024 本戦に出場する魔術師
「……まさか、こう来たか」
「ええ……。まあ、仕方ないわ。こうなることも予想してたし」
明朝。
街中の掲示板にて張り出された、本戦トーナメント表を確認した二人は、顔を見合わせた。
「この順当でいくと、準決勝で俺とエヴァがぶつかるな」
「そうね。あら、もしかして、不安なのかしら? 怖気付いた? それともわたしと決勝で優勝を争いたかった?」
「いや……気になる名前がいくつかある」
「……ふぅん? 珍しいわね。あんた、強くなりたいって言ってる割に武芸者の名前、ぜんぜん知らないのに。――げっ、ピエルパオロとかいう猫目野郎、私とぶつかるじゃない。もしかして、気になるのってこいつのこと?」
ピエルパオロの名をさすエヴァ。しかし、レオは首を振った。
「じゃあ誰よ?」
レオが答えようと口を開いたその時だった。
「———」
その立ち止まる足音を聞いて、レオは、深く息を吐きながら振り返る。
「―――スイマ」
「久しいな、レオ。生きていたのか」
あの時と、同じ低い声に冷ややかな双眸。
長く無造作に伸び切った黒髪を腰元まで伸ばしたスイマは、相変わらず何を考えているのかわからない様相で、トーナメント表を一瞥した。
「おまえとは決勝で会うのか」
「……ああ」
「ふン。生きていたとは思わなかったが、まあ俺には関係のないことだ。おまえはもう【ノイトラ】じゃないんだからな」
「………」
「それとも――ここで決着をつけてやろうか?」
感情をあまり表に出さないスイマとは対照的に、猛々しい濃厚な炎が顕現する。
身に纏うように、炎を侍らせるスイマ。それとほぼ同時に、レオも炎を展開させていた。
互いの数メートル先で、炎同士が弾けせめぎ合う。
「レオ……もしかして、こいつが」
「……ああ。俺を追放した、【ノイトラ】のリーダーだ」
「へえ――」
エヴァが口角を上げた。
腕を組み、サングラスの奥からスイマを睨めつける。
「あんた、スイマって言ったっけ? 昨日の予選は見なかったのかしら?」
「それがどうした?」
「――勝てないわよ、あんた。レオより弱いもの」
「……ふン。威勢のいい女だ。俺がその炎に劣るだと?」
咆えるように火炎の密度が増した。
それを相殺するかのように、レオもまた火力を上げる。
「俺は認めない。許さない。――おい、レオ。おまえ、その炎でほんとうに俺を倒せるとおもてるのか?」
「あの時の俺とは違う。スイマ、確かにおまえは強いが……今は負ける気がしない。俺は――強くなったんだ」
激しさを増す火炎。
一息で拮抗していた火力を上回り、燃え猛る焔がスイマへと迫る。
しかし――スイマへと直撃するその直前で、炎が霧散した。
「……トーナメントで会おう。そこでスイマ――おまえを倒す」
「――ふン。精々いきがれよ」
踵を返し、スイマが立ち去っていく。
その顔には、余裕の笑みが張り付いていた。
「……よかったの?」
「ああ」
遠ざかっていくスイマの背中を見つめながら、レオは言った。
「せっかくのお膳立てだ。決勝で証明してみせる」
「……意気込むのもまあいいんだけど」
その先は、口に出さなかった。
無粋だと感じたエヴァは、静かに怒りを孕ませるレオの手を握った。
「いくわよ。朝食、食べましょう。みんな待ってるわ」
「……そうだな」
「もう。ちょっとその顔、どうにかしなさいよ。フランが見たら心配するじゃない」
顔を詰めて、下から覗き込んでくるエヴァ。
「そ、そんなに変な顔してるか?」
「険しいわ。いつもの、お人好しの顔じゃない。――もっとこう、こんな感じ」
「ひゃ、ひゃめろよ、引っ張るな……っ」
「くすっ、変な顔」
ほっぺたを引っ張りまわして、レオの顔で遊ぶエヴァに、頭にのぼった熱が冷めていく。
「うん。これでよし! 元通りになったわ」
「……すまん」
「別に、感謝されるようなことじゃないわよ。フランのことを思っただけだし?」
「それでも、だ。一緒にいてくれてありがとう」
「……っ、い、いいわよ、べつに……そんなの」
俯き気味に、ゴニョゴニョするエヴァの手を取って、レオは宿へ向かって歩き出した。
「あぅ、手、てぇ……っ」
「どうかしたか?」
「……ううん。レオのばか」
「な、なんで?」
「知らないわよ、ばか。――ねえ。このまま、ずっと握ってて」
「……ああ」
人々が動き始める気配を感じながら、二人は手を繋いだまま、宿を目指した。
*
『――いよいよ、この時がやってきた』
コロッセオ中央にて仁王立つベティ・カルロフが、ゆっくりと瞳を開けた。
『かつて、魔王打倒を掲げた英雄たちが、その武を知らしめるために行ったという御前試合――それがこの魔道武闘会のルーツ。いわば勇者選定の儀にも等しいそれがいよいよ、きょうこの日この瞬間……僭越ながら私、ベティ・カルロフが……』
間をおいて、カッと目を見開いたベティ・カルロフが、左腕を天へ突き上げた。
『――魔道武闘会トーナメンの始まりを告げるッッ!!』
爆裂する轟炎が左腕から吹き上がり、会場が一斉に沸いた。
揺れているんじゃないかと錯覚するほどの熱気、振動、気迫。
待っていましたと言わんばかりに、この場に集まった全ての民が咆哮を上げた。
『会場定員数三〇万人!! 大御礼だこのヤロウぅぅぅ!! この日を待ち侘びていたんだろ!? この時を待ち望んでいたんだろてめえぇらぁぁぁッ!! ――いいぜ魅せてやるよ、過酷な予選を勝ち抜いた英雄豪傑の猛者をッ! その目に焼き付けろッ!!
