表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/74

037 そして魔術師は

「――ということだ、ヌゥ。おまえはもうしばらくの間、あの男の元にいろ」


「……」


「忘れるなよ。おまえはおまえのなすべきことをやれ。――報告を楽しみにしている」




 魔道武闘会、優勝者【魔術師レオ】。

 大歓声の渦とかしたその会場の、隅にて。

 ヌゥは、その男と別れて仲間達の元へ向かった。




「――レオ。やっぱり優勝した。強かった」


「ええ、ええ! もうほんっとに規格外よね、なんなのよあいつッ」


「兄さん……! 兄さんは、手に入れたんですよね!? 強くなったっていう証明を――【最強】を!」


「レオくん……き、緊張してきた……っ」




 ヌゥの不在については、誰も気がついていないようだった。

 それも当然だ。

 皆の視線が、たった一人の男に注がれている。



 黒炎の中に佇む、一人の勝者。

 大陸から集まった百戦錬磨の猛者たちの、頂点にたった男。




「……でも、レオ。これは入り口。土台に上がったに過ぎない」




 いわば、強者への挑戦権。

 それを獲得したに過ぎないと、ヌゥは口角を上げた。




「――ようこそ、レオ。こちら側へ」





 *




 魔道武闘会を終え、賞金を手にしたレオは聖女の口添えのもと裏口から会場をでた。




「優勝者は人気者ですから。大変ですよ、各国のお偉いさんと面会するの」


「ありがとうございます。何から何まで……」


「これも勝者の権利です。では、わたくしはまだやることが残っておりますので」


「はい。その……スイマは、やっぱり」


「――ええ。残念ながら、わたくしでも死者は戻せません」


「そうですか。それなら、いいんです」


「? あまり気落ちしないでください。魔道武闘会ではよくあることです」


「聖女様でも、治せなかったことがあるんですか?」


「この力も万能ではありません。あなたのような、たまに現れる規格外相手では、手に負えませんから。さ、行ってください。愛するお嬢さん方がお待ちでしょう?」


「あ、愛するって…………はい。行きます」


「ふふ。ではまた、どこかでお会いできることを楽しみにしております――」




 聖女アンジェリーナと別れたレオは、宴のように盛る街を歩いていた。




「といっても、どこで待ってればいいんだ……? 会場に戻ったら、聖女様の行為が無駄になってしまうし……」




 その周辺も然り。

 仕方なく屋台群を抜けて、ぶらぶらと街を歩いてみることにした。




「どこもかしこも俺の話で持ちきりだ……恥ずかしいな」




 屋台で買ったお面で顔を隠しつつ、フランクフルトを頬張る。

 憑き物が落ちたような、そんな気分だった。

 清々しい。

 今なら何でもやり遂げられる――そのような万能感に満ちていた。




「――やっと見つけたよ、レオくん」




 背後からそう声をかけられて、振り向くとそこには、あの日あの時と同じ格好をした、薄桃色の少女が立っていた。




「フレデリカ様……よくわかりましたね」


「ふふん。これでもSランク冒険者だからね! 歩き方でわかるよ」


「歩き方……クセのある歩き方でしたか、俺……?」


「ううん、そうじゃないよ。――強者特有の、無駄のない体重移動だった。だから見つけられたんだ」


「……ちょっと、俺には難しいみたいです」


「ははは、もっと誇りなよ。きみはかの魔道武闘会を制した男だよ? もはや誰もがきみを放っておかない」




 このに及んで、自らを卑下することは言わないし、言えない。

 それは、あの武闘会に出場した者たちへの侮辱になるから。



 そして、己の評価を改めよう。

 あの日――【ノイトラ】に追放され、フレデリカと出会ったあの日から。



 強くなったのだと。

 復讐をなせるぐらいには、強くなったのだと。



 そして――




「レオくん。他の誰かがきみをさらっていってしまう前に、わたしがきみを奪うよ」




 手のひらを差し出したフレデリカ。

 はにかんで、笑う彼女の姿を見て、レオは涙が溢れそうになった。




「俺は……ここまで、来れたんだな」




 願った場所へ。

 フレデリカの隣に並ぶという、その一歩が今、目前に提示されていた。




「っ、……レオくん……!」




 迷いはなかった。

 その手を取るのに、迷いはなかった。



 しかしと、その伝わる指のやわらかな感触と温もりに、レオの中で伝えたい想いが爆発した。




「――フレデリカ様」


「なあに? レオくん」




「俺と――――結婚してください」









「ったくもう、あいつどこ行ったのよ」




