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031 圧倒する魔術師

「やあ。こんなところで会うのは奇遇だね。それとも、運命かな」


「よくいう。ずっと後ろからついてきただろ」


「あら、バレてた? ハハッ、でも優しいね。気を遣ってくれたのかな? 別に、僕はみんなと一緒でもよかったんだけど」


「エヴァがよく思わないだろ。あいつは気にしないかもしれないが、少しでもストレスは与えたくない」


「へえ。じゃあ僕ってけっこう、神経図太いのかな?」


「知るかよ。――それで、俺に何のようだ?」




 準決勝が始まるまで、残り一時間を切った頃だった。

 路地裏の奥地で、レオはピエルパオロと向かい合っていた。




「ちょっと挨拶をしに、ね。今の僕は最高のコンディションだ。だからきみの体調を見ておこうかなって。ほら、互いに最高潮の方が楽しいでしょ? そのほうが盛り上がるし」


「そこに関しては問題ない。必ず満足させてやるよ」


「ははは、それは嬉しいなあ。ちなみに、一つ聞いておきたいんだけど」


「……なんだ?」


「レオ。きみ、傭兵に興味ない?」


「……傭兵?」


「うん。僕、帝国で傭兵をやってるんだ。まあ、王国でいう冒険者みたいなものさ。違うとしたら、仕事の対象が魔物だけでなく、ひとも含まれる、ということかな」




 噂だけなら聞いたことがあった。

 帝国は数多くの傭兵を雇っていて、魔人族討伐から暗殺、戦争など、各地に傭兵を派遣している。




「冒険者よりは圧倒的に稼ぎもいい。その分、正真正銘の実力主義で腕に覚えがないと傭兵になることすら難しい。――僕は、武闘会の優勝という依頼を受けてこの場に来たんだ」



「どうして……俺なんだ?」



「きみは強い。帝国でも上位に食い込める強さだ。――ああ、傭兵にもランク付けがあってね。僕はアリーナランク16位なんだけど、きみならすぐに二桁に成り上がれるよ」




 16位。それが強いのか、普通なのかどうかは知る由もないが。




「見てればわかる。きみは僕と同じ目をしている。強者を求める目だ」


「………」



「強いヤツと戦いたいのなら、傭兵が一番いい。申請を出せば、上位のランカーと戦って数字を奪い合うこともできる。一桁の傭兵は、陳腐な言葉に成り下がってしまうけど、強いよ」



「……魅力的だな」


「でしょ? なら――」


「……すまん。俺はまだ、冒険者としてやりたいことがあるんだ」




 フレデリカに追いつく。肩を並べて戦う。

 SSランク冒険者になる。

 フランを王国に帰す。そのほかにも、やりたいことがたくさんある。




「だから、すまん。断らせてもらう」


「……そうか。いや、いいんだ。真剣に考えてくれてありがとう」



「申し訳ない。だが、本当に魅力的な提案だった。俺は、もっと強くなりたい。だから強いやつと戦いたんだ」



「ははは、ほんとに素質あるよ、傭兵の。でも、まあそのうち一度でいいから帝国に遊びにおいでよ。もてなすよ」



「ああ。時間をつくって帝国へ行こう」


「うん、そうして欲しい。――じゃあ、準決勝で会おう」


「ああ」




 踵を返し、路地裏から消えていったピエルパオロ。

 レオもそろそろ会場に向かおうとして、




「……ヌゥか。いつからそこにいたんだ?」


「ずっと。何かあったらすぐ止められるように、ここにいた」


「そうか。安心したか?」


「ん。……レオなら勝てるよ」




 隣に並び立ったヌゥが、レオを見上げていった。

 そんな彼女のきれいな白髪に手を置いて、レオは笑った。




「当たり前だろ。俺は負けないぞ――誰にも、負けやしない」







『長らく待たせたな―――これより、準決勝を開始するッッ!!!』



「いよいよね……負けるんじゃないわよ、レオ……」


「す、すごい熱気……準決勝でこれなら、決勝だと会場、壊れちゃうんじゃないですか……っ」


「選手も盛り上がる。楽しみ、エヴァの仇打ち」




 盛大に湧き上がる観客たち。口々にレオの名をコールし始め、少なくはないがピエルパオロの声援も聞こえ始めた。




「レオくん、とうとうここまで来たね……!」


「楽しみねぇ。お姉さんもすっごい熱くなっちゃう~」


「ああ……俺があの場にいると想像しただけで……死にそうだ……恥ずかしい」




 そして、仕合に挑み、敗れてきた者たちも、隠せぬ興奮を抱えて会場を見やる。

 その中には、レオに敗れたものたちの姿もあった。




「チッ……あの野郎……そこは俺が立つ場所なんだよ……ッ」


「…………ぷぅ」


「痛い。痛いよ、痛いのやだ……痛い……スイマぁ、痛いよぉ……」




 敗者たちの輪から少し離れたところでスイマは、足と腕を組み、しばらくのあいだ閉じていた瞳を——開けた。




「―――来る」




『準決勝第一仕合ッ!! 【閃光】のピエルパオロぉッ!! ――VS【無名の魔術師】レオッ!! 強敵を屠りここまで勝ち上がってきた、正真正銘、猛者の中の猛者ッ!! 果たしてどちらが、最強の座へと王手をかけるのかッ!! 選手入場だぁぁぁッ!!!』




