038 成就する魔術師
公国にて行われた魔道武闘会。
百戦錬磨の猛者たちが集うその場にて、大会を制した男――魔術師レオはたった今、己が口に出した言葉を振り返った。
『俺と――結婚してください』
「ん?」
思い出してみて、あれ、と口許を抑えた。
言いたかった言葉から、飛躍しすぎた気がする。
いや、何かの間違いだ。
浮かれていたとはいえ、そんな、とつぜん求婚だなんて――
「あ、えと、違います、俺は友達になって欲しいと――」
「れ、レオくん……あの、ちょっと気が……早いよぉ。もっとお互いのこと、し、し、知ってから……か、体の相性とか大事っていうし!」
「え?」
「だ、だから、う、嬉しいんだけど……その、まずは恋人から――お願いします」
「……あーーー」
赤面しながら、俯いてもじもじとするフレデリカを見て、レオもまた、顔を真っ赤にして動揺した。
やっぱり、求婚したのか、今?
想いが飛躍して、プロポーズしたのか、今?
しかし、目前の、手を触れ合わせた彼女の反応は――脈ありだった。
完全に、恋愛初心者のレオですら、理解できるほどに、脈ありだった。
「あああああああああ、あのッ!! ほ、ほんとにいんですかッ!!?」
「ぎゃ、逆にそっちから言っておいて拒否されると、こ、困るよ……?」
「~~~~~~~~ッ」
レオより頭一個分もちいさい、神秘的な輝きを放つ少女の、上目遣い。
言葉を失って悶えるレオに、フレデリカが苦笑した。
「その、よろしくね? レオくん」
「~~~っ!! こちらこそ――よろしくおねがいします!!」
九十度に腰を折ったレオ。恥ずかしさと嬉しさのあまりに涙を目元に浮かべて、レオは今にも叫び出しそうだった。
と、そこへ。
「きゃ~~~っ!! 見ちゃったあ、聞いちゃったわあ~~~!」
「御祝儀代……稼ぐよ……俺……」
「とつぜんの求婚には驚いたけどぉ、まあこの際はどうでもいいわあ! おめでとうフレデリカ~!」
「ちょ、ちょっと見てたのかよもう! は、恥ずかしいじゃないか……っ」
「『レオくん。他の誰かがきみをさらっていってしまう前に、わたしがきみを奪うよ』」
「ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「もうほんっとに、見てるこっちが恥ずかしいくらいの純愛ねえ~~~っ」
「馬鹿にしちゃ……いけないよ……祝福……してあげないと……」
パチパチと手を叩きながら、現れたSランク冒険者あのミリアンとローラン。
羞恥に顔を染めたフレデリカが頭を抱えた。
「――やっと見つけました兄さんっ! って、なんですかこの騒ぎは……兄さん、なに手繋いでるんですか」
「ん……先を越された?」
「どういうことですか、ヌゥさん? 兄さん? いいかげん手離したらどうです?」
遅れてやってきたフランが、手を繋ぐ義兄とフレデリカの姿を見て、目尻をあげた。
続いたヌゥが、何かを察して指を唇に這わせる。
「うふふ、うふふふ。ほらフレデリカぁ。せめて妹さんには紹介しなさいな~」
「うぇ、あ、う、うんそ、そうだよね……!」
「なんですかその彼氏を親に紹介するような――――え?」
「ヌゥは、二番目でも……いい……うぅ」
察したフランが目を見開き、ヌゥが目元を両手で隠した。
ヌゥに関しては演技だと見破ったレオは、フランの呆然とした顔に罪悪感を抱いて、
「フラン。話があ――」
「フランちゃん。きょうからわたしのこと、お姉さんって呼んでね?」
「――――はぁ?」
レオの言葉を遮って、フレデリカが両目を瞑りながら、緊張した面持ちでそういった。
ぷふっ、と吹き出すミリアン。ローランは、一歩後ろへ退いた。
「こんなところで……天然を……っ」
「受ける、ほんとウケるうちのお姫様、わら、笑いが止まらな――」
「兄さん? 説明、お願いします。わたしの勘違いを晴らしてください」
「うぅ……せめて、レオの子供は欲しい……」
「あ、あわわわ……またやっちゃったかなわたしっ!?」
笑顔が怖いフランと、棒読みで泣くヌゥ。
焦るフレデリカと、視線を明後日の方向に見やったレオ。
さて、どうしたものかと冷汗を背中に感じながら、レオは頬をかいた。
「――ところで~。フレデリカぁ、付き合うのはいいけど~、パーティの件については説明したかしら~?」
答えあぐねていた二人に、横から助け舟がきた。
「ぱ、パーティですか?」
「あ、そうだった! レオくん、わたしたちのパーティ【シャフリーヴァル】に入らないかい?」
「しゃ、シャフリーヴァル……ですかっ!? あの、Sランクパーティの!!」
Sランク冒険者パーティ【シャフリーヴァル】。
冒険者の頂点に立つSSランクを背負う青年【ヴィンセント・クゥエルナイ】が率いる、最強の冒険者パーティだ。
「今回、公国に来たのはスカウトのためだったんだ。これからうちのパーティはギルドから独立を果たすの。そのために、大きな戦力を兼ね備える人手が欲しいんだ」
「うちのバックには数多くの貴族がスポンサーとしてついているから~、仕事にもお金にも困らないわよ~?」
「結婚は……盛大にやろう……あ、でも……人が多いと……俺は……」
「基準はAランク以上からだけど、レオくんなら問題ないよ。なんたって、魔道武闘会優勝者だし!」
「Sランク冒険者三人の推薦なら~、ヴィンセントも快諾してくれるわあ」
「……フレデリカの件については……異論がある……かも……でも……まあ……問題なし……」
その誘いに、レオは体が震えそうだった。
冒険者なら誰もが耳にしたことのある超実力派のパーティ。
在籍人数は十人で、全員がAランク以上。
そしてリーダーを務めるSSランクのヴィンセントは、王国に在籍する中で最強の一角を占める男。
そんな者たちと肩を並べて戦えるなんて。
そして何よりも、強くなりたいと願うレオにとっては、うってつけの場所だ。
「どうかな? わたしと一緒に来ないかい?」
「―――」
フレデリカと、ミリアン、ローラン。
三人の実力者が、レオを欲しいと言った。一緒に来て欲しいと、いった。
胸を打つ波濤に、レオは一瞬息を詰まらせてから、はっきりと告げた。
「――すいません。俺は、パーティに入れません」
「「「え?」」」
表情を強張らせた三人。追い討ちをかけるように、レオは真剣味を帯びた声音でいった。
「一緒に来てください、フレデリカ様。俺と一緒に、冒険しませんか?」
「「「ぬぁッ!!?」」」
Sランクパーティ在籍のSランク冒険者【舞遊ぶフレデリカ】を、Cランク冒険者が引き抜く瞬間だった。
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