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035 救出する魔術師

「なんだ……? 遺跡内が騒がしい……まさか、いや……そんなはずねえ! こんな早く場所を特定できるはず……いや、そもそもこんな早くここまで来れるはずがねえ……!」




三階層へと続く階段フロアの前で、メルツが親指の爪を噛みながら怯えの表情を滲ませた。




「…………ぷぅ」


「ぅうぅぅぅぅ、痛い痛いいたいいたいいたい……痛いの消えないよぉ」


「…………ぷぅ」


「スイマぁ、スイマぁ……助けてよお、いたいよぉぉ……」


「――う、うるせえぞッ!! いいかげん正気に戻りやがれクソがッ」


「ぷぃっ!?」


「ひぐぃっ」




 苛立ったメルツがゴウゾウを殴り飛ばし、倒れた巨体がセナに覆い被さる。

 ゴウゾウの巨体に押し潰されたセナが、目を見開き、口を魚のようにぱくぱくとさせ呼吸を求める。




「くそっ!! どいつもこいつも使えねえ!! 思い通りにならねえ!! どうして俺は――どうしてこんなことにッ!!」




 癇癪を起こし、壁や虚空に向かって剣を振り回すメルツ。

 縄で拘束され、壁際に追いやられていたフランが、つぶやく。




「全部……自業自得なんじゃ、ないんですか……?」


「――あぁ? おいクソガキ、今なんつった?!」




 鬼のような形相でフランへ詰め寄るメルツ。

 顔をこわばらせたフランが、声を震わせながらいった。




「あ、あなたたちが……兄さんを追放したから……全部、そこから始まったんじゃないんですか?」


「つい、ほうだぁ?」


「兄さんは、あなたたちを信頼していたんです。仲間だと思ってたんです……それを踏みにじって、追放して、それで今度は……!」


「――俺はよぅ。あいつのことを気に入ってたんだ」




 フランの首筋に刃を這わせたメルツが、濁った黒い瞳で言った。




「だが、あいつは俺たちを裏切った。あいつは裏切ったんだ!! あいつが裏切ったんだ、俺たちを!! あいつは―――——あ?」


「……っ?」



 ぴたりと、挙動が停止した。

 メルツの中で、記憶に齟齬が生まれた。




「あいつが裏切った……? なにを……?」


「………」


「ち、違う……そうじゃねえ……そうじゃ、ねえだろ……! あいつは、弱いから、強いから、ああ、そうだ、俺たちが元に戻そうって――ちげえ、なんだこれ、なんなんだよこれはよぉッ!!?」



