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044 メラクへ向かう魔術師

 朝日が顔にかかって、レオは目が覚めた。

 金絹が頬に触れる。白い肌。

 腕に抱いた温もりの感触に、熱が湧き上がってくるのを抑えながら、レオは彼女を揺すった。



「エヴァ、朝だぞ?」


「んぅぅ……ん? ……お、おはよう……」


「あ、ああ。おはよう」




 レオの顔を見た途端、頬を赤く染めながらシーツで体を隠したエヴァ。

 すぐに視線を逸らしたレオは、




「どこか、痛いところとか、ないか?」


「な、ないわ……大丈夫」


「そ、そうか。なら、よかった」


「……」


「……」




 少し、気まずい。

 とりあえず服を着ようとベッドの外に視線を移すと、床や机、椅子のうえなどに、二人の衣服と下着が散らかっていた。



 昨夜のことは、よく覚えている。

 日付が変わり、そろそろ宿に帰ろうと酒場をでた一行。

 一度みんなとも別れ、ひとり部屋に戻ったのだが、後からエヴァがやってきて……




「――レオ? なにぼーっとしてんの? 早くごはん食べに行くわよ?」


「あ、ああ。そうだな、そうしよう。誰かが起こしにくる前に……な」


「でも、その前に」


「んぐっ!?」




 肩を掴まれ、振り向かせられたレオの唇が塞がれた。

 



「んふふっ」




 口付けしたまま、意地の悪い笑みを浮かべたエヴァ。視界の隅で、たっぷりと堪能した果実が揺れた。




「続きは、また夜ね?」


「………いや」


「え、ちょ、ばか――誰か来ちゃうでしょ!?」


「ごめん。無理だ」


「……もう」




 それから三十分後。

 第二ラウンドを終え、寝癖をつけたまま二人は部屋を出た。




「――みんなおはよう~。気分はどうかしらぁ?」




 公国の西門に集まったレオ一行とSランク冒険者三人と一匹。

 既に十メートルほどの巨大な姿へと変えた黒竜ガウェインが、ミリアンの言葉に火を吹いた。




「相変わらず迫力のあるドラゴンだ……」


「ふふっ。さあて、みんなメラクに行くから~、順番に乗ってねえ」


「……はあ。約二日間も……上空だなんて……死にそう……」




 ローランが嫌そうにしながらも、一番最初にガウェインへ跳び乗った。




「よし、俺たちも行こう。よろしくお願いします、ミリアンさん」


「ええ~。くつろいでいって~」


「わたしも行こーっと」


「ぼさっとしてないで行くわよ、ヌゥ。……あら、どうしたのフラン?」


「い、いや……みなさん普通に跳んで乗ってますけど、わたし、無理ですからね? そんな跳躍力ないですからね?」


「……そうなの?」


「そうですよ!!」



 

 結局、レオの腕に抱かれて跳んだフラン。

 



「わあ、兄さん! すっごい高いですね怖いです!」


「ああ、そうだな。落ちないように掴まってろよ?」


「はい! とっても怖いです! 離れたら風に飛ばされそうです!」


「ああ。危険だからな」


「高いところ、わたし苦手なんです~!」




 なんだかんだ理由をつけて、メラクまでの約二日間。

 フランはレオにべったりしていた。




「いちばん都合のいい女、フラン説」


「他に誰がいんのよ」


「わ、わたしは都合良くないよ!?」







 壮大にて堅牢な防壁が、地平を埋めている――そう捉えられるほどに、メラクを守護する防壁は長く、そして巨大だった。



 南西都市メラク。通称、冒険者の街。

 冒険者制度を導入しているメンカリナン王国でも、数多くの冒険者が在籍する都市だ。




「は~い到着ぅ。お疲れ様ぁ、みんな~」


「ありがとうございました。こんなに早く着くとは思いませんでした」


「疲労も少ない。感謝するわ、ミリアン」


「フランも幸せそうだった」


「わ、わたしはいつでも幸せですよ?」


「ふぅん?」


「なんですかヌゥさん? 文句あるなら聞きますよ?」


「逞しくなった、フラン」




 と、一同がガウェインの背から降りたその時だった。




「グォぉぉぉ、ォォォ!!」


「あら~? ガウェインにつられてたくさん来ちゃったわねえ」


「魔物? かなり数が多いわね」


「メラク周辺は魔物も多いし、魔人族の領土と近接しているんだ。ここでは魔物に困らないぞ」


「なるほどね。じゃあ、魔人族は魔物を生み出すって噂、ほんとなのね」


「確認……されたわけじゃ……ないけど……大方、そういうことに……なってる」


「とりあえず、狩る」


「あの、すみません。わたし足手まといなので……」


「大丈夫だよ、フランちゃん。わたしたちがいれば、一瞬だよ!」




 防壁へと迫り来る魔物の軍勢。

 概算して百ちかい魔物が、ガウェインの気配に引き寄せられている。




「ガウェイン――号砲を」


「―――ッ!!」




 ミリアンの言葉を合図に、ガウェインが火炎を吐き散らした。

 二十五メートル以上も先を、縦に焼き尽くすドラゴン・ブレス。

 強大な威力を秘めたそれに成す術もなく、大半の魔物が一撃の元に消失した。




「【フリーゲン・ハーケン】」




 ロラーンの外套の奥から、数十もの鎖が一斉に放出された。

 無骨な鎖は、上空を飛ぶ猛禽型の魔物を地へと引きずり落とす。




「んーと、もう少し引きつけてから――ふふ、レオくん見ててね?

 あの時の再現だよ――【絶空一閃】――」




 微笑みながら、フレデリカが一歩前へ踏み込んだ。

 刹那の拍子に鞘から剣を抜き放ち、舞うように踵をかえす。

 


 彼女の、藍色の瞳と視線が重なる。

 その背後で、ふわりと舞った桃色の髪に紛れて、魔物の軍勢が一瞬にして横にずれ落ちていた。




「……懐かしいですね。また、見惚れましたよ」


「ふふんっ! これでもSランク冒険者だからね! 苦戦なんてしてられないよっ」


「……なに、今の? どういう仕組み?」


「ヌゥにもわからない。……化け物」


「みなさん、すごすぎてわたしには理解できません」




 Sランク冒険者三人が、威光をみせつけるかのようにして魔物の群を処理した。

 その姿に圧倒されながらも、レオは口角をあげて、目指すべき場所を再確認した。




「俺も……もっとやればよかった……まだ、本気じゃない……」


「大丈夫~。一番地味だったけどぉ、あなたの役割は他にあるじゃない~」


「慰めに……なってない……」


「じゃあ~、ここで一旦別れましょうか~? 私たちは一旦、拠点に戻るからぁ」


「話を……してくるよ……フレデリカの……件」


「あははは……気が重いよ……」


「フレデリカ様」




 苦笑いを浮かべたフレデリカに、レオは近寄って頬に手を添えた。




「待ってますから。必ず、俺のところに帰ってきてください」


「~~~っ、うんっ!!」


「信じてます。フレデリカ様」


「うん! 待っててね! 絶対! 戻ってくるからレオくん!!」



 

 手を大きく振って、フレデリカたちが街へと消えていく。




「さて、俺たちも行こうか」


「どこにですか、兄さん?」


「決まってるだろ? フランの家だよ」




「おもしろかった!」



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