああ。任せる」
「よろしくお願いします、みなさん」
「ん。ところで、ヌゥはこんなものを持ってきた」
「あんた……もしかしてそれ、替えのメイド服?」
「違う。ヌゥには大きすぎる。これはエヴァ。こっちはフラン。レオの分はない」
「これを着て掃除をしろと? お断りよ」
「わ、わたしもちょっとそれは……」
嫌そうに顔をしかめる二人の間に、鋭い声が割って入った。
「――この服を着るんだ、二人とも」
「れ……お?」
「兄さん……? どうしたんですか?」
「二人とも。メイド服を着て、掃除をするんだ」
「……なに、急に?」
「なんで、メイド服でスイッチが入ったんですか……?」
「ヌゥには反応してくれないのに」
「着るんだ。着て、早く掃除を終わらせよう」
「……あー、これ着るまで始めないやつよ」
「兄さん……頑固ですから」
「着てくるといい。動きやすさはヌゥが保証する」
「「はあ……」」
*
一通り掃除を終えて、お昼頃。
買い出しに行ってきたエヴァとフラン、ヌゥが、帰ってきた。
「あー、恥ずかしかったわ。メイド服だと目立つわね……」
「恥ずかしかったです……でも、動きやすいんですよね、これ」
「ヌゥはもう慣れた」
「お疲れ様、みんな。ありがとう」
メイド服姿の三人を順当に見やり、レオは頬を緩ませた。
いい。
すごく、いい。
特にエヴァのメイド服姿は、とてもいい。
「な、なにジロジロみてんのよ?」
「いや、よく似合っているなと思ってな」
「そ、そう? ていうか、さっきも散々聞いたわよ」
「兄さーん? アップル食べます?」
「ああ、もらおうか」
フランから渡されたアップルを齧り、ソファに腰掛ける。
忙しく動くメイド三人の背を見ながら、レオは至福を感じていた。
「兄さん。兄さんは、メラクに拠点を作るんですよね?」
昼食がテーブルに並び、全員で囲んだところで、フランはいった。
「ああ。そのつもりだが……何か、あったか?」
「この家、売り払おうと思うんです」
「な……! 売り払う、だと?」
「はい。残しておくのもアレですし、わたしは兄さんと一緒にいると決めましたから。ここに帰ってくることはもう、さほどないと思うので」
「そんな……」
一度家の中を見渡してみて、レオは胸が痛んだ。
質素な内装で、ものもさほど多くなく、しかし生活感はある一般的な家庭。
ひだまりのような暖かさを内包したこの家を、フランが売り払うなんて、そんなのは悲しすぎる。
「だめだ、そんなこと。ここは残しておく」
「いいんです、兄さん。住むにしても、一人では大きすぎますし、かといって兄さんたちの拠点として使うには、狭すぎます」
「………ぬぅ」
「負けてんじゃないわよ、レオ」
「しかし……あ」
「? 何か、思いついた?」
「ああ……フラン。この家は、やっぱり残しておこう」
「どうしてですか、兄さん?」
「この家を拠点にする」
「ですが、この家では狭すぎてみなさんの寝る場所がないですよ?」
「なら増築しよう」
「え?」
ということで、フランの家を増築して拠点を作ることに決めたレオは、諸々の手続きをするために街へ出た。
「行動力がすごい」
「それだけが取り柄みたいなもんだからな。思い立ったらすぐにやる、という習慣が身につくだけで人生が変わるぞ」
「人生、変わった?」
「強くなったし、おまえらと出会うことができた」
「んー」
「レオ、ついでに冒険者ギルドによってもらえるかしら?」
「何か用事があるのか?」
「ええ。私も冒険者になろうと思って。そうすれば、何かと便利でしょう?」
「ん。ヌゥも考えてた。レオとずっと一緒にいられるし」
「……戦えなくても、冒険者になれます?」
「荷物運び、たまにみる」
「みんな……嬉しいよ。ありがとう」
それから、役所や職人ギルドへ赴き、諸々の手続きや増築の件を話し合った。
「横に面積が足りねえな。とすれば、上へ広げていくしかねえ。帝国から流れてきた新技術だが、使ってみる価値はある」
「う、うえ……ですか? 確かに住宅街だし、お隣さんも住んでいるから……とはいえ、上ですか?」
「そうだ、上だ。帝国は【タワー】とかなんとか言っておったが、それなら問題は解決するだろ」
「たしかにそうですが……」
職人ギルドに在籍するドワーフの【形創るものジョシュア】が、タバコをふかした。
「時間はかかるぞ。さらに金も飛ぶ。そこんとこ、準備はいいか?」
「金なら問題ありません。どのくらいするんでしょうか?」
「前金で一千万。要望のすり合わせやなんやらで、完成後も金がかさむ。いけるか、坊主?」
試すようなジョシュアの視線に、レオは口角をあげて、テーブルに麻袋を乗せた。
「ここにちょうど一千万ある」
「なんと……やるなあ、坊主!」
「ジョシュア、最高傑作を頼む。金がいくらかかろうと構わない。だが、新技術だからとかなんとかと言い訳せずに、胸を張って最高傑作だと言えるものを、つくって欲しい」
「フッ――いうじゃあ、ねえか。いいだろう、結ぶぞ……その契約」
握手を交わし、これで一つ、要件が終わった。
職人ギルドを出たレオ一行は、次に冒険者ギルドへ向かおうとして、
「――って、ばかぁ!!? 有り金全部渡したでしょあんた!?」
「武闘会の賞金プラスで盗賊の懸賞金。その他諸々のお金、突っ込んだ」
「兄さん、カッコつけて『金がいくらかかろうと構わない』とか言ってましたけど、完成後も一千万以上したら、どうするんですか?」
「……これから、稼ぐさ」
「後先考えずに……まあいいわ。工事は来週からだから、それまでに一ヶ月分の宿代は稼いでおきましょう」
「俺はエヴァの部屋でもいいんだぞ?」
「フランとヌゥの部屋代が必要でしょ! 他に食費だってあるんだから!」
「兄さん? わたしの部屋でもいいんですよ?」
「ヌゥの部屋も空いてる」
「……まず、冒険者ギルドに行こう。難しいことは後で考える」
「逃げた」
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