「――ひぅっ!?」




 フランの顔すれすれで剣が踊る。

 壁に食い込んだ剣。

 フランの額に、つぅと汗が滲んだ。




「なんだ、違う、違くない……くそッ!! 全部あいつが悪いんだ……あいつさえいなければ、あいつさえッ!!」


「……っ――」




 錯乱するメルツが、壁から剣を抜いた。

 両の手に握られた剣が、見えない敵を襲うかのように暴れまわり。

 その傍らで、いつ襲ってくるかもわからない狂人の恐怖に、フランは震えていた。




「――助けて、兄さん……っ」




 フランの、消えりいそうな叫び。

 それに呼応するかのように、ごうと遺跡内が揺れた。




「な、なんだ……?」




 なりふり構わず剣を振るい、叫び散らかしていたメルツの動きが止まる。



 ――熱い。

 遺跡内の温度が、急激に上がったように感じた。




「っ、なんだこの熱さ……なんだ、この――」




 ――威圧感は。



 震えが止まらない。

 それはメルツだけでなく、ゴウゾウとセナも同様で。




「……ぷ、ぷ、っ」


「あ、あああ、あああああああ痛いのくるぅぅぅぅ……!!」




 急激に怯え出した二人が、入り口を見やる――その時だった。




「――フラン。怪我はないか?」




 入り口から噴き出た火炎。

 まるで火山の噴火のように、赤々とした熱が吹き荒れた。




「れ―――—れ、れ、れおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!?」


「邪魔だ、退け」




 灼熱の中から現れたレオを目にしたゴウゾウが、炯眼けいがんを剥き出して飛びかかった。

 しかし、二メートルはある巨体が、一瞬にして火に包まれた。




「……おまえら、生きてここから出られると思うなよ」


「ぎゃあああああああああああああぁぁあぁぁあぁッ!!」




 焼かれ、ただれ、徐々に動かなくなっていくゴウゾウ。

 焚火のように燃え上がったゴウゾウの巨体を見て、セナが悲鳴をあげた。

 しかし、




「っぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」




 壁際まで這って逃げようとしたセナの足元から、黒炎が迫っていく。

 一瞬にして消える脚。

 ゆっくりと頭部に迫ってくる黒炎を、セナは意識の喪失と覚醒を繰り返しながら、恐怖のどん底に叩き込まれる。




「――メルツ。おまえは、手を出しちゃいけない女に手を出した」


「うッ―――動くんじゃ、ねえッ!! ふっざけんなそう簡単に終われっかよッ!!」




 あっという間に戦力の二人を失ったメルツは、フランへ手を伸ばす。

 だが、




「――諦めなよ。もう詰みだ」


「あ――え?」




 ぼとりと、腕が地面に落ちる。

 一陣の風と化したフレデリカが、メルツの腕を切り飛ばした。



 地に落ちた腕が黒炎に呑まれ、瞬く間に失せた。

 ごうと燃えたぎる黒炎。

 レオを起点として、漆黒の焔が渦を巻く。




「どのみち、おまえらのことは殺そうと思ってたんだ。武闘会に聖女がいる以上、おまえらは死ねないからな。いい機会だよ――だが、フランを巻き込んだことは後悔させてやる」



「ヒィッ!?」


「――【火虐かぎゃく磔刑たっけい――】




 メルツの体が弾けた。

 十字をなぞるように、黒炎が弾ける。



 黒炎で行われる【火虐の磔刑】は、一度の爆発ごとに四肢を削ぎ溶かす。

 触れた部分から燃え失せ、しかし爆発を最小に抑えることによって、メルツは地獄の苦しみを味わいながら、意識を何度も飛ばしていく。




「や——やめ、やめてく————」


「ダメだ。おまえには、償いが必要だ」


「だれか——たすけ——」




 やがて、メルツの体積が頭部だけとなり、完全に消失した。

 ことを終えたレオは、フランに向き直る。




「すまん。遅くなったな」


「兄さん……っ」




 フランの拘束をフレデリカが解く。

 目元に涙を浮かべたフランが、レオに抱きついた。




「ごめんなさい、ごめんなさい兄さん……っ! わたし、わたし、兄さんに……っ」


「大丈夫。大丈夫だから……フランが気にすることじゃない」


「兄さんっ!」




 震えた義妹の体を抱きしめて、フランの髪に顔を埋める。




「よかった。フランが無事で、ほんとによかった……」


「何事もなくてほんとによかったよ。――それにしても、レオくん。あの炎は……ううん。今は、無粋だね」




 続きをとめたフレデリカに、レオは再三と謝辞を述べた。

 そうこうしているうちに、遅れてエヴァたちがフロアに到着した。




「フラン……! よかった、無事だったのね」


「フラン、怪我はない? 大丈夫?」


「エヴァさん、ヌゥさん! 大丈夫です、わたしはなんともありません!」


「そう……! ならよかったわ」


「ん」


「よかったあ。元気そうで何よりよ~」


「……ああ……」


「妹さん、無事でよかったね」




 遅れて姿を見せた三人も、フランの状態を見て顔を綻ばせた。




「みなさん、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらいいか……」


「あ、それなら一つだけいいかしら~?」




 ミリアンが、ここぞとばかりにフレデリカを見やった。

 アイコンタクトを受けたフレデリカは、一瞬なんのことなのか困惑して、しかし、




「だ、だめだよ。こういう恩を売るかたちでそんなの、だめだ」


「……絶好のチャンス……だけど……」


「そうよ~? 今なら即答してくれるかもしれないのに~?」


「だ、ダメダメ! また違う機会にするからっ」


「もう~、真面目なんだからぁ」




 何やら話し合っているSランク冒険者たちへ、レオが頬を掻きながら言った。




「何か、俺にできることならやりますよ。ミリアンさんがいなければ、フランを助けるのにもっと時間がかかってましたし……。何か、恩を返させてください!」


「わ、わたしからも……何か、お手伝いできることがあれば、なんでも!」


「む、むむむ……」




 二人に言い寄られて、フレデリカがこめかみを抑えた。

 どうやら葛藤しているようだった。

 数秒考える素振りを見せたフレデリカは、意を決したように、顔をあげる。




「じゃあ、レオくん。武闘会が終わったら、わたしのために時間、作ってもらえるかな?」


「え? そ、そんなことでいいのなら、俺は問題ありません。ですが、他に何か……」


「ありがとう。それだけで十分だよ。これで貸し借りなし! いいね? ミリアン、ローラン」

 

「まあ、お姫様がいいならそれでいいわあ」


「……反対は、もとよりしていない……」


「よっし。じゃあ、帰ろっか。今から急いで帰れば、決勝に間に合うよ!」




 フレデリカの号令に従って、全員が出口を目指して歩を進めた。



 無事に救出されたフランは、もう二度と離れないように、レオの腕を抱きしめて歩いた。




「おもしろかった!」



「続きが気になる!」



「早く読みたい!」



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