030 遅れた魔術師
「――――あ」
聖女アンジェリーナと別れてすぐのことだった。
会場全体に響き渡る歓声と、仕合終了を告げるベティ・カルロフの言葉を耳にして。
レオは、エヴァの仕合のことを思い出した。
「や――やばい! すっかり忘れていたっ!!」
駆け出したレオ。
通路を一息で詰め、参加者の特別観戦席へと到着したレオは、
「兄さん――っ!!」
「……レオ、エヴァが……」
「嘘……だろ」
ありえない光景を見た。
『東エルドグラ統合国からの刺客を下したのはッ!! 【閃光】ピエルパオロだッ!!』
「……、ッ……!」
倒れ伏すエヴァと、全身から血を滲ませ、肩で大きく息を繰り返すピエルパオロ。
脂汗を額に浮かべたピエルパオロの左腕は変な方向に曲がっており、右足の太ももには穴が空いていた。
余裕のない表情。
しかし、しっかりと踏み締めるかのように、大地に足をつけていた。
『凄まじいッ!! 凄まじすぎたッ!! 今大会最高最大級の死闘に、興奮がおさまらねえッ!!! かの帝国がッ!! 最強を地に貶めたッ!!』
先ほどまで話していた聖女アンジェリーナがエヴァに駆け寄り、蒼白が瞬く間にエヴァの傷を癒していく。
のちに担架で運ばれていくエヴァ。
聖女は、休むことなくピエルパオロの元へ駆けた。
「エヴァさんが……まさか、負けるなんて……」
「何が、あったんだ……?」
「まずは医務室。急ぐ」
「あ、ああ。そうだな」
冷静なヌゥにうながされ、三人は会場に備えられた医務室へ向かった。
ベッドに移され、意識を失ったままのエヴァ。
外傷は全て元通りになっていて、静かに寝息をたてて眠っていた。
「大丈夫。疲労で寝ているだけですから」
「聖女様……ありがとうございます」
「いえいえ、これもお仕事ですから。――それでは、わたくしは」
パチリとウィンクをレオに送った聖女は、医務室を後にした。
「ヌゥ」
「……ん。ピエルパオロは強かった。エヴァも相当、ヌゥが思っていた以上に強かった。でも、猫目が一枚上手だった」
「ちゅ、抽象的すぎるな……」
「詳しいことは教えない。エヴァの勇姿を見てあげなかったレオへの、罰。レオが見ていたら、もしかしたら」
「ヌゥさん、兄さんは悪くありません」
「冗談」
「……すまん」
エヴァの前髪を指ですくい、そのまま頬を撫でる。
くすぐったそうに身じろぐエヴァに、レオは言った。
「準決勝、俺が勝つよ。ピエルパオロは、俺が倒す」
「猫目の情報、いる?」
「いや……問題ない。何が来ようとも、正面からねじ伏せる」
「兄さん……あまり自分を責めないでくださいね?」
「ああ。大丈夫だ」
頭は冷静に。しかし全身からは燃えたぎるような闘志を滲ませて。
レオは深く息を吐いた。
*
「――悪かったわね。約束……守れなくて」
正午。
第二回戦が全て終了し、二時間の休憩時間。
会場外の喫茶店で紅茶を口にしたエヴァが、詫びた。
「いや、あまり気にするな。そんなことよりも、もう体の方は大丈夫なのか?」
「ええ。聖女が元通りにしてくれたわ。すごいのね、聖女の魔法は。まるで時を戻したかのよう」
「……なら、よかった」
「……フラン。ちょっと付き合って欲しい」
「え? なんですか?」
「欲しいものがある。けど、一人じゃ買えない」
「……一人で行けばいいじゃないですか」
「……フラン……強情」
「はぁ……仕方ないですね。行きましょう。そのかわりに、高いですからね、これ」
「……レオにつけとく」
何やら話し合っていた二人が、席を立った。
「兄さん。十分後に帰ってきますから。ここにいてくださいね?」
「あ、ああ? どこかいくのか?」
「ちょっとそこまで……すぐ戻ってきますから」
「わかった。気をつけてな」
「ん」
喫茶店を後にしたフランとヌゥ。まだ昼食を食べきっていないというのに、どこへ行ったのだろうか。
「変に……気を遣わせちゃったかしら?」
「さ、さあ……?」
二人の後ろ姿を見送るエヴァとレオ。
「……ピエルパオロ、気をつけなさい。次の対戦相手でしょ」
「ああ。エヴァが負けるほどだ。油断はしないよ」
「ま、あんたが負けるとこなんて想像できないけど。――忠告、いる?」
「いや、いい。頭で考えるのは苦手だ。それに、何が来ようとも全部ねじ伏せるって決めたんだ」
それがたとえ、常識だろうと法だろうと、全て。
エヴァの紫色の瞳をまっすぐと見つめて、レオは言った。
「――エヴァ」
「な……なによ、そんな改まって」
「この大会が終わったら――優勝したら、話したいことがある。聞いてくれるか?」
「―――っ、え、と…………うん」
おもむろに、懐からサングラスを取り出したエヴァが目元にかける。
なぜかはわからないが、狼狽えているようだった。
「あの、……私も、レオに言いたいこと…………ある、から」
「そ、そうなのか?」
「う、ん。だから…………絶対、勝ってね」
「……ああ。絶対に、勝つ」
「——また話しかけるタイミング逃しちゃった……」
「タイミング悪いわねぇ、ほんとに〜。まさか聖女様ともお近づきになるなんてぇ」
「大丈夫……フレデリカも……容姿だけなら……負けてない……」
向かいのテラスから、二人の様子を伺う三人のSランク冒険者。
「もしかしたらぁ、武闘会が終わるまで待ったほうがいいかもねぇ」
「……無難かな……」
「でも、でもでも……少しだけでいいから、お話ししたい……」
「あらやだ、何この子かわいいぃ」
「応援……するよ……」
「あの人たち……またいるよ」
「……知り合い?」
「いえ……」
遠くからレオとエヴァを眺める三人の姿を、フランが偶然見つけた。
明らかにストーカーのような立ち回りをする彼女たちに、フランはため息を吐いた。
「もう戻りませんか?」
「……そんなに不安?」
「だって、定番じゃないですか。仕合に負けて慰めて親密度上がるって。たぶん、兄さんの中でエヴァさんが今、一番上ですよ?」
「大丈夫。そのうち覆るから」
「何を根拠に……」
唇をすぼめさせたフランが、遠巻きにレオを眺める。
胸騒ぎがする。
何か、嫌な予感がする——フランは、喩えようのない不安を抱いていた。
「おもしろかった!」
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