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021 予選を終えた魔術師

「――ちょっとちょっとちょっと」


「うぉっ!? え、エヴァ、どうしたんだ!?」


「いいからこっち来なさいよ」




 予選が終了し、会場都市をでたレオ。

 その前に立ち塞がったエヴァによって、首根っこを掴まれレオは隅に連れてかれた。




「あんた……本当に一体何者なの?」


「……レオだが?」


「名前は訊いてないわよばか。私が訊きたいのは、あんたが本当にただのCランク冒険者なのかどうかよ」


「? 俺はただのCランク冒険者だぞ?」


「そのランク付けもどうかと思うけど……肩書きはまあいいわ。――誰かに師事しじしていたことはあるの?」


「いや……ないぞ? どうしたんだよ、エヴァ。なんか様子が変だぞ?」





 意図の不明な質問攻めに、レオは困惑した。

 エヴァは、腕を組んだままの状態で、ため息を吐く。




「まさか、本当に独学の修行でその強さを手に入れたわけ?」


「強いっていっても……多分、Aブロックに強いヤツはさほどいなかったぞ? 俺でも倒せるぐらいのヤツがいっぱいいたからな。強者は他のブロックに固まってるんだろう」


「……それ、本気でいってる?」


「あ、いや、エヴァが弱いっていってるわけじゃないんだ。エヴァが強いのは知ってるし、俺も認めてる。ただ、俺みたいな無名が勝ち抜けるのは運がいいっていうか……」


「……はあ。あんた、それ天然なの? それとも――ま、考えても仕方ないか」




 一人で納得した様子のエヴァ。さらに困惑するレオだったが、




「――探したよ。きみが、あの炎の魔術師だね」




 現れた線の細い青年によって、思考が吹き飛んだ。

 頬にかかる短い金髪に、猫を思わせる橙色の瞳。

 純白の軍服を着こなした、清廉せいれんたる風格の青年は、レオをみて表情を緩ませた。




「名乗らせてもらおうか。僕はピエルパオロ。さっきのAブロックで一緒だったんだ。大分距離が離れていたようだから、残念ながら会うことはなかったんだけど」


「ピエルパオロ……さんか。俺はレオだ。あんたも予選を通過したクチだろ?」


「へえ、わかる?」


「なんとなくだが、あんたは強い。そう感じるよ。他の奴らとは空気がちがう」


「ははは、異質な存在感を放ってたきみにそんなことを言われるなんて、筋金入りだ。――ありがとう。きみのおかげでこの武闘会、楽しめそうだ」




 はめていたグローブを唇で挟み、脱がしたピエルパオロは素手を差し出した。




「本戦で会おう」


「……ああ」




 固く握手を交わしたレオ。しっかりとピエルパオロの鋭い瞳を見つめ返す。

 手を離した後、踵を返して消えていったピエルパオロに、エヴァが低く唸った。




「……私は眼中にないってか、あの猫目……」


「そういえば、本戦出場、おめでとうエヴァ。モニターに名前が乗ってたとき、嬉しくてガッツポーズしたよ」


「嬉しいって、ばかじゃないの? ――断言しとくわ。この本戦で、一番の強敵は私になるんだからね? そこんとこ、よろしく」


「ああ。決勝で会おう。――負けるなよ、エヴァ」


「誰にいってんのよ、誰に。間違ってもあの猫目にだけはやられたりしないんだから」




 意気込むエヴァと共に、レオは公国へ向けて歩き始めた。







「お疲れ様です、兄さん! すごかったですね、しっかり見てましたよ!」


「レオ、埒外らちがい


「ありがとう、二人とも。無事に予選は通過したよ」


「あれで本戦無理とかありえない。……あ、エヴァもお疲れ」


「何よそのついで感、腹立つわ」


「え、エヴァさんもすごかったですよ、予選通過おめでとうございます!」


「エヴァの様子は一切中継されてなかった」


「ぬ、ヌゥさん……!」




 二人と合流したレオたち。

 フランのカバーを躊躇いなく穿ったヌゥの辛辣な言葉に、エヴァは青筋を立てた。




「お、落ち着けエヴァ、せっかくの美人が台無しだぞ?」


「兄さん、恥ずかしげもなく言えるところは美点ですが、空気を読んでください。他にもっといって欲しい言葉とかあるじゃないですか」


「いや、そうでもないみたい」


「ええぇ~……?」




 青筋が沈み、俯き気味に顔を隠しているエヴァに、フランとヌゥがジト目を送った。




「チョロそうですね」


「チョロい」


「ちょ、チョロくない!!」


「なんの話だ?」


「あんたには関係ないっ!」


「お、おう……とりあえず飯でも食いに行かないか? できれば、予選を見ながら食べられる場所がいいな」




 建物の至る所に埋め込まれたモニターには、始まったばかりのBブロック予選が映し出されていた。

 棄権者が続出したせいか、参加者は少ないようだ。




「それならいいところがありますよ。三件ほどピックアップしておきました!」


「ん、フランは優秀」


「えへへ。ありがとうございます、ヌゥさん。――ちなみに、きょうはどのような気分ですか? ガッツリ食べたいですか?」


「そうだな……せっかくだし、ガッツリいくか。明日が本番だし、精のつくものを食べておきたい」


「任せてください、兄さんが優勝できるように最大限バックアップしますので!」




 フランを先頭に、歩き始める一同。

 夕方に差し掛かった時間帯。

 モニターから大音響で鳴る予選の様子に、人々は熱狂していた。




「なんだか、すごい視線を感じるぞ……」




 人混みの中、観戦していた女子供たち、屋台のおじさんから子供たちまで。

 遠巻きにレオを伺っているようだった。




「そりゃあ、そうですよ。あれだけ派手に戦ってたんですから。兄さんの勇姿は、しっかりと皆さんに植え込まれてますよ?」


「ゆ、勇姿って……そんなにかっこいいところを見せれた気はしないんだが」


「これでもレオはまだ伸び代がある。恐ろしい子」


「これ以上成長したら恐ろしいわね、本当に」




 Bブロックが終わり、Cブロックに差し掛かった頃には、日が沈み星々が輝いていた。

 それでも街中の活気は衰えることなく、むしろ熱気は増していくばかりだった。




 フランの選んだ酒場にて、夕食を終えたレオは席から立ち上がった。

 全員の視線がレオに向く。





「俺は少し、明日の準備をしたいから先に宿へ戻る。ありがとう、フラン。とてもおいしかったぞ」


「え、もう? まだまだこれからじゃないのよ」


「エヴァはお酒の飲み過ぎで負けそう」


「そんなやわな鍛え方してないわよ!」


「レオを見習ってもう寝たら?」


「うっさいわねえ、あんただけでも付き合いなさいよ」


「ヌゥも明日に備えたい」


「暇でしょあんたは!」


「じゃ、じゃあ私も……兄さんを送ってきますね……」




 レオにだけ聞こえるような音量で囁いたフランが、そっと席を立った。



 エヴァは酔いがまわっているのか、フランの声に気づいた様子はなかった。しかしヌゥだけは、テーブルの下で親指を立てていた。




「兄さん、いきましょう。今のうちです」


「ん? お、おう……?」




 フランに連れられて、レオは酒場を抜けた出した。




「おもしろかった!」



「続きが気になる!」



「早く読みたい!」



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