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003 決意する魔術師

「一分足らずで、魔物の群れを……」




 迫る群勢をたった一人で斬り伏せた、薄桃色ローズクオーツの少女。

 刃に付着した血を振り払いながら、にっこりとレオを安心させるように破顔した。




「もう大丈夫! これで安心だよっ!」


「ぁ、ちょ、やめてください子供じゃ……ないんですから……っ」




 近づいてきたフレデリカが腕を伸ばしてレオの黒髪をなでる。顔を赤く染め、振り払うこともできずなされるがままに撫でられる。




「えー、でもきっとわたしより年下だよ? いま何歳? 名前は?」




 わたしより年下——という信じられない言葉を確かめるため、頭のてっぺんから爪先まで視線を往復させた。

 レオよりも頭一個分ちいさい薄桃色ローズクオーツの少女。

 未成年だと言われても十分納得できてしまうあどけなさだが、しかし……




「……っ」




 ばっさりと布から露出したおおきな谷間だけは、おまえより大人なんだと主張していた。




「……えと、十九です。レオっていいます……Cランク冒険者、やってます」




 幼気な少女に実った果実にドギマギしながらレオは、頬を掻きながら名乗った。

 するとフレデリカは、




「ほら、やっぱり年下だっ!」



 

 と、うれしそうにはしゃいだ。




「わたし、今年で二十一歳。二つもうえだから、わたしの方がおねーさんだね、レオくん?」


「お、おね……っ」


「なんか文句あるー? 不服そうだなーこのっ」


「い、痛っ……痛いですって!」



 

 むくれながらぴょんぴょん跳ねて胸をたたいてくる可愛らしい少女をみて、やっぱり年下だろと疑った。

 程なくして、藍色の切れ長な瞳がレオを下から見上げた。




「——それで、Cランク冒険者のレオくんがどうしてこんなところにいるのかな? ソロでくるには危険すぎると思うんだけど」


「じ……実は」




 ——と。

 ことの経緯を説明しようとして、レオは口をつぐんだ。

 不審な態度のレオに、フレデリカは首をかしげる。



 数秒たって、ようやく口を開けたレオは、




「ソロじゃ、ないんですよ。パーティのメンバーと喧嘩しちゃって、それで……」



 

 嘘を、吐いた。




「飛び出しちゃったんだ? なるほど、でも周囲に人の気配はないよ……。遠くの方にいっちゃったのかな?」


「たぶん……だいぶ、走ってきましたし」


「すごい数に追っかけられてたもんね! あれは怖いよー、焦るよね。もしかして、装備も荷物も、武器も何もかも、それで落としてきちゃったのかな?」


「ははは……ちょっと、ドジ踏んじゃいまして……」




 乾いた笑みを貼り付けて、拳をギュッと握った。



 きっと、事情を話せば助けてくれるかもしれない。

 スイマたちとも仲介して、一時の迷いなのだと、そういう方向に持っていってくれるかもしれない。



 いや。

 レオを手痛く追放した【ノイトラ】に、然るべき処罰を与えてくれるかもしれない。



 彼女は、あのSランク冒険者——【舞遊ぶフレデリカ】なのだから。

 冒険者で知らない者はいない。

 影響力も信頼も人気も強い彼女のいうことに逆らえる人間など、そう多くいない。



 だが、それはしなかった。



 男としての見栄が、それを邪魔した。

 彼女のまえで情けない姿をみせたくない。すでに曝しているとはいえ、これ以上は、もう。




「せっかくだから、パーティのとこまで連れてってあげるよ。なんなら、仲裁も――」


「い、いえ、そこまでは……その、ほんとに、大丈夫ですから」


「そう? 遠慮しなくてもいいのに、わたしもこれから帰るところだったから」


「いえ……やり残したことも、あるので」




 一歩、フレデリカから距離を置いて、わずかに拒絶を示した。

 それとなく何かを察した薄桃色ローズクオーツの少女は、




「そっか……うん。わかったよ、無粋ってやつだよね。じゃあ、気をつけてレオくん。またどっかで会おうね」




 出会った時と同様に破顔して、踵を返した。




「はい。また、どこかで……」




 こちらを振り返り、大きく手を振って遠ざかっていくSランク冒険者の背を見送って、その影が消えた瞬間に、




「はぁぁぁ~~~、バカか俺は……自殺行為だぞ……ちくしょう」




 盛大に嘆息して、頭を掻きむしった。



 せっかく、フレデリカが助けてくれたというのに。

 また取り残されれば、魔物に襲われ、今度こそ死ぬかもしれない。しれないのに——だが。




「めちゃくちゃかわいかった……めっちゃ、かわいかった……ああああ、くそっ! ぜんぜん手が届かねえ!」




 あの無邪気な、屈託のない笑顔がもう忘れられなかった。薄いまぶたの裏に張り付いてはなれない。




「惚れた。あー、もう惚れちまったよ……。無理だろ、一目惚れした女のまえで情けないこと話すのは……無理だろ……無理だ」




 男のくだらないプライド。見栄に突き動かされて、強がった。助けを、拒んだ。




「でも、もう怖くない」




 体の震えは消え、胸が焼け落ちてしまいそうなほどに熱くたぎっている。

 



「強くなろう。スイマたち(あいつら)のためじゃない……あの子に……フレデリカさんに見合う男になれるように——」




 自分よりちいいのに絶句ぜっくするほど強くて、可憐でかわいらしいSランク冒険者(ツワモノ)



 いつかは俺も、と……彼女と肩を並べてたたかう姿を夢想むそうして、強く拳を握りしめた。




「遠い。果てしなく遠い……けど、いつか、必ずあの子のそばに……!」




 まずは、友達から。

 そこから発展して、ゆくゆくは結婚を――――その第一歩として。



 茂みが揺れる。現れたのは、一匹のブラック・ハウンド。

 魔物の死臭にさそわれて来たのだろう。レオを睨めつけたハウンドが、威嚇するように牙を剥いた。




「俺は、強くなる」



 

 もう怯えない。

 強い決意と、鮮麗たるイメージを手のひらにこめて――炎を射出した。

 


 鮮やかな赤がブラック・ハウンドを襲うも、避けられる。

 地を蹴って、飛びかかってくるブラック・ハウンド。その口内めがけて、冷静に、目をつぶることなく手のひらをかざし、




「ギャア――ッ!?」




 口内を貫いた炎が体内なかから焼き尽くしていく。

 地面でのたうちまわるブラック・ハウンドは、一分も経たずして尽きた。




「やれる。やれる、俺は――やれる。強くなる!!」




 さらに茂みから現れた魔物の姿を見ても、レオは動揺しなかった。

 もう逃げない。

 すべて、正面から倒してみせる。

 


 ——眼前の魔物を焼き滅ぼすイメージを。



 あの日——己は無力なのだと知ったあの日。

 あらゆるものを奪い、ただの弱者(人間)なのだと突きつけるように嘲笑った——地獄の炎を。



 イメージしろ。




「う——ぅぉぉぉッ!!」




 距離を詰めてくる魔物の群れへ向かって、全魔力イメージを叩き込んだ。

 視界を埋め尽くす黒。

 魔力が枯渇し朦朧もうろうとする意識のなかで。



 まるで解き放たれた地獄そのものを呈するかのように、黒炎が眼前へと広がっていた。




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