第一試合の開始だぁぁぁッ!!』
空が爆ぜる。
凄まじい熱気と大興奮に包まれて、ベティ・カルロフが西側を指さした。
『まずはこの漢ッ!! ふくみ笑う不動の山ッ!! 身の丈大の巨斧を振りかざし、何千もの魔物を一撃の元に葬ってきたモンスター・キラーッ!! 見た目はおっさん、しかし年齢は二十にも満たぬ新成人ッ!! 伸び代しかないBランク冒険者が、この天下の武闘会でどこまで喰らいつけるのかッ!?』
西入場口から現れた巨体。
身の丈以上の大斧を肩に担ぎ、首をゴリゴリまわしながらそいつが入場する。
『魔道武闘会初出場ッッ!! Aランク冒険者パーティ【ノイトラ】所属――ゴウゾウ!!!』
「ぷふっ、ぶっ殺してやるよ。レオぉ~~~っ?」
中央に到着したゴウゾウが、巨斧を地面に叩きつける。
その重さだけでベティの体が跳ね、わずかに地面がへこんだ。
「ノイトラ? さいきんAランクに昇格したという、冒険者パーティか」
「あの巨体にあの斧、喰らったら致命傷だろうな。対戦相手はいかに攻撃を喰らわぬよう立ち回るかが鍵となるが……」
「同じ近接系だったらキツいだろうな。まともに打ち合えるとは思えん……」
観客たちの熱を帯びた歓声が強まる中、続いてベティ・カルロフは東へ指を向けた。
『対するはッッ!! 予選Aブロックに現れた超火力ッ!! 数百もの猛者を無傷で焼き払い、優勝候補へと武功を叩き込んだ無名の魔術師がいまッ!! 満を辞しての登場だぁぁぁッ!!!』
「兄さん、頑張ってください! 絶対に勝ってくださいね!」
「レオ、帰ってきたらいい子いい子してあげる」
「思う存分、遊んであげなさいな」
「――ああ。みんな、行ってくる」
『そいつが巻き起こすのは革命かッ!? それとも勇者の再誕かッ!!?
魔道武闘会初出場――――【無名の魔術師】レオぉぉぉぉぉッッ!!!』
威風堂々と、中央へと歩みを進めるレオ。
その瞳が映すのは、かつての友であり、共にせめぎ合ったパーティメンバーの一人。
レオを焚火要員、マッチなどと蔑み、許可なく除籍届を書き上げた巨漢。
憎き、復讐対象の一人。
「まずはおまえからだ。マッチで死ぬんじゃねえぞ――ゴウゾウ」
「ぷふッ――ガチで生きてやがったんか、レオぉ。いいねえ、今度は俺が引導を渡してあげるよ。元パーティメンバーとして、ねぇ?」
至近距離で睨み合う二人。
体格のでかいゴウゾウが、レオを上から見下ろす形となる。
しかし、
――なんだ、こいつ。雰囲気が、ちげえ。
体格も、実力も、何もかもが上だと信じてやまないゴウゾウが、レオの気迫を喰らい息を呑む。
――け、気圧されるな……! 違う、気圧されてない! 俺が、こんな奴に……!!
「さあて、審判はお姉さんが担当するわねっ! い~い、坊やたち? 準備はオーケー!?」
昨日同様、際どい肌色成分多めの、グラマラスボディを彩る服装のお姉さんが両者の間に立つ。
「初めてくれ」
「ぷふっ。いつでもどうぞ」
「それじゃあ、いくわよ? 両者構えて――――!!」
巨斧を持ち上げ、上段に構えるゴウゾウ。
対するは、ローブのポケットに両手をつっこんだままのレオ。
「――――始めぇぇぇッ!!」
急激に高まった歓声の最中、割くように放たれたレフェリーの声。
ここに——。
魔道武闘会、本戦――開幕の狼煙が上がった。
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