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026 観戦する魔術師

「兄さん、お疲れ様です!」




 試合会場を後にしたレオは、入場通路でフランとヌゥ、エヴァと落ち合った。




「圧勝でしたね、すごかったです! とてもかっこよかった……!」


「ありがとう、フラン。なんとか勝てたよ」


「レオ。いい子、いい子……」


「ぬ、ヌゥ……恥ずかしいって、やめてくれ」




 レオの首に飛び込んだヌゥが、しがみつくように足を腰にからめ、髪の毛をわしゃわしゃ撫で回す。



 身長と幼い顔の割におおきい胸部が、レオの胸元に押し付けられ上下に擦られる。

 強く意識してしまう前になんとかヌゥを引き剥がそうと画策するレオだったが、しかし――




「おー、おー。いいご身分だなあ、レオぉ。ゴウゾウに勝ったからってもう主役気分かぁ?」




 通路奥から現れたのは、二本の剣を腰に携えた青年――【ノイトラ】の実質No.2、メルツだった。




「メルツ……」


「だれ……? レオ、知り合い?」


「ああ……昔の、仲間だ」


「仲間ぁ? 俺ぁよ、てめえのことを仲間だなんて思ったこと、一度もねえぞ」


「……なんですって?」




 メルツの辛辣な言葉に、エヴァが預けていた壁から背を引き剥がした。




「訂正しなさい。でないと土に埋めるわよ」


「なんだ、おまえ? 横からしゃしゃりでてくんなよ」


「あんたこそ、返り討ちにあうって分かっててどうして喧嘩を売ってくるのかしら?」


「はぁ~~~? イィ啖呵たんか切ったな、ぶっ殺してやる」


「舐められたわね、この私も。あなた、仕合しあいに出られなくなっても知らないわよ?」




 腰にいた剣を抜き、地を踏みしめたメルツ。

 数十メートルもの距離を一気に縮めたメルツが、踏み込む。

 それに合わせて、エヴァが三叉槍を動かした――――




「――やめるんだ」


「……っ!?」


「っ……!?」




 交差する剣と槍。

 いつの間にか割り込み、互いの一撃を片手で制したレオが、深く息を吐いた。




「エヴァ、こいつの相手は俺がする。こいつは俺の獲物なんだ」


「……そう。悪かったわね」


「メルツ。おまえは彼我ひがの力量を考えろ。俺が止めてなかったら」


「死んでた、っていいてえのかオイッ!!」


「わかってるならそれでいい。――そろそろ第二仕合がはじまるぞ」


「……チッ」




 苦虫を潰したかのような表情で剣を収めたメルツが、レオとエヴァをめつけながら通り過ぎていく。




「………」


「……っ」




 刹那、フランを一瞥したメルツ。

 迫力のある眼力に、フランが体を震わせた。




「あいつ」


「いくな、ヌゥ」


「でも」


「あれは俺がやる」


「……ならいい」




 フランを怖がらせたメルツへ、追い討ちをかけようとしたヌゥだったが、怒りを滲ませたレオの一言で静止した。




「大丈夫か、フラン?」


「は、はい。問題ないです……」


「控え室で休もうか。エヴァはもう少しで仕合だが、俺はまだだし……」


「大丈夫です、兄さん。一緒に観戦しましょう?」


「……わかった」




 フランが心配をかけまいと笑った。

 彼女の気持ちを汲んで、頷いたレオは選手の特別観戦席へ移動した。





「――そこまでっ!」


『おおっと決まったぁぁッ!! 辛くも勝利を掴み取ったのはッ! 【ノイトラ】所属の冒険者メルツだぁぁぁああ!!』




 激しい仕合を勝ち抜いたのは、メルツだった。

 肩で息を吐きながら、しかし喜びの表情は浮かべていなかった。




「俺の対戦相手は、やはりメルツに決まったか」


「レオなら余裕」


「いや、そう買い被られても困るぞ……。だが、負けるつもりは毛頭ない。特に、あいつらには……」




 そう。魔道武闘会に参加している【ノイトラ】の面々には、負けることは許されない。

 何があっても勝たなくてはいけない。

 



「――そろそろ行くわ。もうすぐだから、準備してくる」




 エヴァが席を立つ。

 サングラスの位置を人差し指で調整した金髪の彼女は、レオの耳に顔を近づけた。




「すぐに終わらせてくるわ。あんたの恨み、代わりに晴らしてあげる」


「……頼む」




 エヴァの対戦相手は、【ノイトラ】の魔術師セナ・ブラウンだった。

 本来なら、セナもレオの手でケジメをつけたかったのだが、エヴァが自ら申し出たのだ。

 



