037 そして魔術師は
「――ということだ、ヌゥ。おまえはもうしばらくの間、あの男の元にいろ」
「……」
「忘れるなよ。おまえはおまえのなすべきことをやれ。――報告を楽しみにしている」
魔道武闘会、優勝者【魔術師レオ】。
大歓声の渦とかしたその会場の、隅にて。
ヌゥは、その男と別れて仲間達の元へ向かった。
「――レオ。やっぱり優勝した。強かった」
「ええ、ええ! もうほんっとに規格外よね、なんなのよあいつッ」
「兄さん……! 兄さんは、手に入れたんですよね!? 強くなったっていう証明を――【最強】を!」
「レオくん……き、緊張してきた……っ」
ヌゥの不在については、誰も気がついていないようだった。
それも当然だ。
皆の視線が、たった一人の男に注がれている。
黒炎の中に佇む、一人の勝者。
大陸から集まった百戦錬磨の猛者たちの、頂点にたった男。
「……でも、レオ。これは入り口。土台に上がったに過ぎない」
いわば、強者への挑戦権。
それを獲得したに過ぎないと、ヌゥは口角を上げた。
「――ようこそ、レオ。こちら側へ」
*
魔道武闘会を終え、賞金を手にしたレオは聖女の口添えのもと裏口から会場をでた。
「優勝者は人気者ですから。大変ですよ、各国のお偉いさんと面会するの」
「ありがとうございます。何から何まで……」
「これも勝者の権利です。では、わたくしはまだやることが残っておりますので」
「はい。その……スイマは、やっぱり」
「――ええ。残念ながら、わたくしでも死者は戻せません」
「そうですか。それなら、いいんです」
「? あまり気落ちしないでください。魔道武闘会ではよくあることです」
「聖女様でも、治せなかったことがあるんですか?」
「この力も万能ではありません。あなたのような、たまに現れる規格外相手では、手に負えませんから。さ、行ってください。愛するお嬢さん方がお待ちでしょう?」
「あ、愛するって…………はい。行きます」
「ふふ。ではまた、どこかでお会いできることを楽しみにしております――」
聖女アンジェリーナと別れたレオは、宴のように盛る街を歩いていた。
「といっても、どこで待ってればいいんだ……? 会場に戻ったら、聖女様の行為が無駄になってしまうし……」
その周辺も然り。
仕方なく屋台群を抜けて、ぶらぶらと街を歩いてみることにした。
「どこもかしこも俺の話で持ちきりだ……恥ずかしいな」
屋台で買ったお面で顔を隠しつつ、フランクフルトを頬張る。
憑き物が落ちたような、そんな気分だった。
清々しい。
今なら何でもやり遂げられる――そのような万能感に満ちていた。
「――やっと見つけたよ、レオくん」
背後からそう声をかけられて、振り向くとそこには、あの日あの時と同じ格好をした、薄桃色の少女が立っていた。
「フレデリカ様……よくわかりましたね」
「ふふん。これでもSランク冒険者だからね! 歩き方でわかるよ」
「歩き方……クセのある歩き方でしたか、俺……?」
「ううん、そうじゃないよ。――強者特有の、無駄のない体重移動だった。だから見つけられたんだ」
「……ちょっと、俺には難しいみたいです」
「ははは、もっと誇りなよ。きみはかの魔道武闘会を制した男だよ? もはや誰もがきみを放っておかない」
この期に及んで、自らを卑下することは言わないし、言えない。
それは、あの武闘会に出場した者たちへの侮辱になるから。
そして、己の評価を改めよう。
あの日――【ノイトラ】に追放され、フレデリカと出会ったあの日から。
強くなったのだと。
復讐をなせるぐらいには、強くなったのだと。
そして――
「レオくん。他の誰かがきみをさらっていってしまう前に、わたしがきみを奪うよ」
手のひらを差し出したフレデリカ。
はにかんで、笑う彼女の姿を見て、レオは涙が溢れそうになった。
「俺は……ここまで、来れたんだな」
願った場所へ。