 その場に居合わせた武芸者たちが、一斉に息を呑んだ。



 西入場口より――

 

 


「―――」




 鋭い眼光をたずさえ、炎のように燃えたぎる闘志を発露はつろしたレオが、地を踏みしめた。



 彼から伝わってくる鋭角えいかく化した闘気に、数多くの武芸者が身震いした。



 ――強い。

 ただただ、圧倒的に。

 それ以外の感想を抱けぬほどに、息を呑む。




「……っ、仕上げてきたね……レオ」




 それは、対峙するピエルパオロが一番に感じていた。

 黒い炎が彼を包み込んでいる――そんな錯覚を覚えるほどに。




「始めようか。全力でかかってこい」


「……ハハッ」




 審判の合図を待たずして、戦闘態勢に移行する二人。



 生唾を飲み込む審判。

 これまで、数多くの武芸者たちの戦いをすぐそばで見守ってきた。

 立ち会ってきた数だけなら誰にも負けない。百戦錬磨だ。



 そんな彼女をもってして、一人の青年の気迫に呑まれ、我を忘れていた。




『アルカ、退け』


「――っ、ベティ……!?」


『もう始まってる――ッ!!』




 ベティ・カルロフの怒声が響いた刹那―――虚空から火炎が吹き荒れた。




「ッ!?」


「お姉さん、早く隅へ」


「――っ」




 火炎が轟々とピエルパオロへはしる。

 地を焼き、うねり吼える炎がピエルパオロを飲み込んだ――かと思われた瞬間。



 軍服の上着を捨て、黒いワイシャツ姿のピエルパオロが左へ滑空していた。




「【エア・インパクト】ッ!!」




 暴風の圧がレオへ放たれる。しかし、地上から噴き出た炎の壁が風を寄せ付けない。




「――【這い寄る炎縛之鞭(タフムーラス)】――」


「ッ――!?」




 襲いかかるのは、触手状に束ねられた無数もの炎手えんしゅ

 濁流のように迫るそれらを、羽のように軽い身のこなしでかわしていくピエルパオロだが、




「――【爆ぜ螺旋する炎流(シュウィラーレ)】――」




 断続的に大爆発を繰り返す火炎の渦。

 かわすことに専念していたピエルパオロは、その襲撃まで手は回らず、唇を噛んだ。




「――――っぅぅぅぅおおおおおおおおッ!!」


『ふ、風圧を自らに叩き込んで回避ぃぃぃッ!! なんて無茶な避け方だッ!?』


「だが――」


「これが、正解だッ!!」




 屈折するように二度、自らに暴風を叩き込んだピエルパオロ。

 炎と風によるダメージを抱えながらも、音速に匹敵する速度でレオへ迫る。




「炎を出す暇は与えない――ッ!!」




 抜剣ばっけん――放たれた細剣レイピアの、神業のごとき刺突。

 超至近距離に持ち込んだピエルパオロだったが、次の瞬間、視界が反転した。




「俺が――近距離なら戦えないとでも思ったか?」


「が、っはッ!?」




 地面へ、背中から叩きつけられるピエルパオロの細身。

 細剣を握る腕を掴まれ、一本背負を決められた【閃光】のピエルパオロは、血反吐を吹き飛ばした。




「な、なんであいつ、いつの間にあんな技を……?!」


「ふふん」


「もしかして、ヌゥさん?!」


「レオは、勉強熱心だから。まいあさ特訓に付き合ってた」


「し……知らなかった。まさかの伏兵っ……!」




 全身を侵す激痛に耐えながら、すぐさま起き上がったピエルパオロが細剣レイピアを振るう。

 しかし、軽やかな運足フットワークにより全ての攻撃を避け切ったレオは、五指ごしを握りしめた。刹那——




「――【禍突かとつ】——」




 地が砕けるほどの踏み込みに加え、腕を伸ばし切るバネの力。さらに、ねじ込むように回転させることにより抽出したそれの威力は、喰らえば最後――




「――敵は死ぬ」



 

 ヌゥの言葉を証明するかのように、ピエルパオロは壁に激突。奥深くまで埋まり……動く気配は、なかった。



 息を呑む観戦者たち。

 審判のオルカが、興奮を押し殺すようにして、叫ぶ。




「……っ!! し、試合……終了……ッ!!」



『き―――決まったぁぁぁッ!!!! 魔法だけでなく、武術にも精通したオールラウンダーがッ!! 決勝への切符を掴み取ったぁぁぁぁあああああ!!』




その瞬間、誰もが認めた――



彼こそが、【最強】の座に相応しいと。





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