028 悩みを抱える魔術師
『一回戦第七仕合を勝ち抜いたのはッ! 【ノイトラ】所属Aランク冒険者!! 【焃熱に酔う】スイマぁッ!!』
「ふン……他愛ない」
観客を襲う熱風。
圧倒的力量さを見せつけ、場を賑わせたスイマが黒髪をなびかせて踵を返す。
「あれが親玉……なかなかの強さね」
「ああ……だが」
不思議と、スイマに負けるビジョンは浮かばなかった。
それは、あの頃の己ではないという、自負なのかもしれない。
あるいは、自信か。
拳を握りしめたレオは、静かに闘志を燃やす。
勝つ。
必ず、勝つ。
そして、新生したその身で、彼女――フレデリカに伝えるのだ。
「……よし。勝つぞ、エヴァ」
「当たり前でしょ。準決勝で会いましょう」
「ああ」
席をたった二人は、拳を重ね合わせた。
「兄さん。エヴァさん、ここから応援していますね! 絶対に勝ってくださいっ」
「ああ。任せろ、フラン。ここで待っていてくれ」
「ヌゥも応援してる。……エヴァ、気をつけて」
「なによ、珍しいわね。この私が負けるワケないじゃないのよ」
自信満々に胸を張ったエヴァに、ヌゥも頷いた。
『さあ、一回戦最後の仕合だ!! 熱はおさまらず、さらにボルテージが上がっていく今大会!! 前半戦、その区切りを告げるのはこいつらだぁぁぁッ!!』
「始まったな。準備しに行こうか」
「ええ。――じゃ、ヌゥ。フランのこと、頼んだわよ」
「任された」
「いってらっしゃい、兄さん。エヴァさん」
参加者専用の観戦席を出て、レオは西入場口、エヴァは東入場口へと向かう途中。
隣を歩くエヴァが、口を開いた。
「そういえば聞いてなかったわね。あんた、復讐を終えたらなにするの?」
「ん? あー……そうだなあ。そこについては、あんま考えてなかった」
「もう、抜けてるわねほんと。この際だから、考えておいてもいいんじゃない?」
「それもそうだな。……とりあえず、冒険者は続けると思う。おこがましいけど、最高ランクのSSを目指してみたいんだ。何年かかるかはわからないけど……そもそもなれずに人生を終えるかもしれないが」
「そっか。もっと自信持ってもいいと思うんだけど。あんなたらすぐになれるわよ」
「そ、そうか?」
「そうよ。私が保証してあげる」
「それは……心強いよ」
「そんで、拠点は? 武闘会が終わったら、どこにいくのよ」
「それについては決めてあるんだ」
「へえ?」
エヴァが興味津々といった様子で耳を傾ける。
「王国の南西都市メラクに向かおうと思ってる。そこは元々、俺が冒険者として活動していた場所だし、フランの暮らしていた街でもあるんだ。だから、とりあえずはそこで暮らす予定だ」
「……ふぅん。そっか」
「なんか、残念そうだな?」
「ベーつに。なんでも」
「……そういうエヴァは、武闘会が終わったらどうするんだ? その、統合国に帰るのか?」
「んー……その予定。魔道武闘会に出場するためだけに、あの国を出たようなもんだし。特に……やりたいことなんて、ないし……?」
チラリと、サングラス越しにレオを盗み見るエヴァ。
レオは、一瞬だけ表情を崩したかと思えば、なんでもないといった様子で返答した。
「そうか。そうだよな、武闘会が……目的なんだもんな」
「ええ。他に、目的なんて……ないからね」
「……」
「……」
どんよりとした空気が、二人から流れた。
互いに深く思考を逡巡させているうちに、別れ道に到着した。
「……じゃあ、いくわね」
「……ああ。気をつけてな」
「あんたも。見てるから、ヘマするんじゃないわよ?」
「もちろんだ。――じゃあ、準決勝で」
「ええ」
「……」
「……」
数秒の間、見つめ合う二人。
建物を揺らす歓声と振動、第八仕合の終了を知らせるベティ・カルロフの声に急かされて、レオは止まっていた足を動かした。
「もう……なんで言ってくれないのよ……」
「一緒に……来てくれないのか……」
互いの漏らした言葉は、互いに聞こえることなく霧散して。
モヤモヤを抱えたまま、レオは入場口へたどり着いた。
負傷した戦士が担架で運ばれていく。
相当激しい近接戦闘があったのか、敗戦者の体はアザだらけだった。
「…………欲しいものを全て、手に入れたいと思うのは傲慢だろうか」
思考を深く落とし込んでいく。
優勝することができたなら、強さの証明を得られる。と同時に、必ず決勝まで上がってくるであろうスイマを打倒することで、復讐も完遂できる。
そして、強くなったという『証明』を持って、フレデリカに想いを伝える。
それが――目標であり、糧でもあった。
しかし、今はどうだ?