フレデリカの隣に並ぶという、その一歩が今、目前に提示されていた。
「っ、……レオくん……!」
迷いはなかった。
その手を取るのに、迷いはなかった。
しかしと、その伝わる指のやわらかな感触と温もりに、レオの中で伝えたい想いが爆発した。
「――フレデリカ様」
「なあに? レオくん」
「俺と――――結婚してください」
*
「ったくもう、あいつどこ行ったのよ」
ひとり、フランたちより先に会場を抜けたエヴァは、レオの匂いをたどって街へ繰り出していた。
その手には、レオがいつも肌身離さず身につけていたポーチ。
【古代遺跡フレイヤ】で拾ったものだった。
「ひとが多過ぎてわからないわ……レオの匂いがぜんぜんしない」
くんくんと、ポーチに染み付いたレオの匂いを嗅いでから、周囲を見遣る。
ごった返した人波のせいで、レオの匂いが途切れている。
「……仕方ない、か。しらみ潰しに探していくしかないわね」
早歩きになっていくエヴァ。人混みをかき分けて、進むにつれて段々とレオの匂いを感じてきた。
鼓動が早くなる。
このにおいをたどって行けば、レオに会える。
「……うぅ。なに恥ずかしがってんのよ、ためらうんじゃないわよ、今更じゃないばかぁ」
レオに、伝えたいことがある。
優勝したら、言おうと思っていた言葉がある。
彼が復讐を終えたなら、いってやりたい言葉がある。
そして何よりも。
「これからも、ずっと一緒にいたい……」
ぽつりとこぼした言葉に頷いて、エヴァは己の想いを確かめる。
そんな時だった。
「お嬢ちゃん。よかったらこれ、見ていかないかい?」
「ごめんなさい、今忙しいの――」
「想い人に渡せばきっと恋は叶うよ。これはそういうお守りだ」
「―――」
弾けるように、エヴァはその屋台の老婆を見た。
老婆が売っているのは、さまざまなアクセサリー類だった。
そのうちの二つ、老婆が手のひらに乗せているネックレスは、惹かれ合うようにして光る赤と青の宝石が埋め込まれていた。
「お嬢さんは青。お相手さんには赤をおやり。今なら半額にしておくよ」
「……一応、もらっておくわ」
「恋、叶うといいね」
老婆のしゃがれた声に、赤面しながらも頷いたエヴァ。
一つを自分の首元に垂らしたエヴァは、もう一つのネックレスを握って、レオのにおいをたどった。
「もうすぐそこ……どこにいるの、レオ……!」
早鐘をうつ鼓動。
呼応して、呼吸も上がってくる。
レオ。レオ、レオ――早く、あんたに会いたい。
人混みを抜けて、すぐの場所だった。
少し離れたその場所で、レオの立ち止まった後ろ姿が見えた。
「っ、れ―――……?」
声をかけようとして、レオが誰かと話していることに気がついた。
ほとんど反射的に、近くの物陰に隠れて、レオと――もう一人の、少女を伺った。
「あれは……フレデリカ……?」
どうして、あの女がここに?
いや、それよりもどうしてレオと、あの女が手を握ってるの――!?
ぎりっと歯を噛んで。
ほつほつと燃えたぎる炎に背中を押されて、一歩踏み込んだ時だった。
「俺と――――結婚してください」
「……え」
レオから放たれたその言葉が、エヴァの眉間を殴った。
手から滑り落ちるネックレス。
聞き間違いでは、なかった。
ついで繰り広げられる言葉のやりとりに。
気がつくと、頬に雫が伝っていた。
「あの時から、あなたに助けられたあの時から、ずっと――俺は」
「そう、だよ、ね……あんたは、ずっと……っ」
涙が、拭ってもぬぐっても溢れてくる。
とうとうしゃがみ込んだエヴァは、必死に声を押し殺す。
「私も、あんたが、好き……なのに……っ」
言葉は、届かなかった。
伝える前に、終わってしまった。
ネックレスを拾い、大事に手で包み込んで、胸に押し当てる。
その夜、涙が乾くことは、なかった。
【第一部 完】
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