「あんたの重み、私にも背負わせてよ」


「この仮は、いつか必ず返す」


「ええ。楽しみにしてるわ」




 レオの唇に人差し指をあてたエヴァが、小悪魔のように笑みをこぼした。




「兄さん……なんの話してたんですか?」


け者にされてる……悔しい」


「あ、え、と……」




 エヴァが立ち去った後。

 左右から詰め寄られたレオは、そろそろ二人にも話すべきかと、覚悟を決めた。







 レオがこれまでの経緯を話し終えるのと、第三仕合が終わるのはほぼ一緒だった。




『勝者ッ!! 【閃光】のピエルパオロッ!!!』


「ははは。楽しかったよ、ありがとう」




 思考を整理しながら話していたせいか、ピエルパオロの戦いを見ることができなかった。

 状況を見るに、彼は無傷で対戦相手を打倒したようだ。

 しかも、そう時間はかかっていない。




「……そんなことが、あったんですね……」


「レオ。ぎゅってしてあげる」




 自分のことのように落ち込むフランと、目尻を下げて、慰めようと手を広げるヌゥ。

 



「だから、今回の戦いは負けられないんだ。俺の復讐も兼ねているから……――軽蔑、したか?」


「するわけ、ないじゃないですかっ」


「ねえ、レオ。こっちおいで?」


「兄さんがそんな辛い思いをしたのに、あの人たちは出世して……そんなこと、許されるはずありませんっ!!」


「レオ、ヌゥの胸で泣いてもいいよ?」


「兄さんが復讐の道を歩むなら、わたしも共に行きます。どこまでも、ついていきますから」


「ほら、こんなにもおっき――」


「――ちょっとうるさいですヌゥさんッ!!」


「……ん?」




 横槍を入れるヌゥにキレたフラン。凄まじい剣幕で射抜かれても、ヌゥは飄々《ひょうひょう》とした態度を崩さなかった。




「どうしてヌゥさんは真面目になれないんですか……」


「そういう体質。仕方ない」


「仕方なくないです……!」


「でも、ヌゥは頭悪いから。慰める方法は、これ以外に知らない」




 ヌゥからしてみれば、いたって真面目に慰めようとしていたのだと、大きな胸を張って主張する。

 



「だからって……色仕掛けはダメです。抜け駆け禁止です!」


「昨日はいっぱい時間作ってあげた。きょうはヌゥの日」


「兄さんは日替わり制じゃないんですっ!」


「逆。ヌゥたちが日替わり制」


「そうだったんですか兄さんっ!?」


「いや、おまえら何を言って……」


「――ははは、おもしろいねきみたち。僕も混ぜてよ」




 レオの後ろの席に腰掛けたのは、今し方仕合を行っていた軍服の青年ピエルパオロだった。

 猫のような目を和ませて、レオたち一行へ視線を向ける。




「ピエルパオロさんか」


「さんはいらないよ。僕も、レオって呼ばせてもらうから」


「……馴れなれしい」


「ハハッ、よく言われる。でも別に、これが初めての出会いってわけじゃないし、ね?」


「…………兄さん、まさかっ」


「なにを勘ぐってるんだフラン……?」




 目を大きく見開かせ、驚愕を滲ませるフラン。

 対して、ヌゥはそんなはずないと首を振った。




「レオが好きなのは年上の巨乳。猫目は、胸が薄い」


「ね、猫目って……そう言われたのは初めてだよ」


「薄いっていうか、男だからな? おまえら、変な勘違いするなよ?」


「そんなことよりも」


「そんなことよりも、で済ませちゃダメなんだぞ?!」


「ははは、賑やかでいいねえ。一緒にいるだけて楽しいよ」




『さあて、待たせたな!! いよいよ、一回戦第四仕合の始まりだッ!!』




「エヴァさんの出番ですね……!」


「ああ……」




『――東エルドグラ統合国より現れた刺客ッ!! 最強戦闘種族として名高いレーヴェ族が復活だァ!! かつて人類を震撼しんかんさせた強襲部隊を統べる女傑じょけつが、忘れ去られし威光を魅せつけるッ!!』




 西入場口から、ゾクリと悪寒が伝わってきた。

 首筋を伝う汗。

 一瞬、息すらも詰まるようなその気迫に、レオは――笑みを浮かべていた。




『魔道武闘会初参戦ッ!! 【螺旋をなぞる獅子槍ししそう】――エヴァ・グリぃぃぃンッ!!』



「処刑の時間よ、かわいい仔猫ちゃん」




 三叉槍を手に、現れたエヴァ。

 凄まじく練り込まれた闘気は、触れれば裂かれてしまいそうなほどに鋭利だった。

 ――それが、おそらく本来の姿。



 かつて地上に名を馳せ、今は地におとしめられた最強種族(レーヴェ族)の、あるべき姿。




「エヴァ……最高だよ、おまえ……っ」



 

 ゾクゾクと背筋を走る快感。

 戦ってみたい――交わりたい。

 本気でそう思わせるほどの気迫を、今のエヴァは身に纏っていた。



 

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