「フレデリカ様……エヴァ……フラン……」
瞼を落とせば、すぐにでも蘇る三人の笑顔。
少し前までは、一人の顔しか浮かばなかったのに。
今では、その暗闇に三つの星が浮かんでいる。
『――二回戦第一仕合、開幕――』
ベティ・カルロフの声すらもわずかにしか聞こえないほどに、レオは思考を巡らせる。
誰か一人を選ぶ。
それが当たり前で、常識で、たとえ一夫多妻が許されていたとして、そんな器があるのかどうかも自分自身じゃわからない。
だが、しかし。
誰か一人だけを選ぶなんて、そんなこと――果たして、できるだろうか。
「ああ……そもそも、こんなことを考えている時点で、傲慢か……?」
ひとり問いかけてみて、とうぜんながら返事はない。
誰も答えはくれない。
『先に入場したのは、【ノイトラ】の双剣使いメルツだァ!! 第二回戦も、その流麗な剣捌きを魅せてくれッ!!』
歓声が響き渡り、レオの体を突き抜ける。
瞼を開くと、入場口から差し込む光から――レオを呼ぶ大多数の声が聞こえてきた。
『そしてッ!! 相対するのはこの男ッ!! 予選ッ! そして一回戦第一仕合にて、圧倒的火力を魅せつけたあの男がッ!! 会場を沸かしにやってきたッ!!』
「……行こう」
胸をちくりと刺す痛みを抱えながら、レオは入場口から外に出た。
雑念ばかりだが――不思議と、気分は悪くない。
『ご存知ッ!! 【無名の魔術師】レオの登場だぁぁぁああああッ!!!』
「……ふぅ。慣れないな、この感覚は……」
入場を果たしたレオは、まっすぐと敵を見据え、ゆったりとした足取りで中央へ向かっていく。
今は、復讐のことだけを考えろ——そう己に言い聞かせて、歩みを止めた。
「よぉ。逃げずによく来たな。ようやくこの時が来たぜ――次こそは、確実にてめえを葬ってやる」
「……おまえで二人目だ」
「――あ? なに吹いてやがんだてめえ……? どういう意味だゴラ」
「おまえは、ゴウゾウのように優しくなぶられると思うなよ」
メルツ。レオを将来性なしと見限り、賭けの対象にもした男。
「十万ディラだっけか? おまえがベットした分だけ地獄を味合わせてやる」
「はっ、それで俺の十万ディラが帰ってくるなら考えてやってもいいぜ。――ちなみに、俺ぁスイマと賭けてんだ。俺が勝てばスイマから百万ディラ。俺が負ければスイマに百万だ」
特別観戦席へ、指を向けたメルツが口角を歪めて言った。
「俺が負けることなんて万が一もねえ。ゴウゾウのようなヘマもしねえよ、俺は慎重だからなぁ。つーわけで、カモさんとっととくたばってくれやッ!!」
「ち、ちょっとまだなにも――!!」
『おおっとレフェリーの合図を待たずしてメルツが双剣を抜いたぁぁぁッ!!』
鞘から抜き放った双剣を投げるメルツ。
レフェリーを避けるようにして、回転した双剣が左右からレオを襲う。
「ようは間合に入らなきゃいいっつう話だろッ!? 見切ってんだよてめえの弱点はぁぁぁッ――――ッ、ぎゃっっっっあああああああああああああ!!?」
「……入らないもなにも、最初からそこは俺の間合だよ」
メルツの肢体を覆うように炎が吹き上がり、あっという間に飲み込まれた。
回転して飛んできた双剣を、危なげなく掴み取ったレオは、両手の剣を炎で溶かす。
「じっくり高火力で焼いてやる。おまえに関しては、別に死んでくれても構わん」
「――――」
「す、ストップストップぅッ!! そこまでぇっ!!」
『レフェリーストップぅ!! 速い! 速すぎるぞレオぉぉぉッ!! おそらく史上最速の決着だぁぁぁッ!!! ていうか、メルツ大丈夫かぁぁぁッ!?』
「ちょ、ちょっと坊や!? あの火、ぜんぜん消えないんだけどっ!? このままだったら死んじゃ――」
焦った様相で詰め寄ってくるお姉さん。
レオとしては、このまま殺してしまいたいところだが――この場には、フランもいる。
彼女には、あまり強い刺激を与えたくないと考えたレオは、お姉さんが言い終わるよりも早く指を鳴らした。
メルツを包んでいた炎が鎮火する。
黒焦げとなったメルツへ、聖女アンジェリーナが駆け寄った。
「大丈夫ですよ、私がすぐに治してあげますから」
「……」
反応のないメルツ。気にせず聖女は両手をかざす。
青白い光がメルツを包み込んでいき……驚くことに、焼け切った皮膚が再生し、みるみるうちに体が元通りになっていく。
「――ふぅ。とりあえず一命は取り留めました。あとは頼みますね」
「「「はい」」」
複数の魔術師がメルツを担架に乗せ、治癒魔法をかけながら退場していく。
レオもそれにならい、退場しようと歩き始めたところで、
「少し、よろしいですか?」
「聖女……様?」
銀髪の髪をなびかせて、聖女アンジェリーナがレオを呼び止めた。
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