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039 襲撃を受ける魔術師

「そ――それは、いくらなんでも~……!」


「……難しい……相談だ……」



 

 ミリアンとローランが、難しい顔をした。

 フレデリカも同様に、困惑している様子を見せていた。




「れ、レオくん、本気かい? 本気で、いっているのかい?」


「俺は本気です」


「レオくんが、わたしたちのパーティに入るのと何が違うのかな?」


「俺は、あなたが欲しいんです」


「わ、わた、わたしはもうきみのものだよっ?」


「違います。まだあなたは、Sランクパーティ【シャフリーヴァル】のフレデリカだ。俺は、あなたの全部が欲しい。誰にもあなたの影を踏ませたくない」


「~~~っ!?」




 面と向かって甘い言葉を囁かれ、フレデリカは思わず頷きそうになった。




「こうなったらもう止められない」


「兄さん……スイッチ入ると頑固ですから……――って、そうじゃないんですよヌゥさん!? 兄さんと! あの女が恋人同士なんですよ!!?」


「フラン、もう諦める。元からレオは、あの女を狙ってた」


「うぅぅ、なんでそう簡単に諦められるんですか……っ!」


「フランのばか。別に一番の女じゃなくてもいいの」


「わ、わたしはヌゥさんみたいな都合のいい女じゃないので!」


「……傷ついた」




 フランとヌゥが何やら言い合いを行っているようだったが、レオの耳には届かない。

 レオの瞳には、フレデリカしか入っていない。




「俺は絶対にあなたを幸せにしてみせます。後悔なんてさせません。みんな幸せにしてみせる――だから」


「ん? いまみんなっていった?」


「フレデリカ様。俺と一緒に来てください」


「あぅ……レオくん……こ、困るよ……」




 一瞬の疑問も、すぐにどこかへ吹き飛んだ。

 炎のように熱すぎるレオの口説きに、フレデリカは目を直視できない。




「フレデリカ様」


「れ、レオくん……あの、わたし――」


「――ちょっと待ってえ。レオくん、残念ながらそう簡単にいく話じゃないのよ~?」


「ミリアンさん……」




 横槍を入れてきたのは、ミリアンだった。




「ないとは思うけど~。今ここで、仮にフレデリカが頷いても抜けることはできないわぁ」


「うぐっ」




 今し方、頷こうとしていたフレデリカが頬をひきつらせた。




「それは、なぜですか?」


「ヴィンセントの許可が必要よぉ。パーティリーダーである彼が許可しないことには~、フレデリカは脱退できないの~」




 ミリアンの言葉に、ローランも頷いた。




「僕らは……契約を……結んでいる……から……それを破棄しないことには……フレデリカは……やめられない」


「【シャフリーヴァル】はそういうところ厳しくて~。そう簡単にはやめられないのよぉ」


「なら、ヴィンセントさんと話をつけてきます。今どこにいるんですか?」


「南西都市メラクよ~。そこに私たちの拠点があるの~」


「メラク……」




 つぶやいたレオは、ちょうどいいと頷いた。

 そこにはフランの住んでいた家もあるし、レオも昔はそこを拠点にしていた。

 それに、魔道武闘会が終わればメラクに戻る予定だったのだ。




「私たちも明後日には公国ここを出ようと考えてたの~。一緒に帰りましょう? ガウェインなら一日半で向こうに到着するわあ」


「……フレデリカの件は……またそこで……話し合おう……」


「わかりました。明後日、よろしくお願いします」


「ええ~。じゃあ、またねえ。フレデリカはどうするの~?」


「わ、わたし!? わたしは、えと……」




 チラリと、レオを見遣るフレデリカ。

 レオは、




「フレデリカ様。きょうは疲れましたし、また明日にでも会えませんか?」


「う、うんっ! 会いたい!」


「じゃあ、また明日。噴水の前で待ってますから」


「うん! じゃあね、レオくん! また明日、絶対だからねっ」




 こうして、フレデリカたちと別れたレオは、恐るおそる後ろを振り返った。




「――お話、しましょうか兄さん」


「今夜は寝かせない」


「……はは」




 両腕をがっちりホールドされたレオは、乾いた笑い声をあげながら連れて行かれた。







 それから、宿屋にて。

 



「あれ……なんだか、眠くなって……」


「ふ、フラン……?」




 宿に着くなり、急に瞼を閉じて眠ってしまったフラン。

 意識を手放したフランを、ヌゥが抱き留めた。




「疲れてたみたい。フランは寝かせておくから」


「あ、ああ。頼む、ヌゥ」


「ん。また」


「ああ。また、明日な」




 フランをヌゥに任せて、レオは自室へと戻った。

 



「きょうは、いろんなことがあったな……」




 寝る準備を終えたレオは、ベッドに横になりながら一日を振り返る。

 本当に、いろいろなことがあった。

 エヴァの敗北。ピエルパオロとの準決勝。フランが連れ去られ。ノイトラの面々に復讐を果たした。



 そして、あのフレデリカと恋人同士になった。



 窓から差し込む月明かりを眺めながら、フレデリカの笑顔を思い出す。




「本当に……夢なんじゃないかと疑うほどだ……」




 あの日に望んだこととはいえ、本当にここまで来られるとは思ってもいなかった。

 ――いや。

 



「全部……望んだから手に入ったんだ」




 望んで、努力して、覚悟を決めて。

 しかし、まだ欲しいもののすべてを手に入れていない。




「エヴァとフランには、どう説明しようか……いや、こうなったらもう、とことん話し合って許してもらうしかない」




 三人と結ばれる。

 それを当面の目標にして、レオは瞳を閉じた。




「俺ならやれる……全員を幸せにしてみせる」




 覚悟なら出来ている。

 なら、あとはやるのみだ。







 それから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 一時間? 二時間? いや、それとも数分だろうか。



 夢でもみていたような気はするが、ずっと起きていたような気もする。

 そんな朧げな意識の覚醒。

 うっすらと開かれた瞳には、幼い顔つきの少女がいっぱいに広がっていた。




「……?」




 夢?

 多分、そうだろう。

 そうでなくては、彼女がここにいる理由がわからない。




「レオ――」




 鼓膜を舐る甘い吐息。

 体を起き上がらせたのか、少女の顔が遠ざかる。




「――あなたのが欲しい」


「……!?」




 身に纏っていた肌着を、みょうに艶かしく脱いだ少女。

 月明かりに照らされた彼女の褐色が、美しく妖艶だった。




「お願い。抱いて」


「ぬ――ぅ?」


「ん。大丈夫、これは全部、夢だから」




 頬を撫でる指の感触。

 そして、徐々に伝わってくる少女の体重。

 さらりとした白髪が、レオの鎖骨を濡らした。




「夢だから、好きにしてもいいんだよ」


「―――」




 迫ってくる少女の唇。

 これは、夢なのか、現実なのか。



 どちらなのかを明瞭にするよりも先に、レオは跳ね起きた。




「あん」


「ゆ、夢じゃない――!?」


「もう少しだったのに」


「な、な、何をしてるんだヌゥ!?」




 少女――ヌゥの着ていた肌着を慌てて被せ、裸体を隠す。

 



「何って、夜這い?」






「おもしろかった!」



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