 ひとり、フランたちより先に会場を抜けたエヴァは、レオの匂いをたどって街へ繰り出していた。



 その手には、レオがいつも肌身離さず身につけていたポーチ。

 【古代遺跡フレイヤ】で拾ったものだった。




「ひとが多過ぎてわからないわ……レオの匂いがぜんぜんしない」




 くんくんと、ポーチに染み付いたレオの匂いを嗅いでから、周囲を見遣る。

 ごった返した人波のせいで、レオの匂いが途切れている。




「……仕方ない、か。しらみ潰しに探していくしかないわね」




 早歩きになっていくエヴァ。人混みをかき分けて、進むにつれて段々とレオの匂いを感じてきた。



 鼓動が早くなる。

 このにおいをたどって行けば、レオに会える。




「……うぅ。なに恥ずかしがってんのよ、ためらうんじゃないわよ、今更じゃないばかぁ」




 レオに、伝えたいことがある。

 優勝したら、言おうと思っていた言葉がある。 

 彼が復讐を終えたなら、いってやりたい言葉がある。



 そして何よりも。

 



「これからも、ずっと一緒にいたい……」




 ぽつりとこぼした言葉に頷いて、エヴァは己の想いを確かめる。

 そんな時だった。




「お嬢ちゃん。よかったらこれ、見ていかないかい?」


「ごめんなさい、今忙しいの――」


「想い人に渡せばきっと恋は叶うよ。これはそういうお守りだ」


「―――」




 弾けるように、エヴァはその屋台の老婆を見た。

 老婆が売っているのは、さまざまなアクセサリー類だった。



 そのうちの二つ、老婆が手のひらに乗せているネックレスは、惹かれ合うようにして光る赤と青の宝石が埋め込まれていた。




「お嬢さんは青。お相手さんには赤をおやり。今なら半額にしておくよ」


「……一応、もらっておくわ」


「恋、叶うといいね」




 老婆のしゃがれた声に、赤面しながらも頷いたエヴァ。



 一つを自分の首元に垂らしたエヴァは、もう一つのネックレスを握って、レオのにおいをたどった。




「もうすぐそこ……どこにいるの、レオ……!」




 早鐘をうつ鼓動。

 呼応して、呼吸も上がってくる。




 レオ。レオ、レオ――早く、あんたに会いたい。




 人混みを抜けて、すぐの場所だった。

 少し離れたその場所で、レオの立ち止まった後ろ姿が見えた。




「っ、れ―――……?」




 声をかけようとして、レオが誰かと話していることに気がついた。

 ほとんど反射的に、近くの物陰に隠れて、レオと――もう一人の、少女を伺った。




「あれは……フレデリカ……?」




 どうして、あの女がここに?

 いや、それよりもどうしてレオと、あの女が手を握ってるの――!?



 ぎりっと歯を噛んで。

 ほつほつと燃えたぎる炎に背中を押されて、一歩踏み込んだ時だった。





「俺と――――結婚してください」



「……え」





 レオから放たれたその言葉が、エヴァの眉間を殴った。

 手から滑り落ちるネックレス。



 聞き間違いでは、なかった。

 ついで繰り広げられる言葉のやりとりに。

 気がつくと、頬に雫が伝っていた。




「あの時から、あなたに助けられたあの時から、ずっと――俺は」



「そう、だよ、ね……あんたは、ずっと……っ」




 涙が、拭ってもぬぐっても溢れてくる。

 とうとうしゃがみ込んだエヴァは、必死に声を押し殺す。




「私も、あんたが、好き……なのに……っ」




 言葉は、届かなかった。

 伝える前に、終わってしまった。



 ネックレスを拾い、大事に手で包み込んで、胸に押し当てる。

 


 その夜、涙が乾くことは、なかった。






【第一部 完】

「おもしろかった!」



「続きが気になる!」



「早く読みたい!」



と思ったら



下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!



面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!



新作更新しました! こちらもぜひご一読いただければ幸いです!!


『追放された俺、気がつくとマフィアの首領になっていた件。〜望んだ結果を引き寄せる超絶スキルの覚醒〜』

https://ncode.syosetu.com/n1033gw/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レオはハーレム作る気しかないから絶望するのは早いよエヴァ!! そしてヌゥはなんか裏があるのか…まぁ何の予想もつかないけど
[良い点] うっわ…… [気になる点] あぁっ [一言] どうなるのっ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