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020 動き出すパーティ

「……は?」




 呆然と、言葉を発したのは、いったい誰だったか。

 おそらく、その場にいた全員が、目撃者である予選参加者全員が、その光景に開いた口が塞がらなかった。



 都市へと飛来していく超巨大な隕石(火球)

 堕ちたそれらが発する大規模災害の余波は、荘厳に聳え立つ堅牢な門を薙ぎ払い、とてつもない颶風ぐふうが地平を駆け抜ける。




「…………は?」




 数キロ離れた公国にまで、突風は轟き防壁を削った。

 中には耐えきれず、颶風ぐふうによって吹き飛ばされた者もあちらこちらで散見される。



 それはまるで、お伽話として語られる勇者と魔王の、想像を絶する戦いの一幕を感じさせる伝説(魔法)だった。




「――わあ~、負傷者がこんなに……」


「聖女様っ!? お気を確かに……!」




 野戦病院の手前にて、一瞬で溢れかえった重傷者の群れ。その数、概算して三〇〇超。

 病院内に入り切らなかった者たちが、外にまで溢れてきたのだ。



 付与された聖女の魔法により、死ぬ一歩手前で転移されたのが幸いし、死傷者は一人も出なかった。



 だが、しかし。

 



「魔道武闘会って……ここまでレベルが……違うのかよ」




 誰かが発したその言葉が伝播して、予選参加者は顔を蒼くした。

 程なくして、棄権を申し出る者が続出し、のちに参加者は四分の一にまで減った。




「…………何かの、間違いだ」




 Aランク冒険者スイマは、Dブロックに参加する予定だった者たちのほとんどが棄権したため、予選を受けることなく本戦出場が決まった。



 他のメンバーたちも同様で、信じられないといった様子で、未だ呆然としていた。



 

「あれは、間違いなくレオだった」


「……ま、まさか……そんなはず……ない、だろ……」


「じゃあ、あの火力は一体なんなの!?」


「し、知るかよそんなの!!」




 モニターにて長い間映し出されていた魔術師の顔を思い出して、【ノイトラ】の面々は背筋を震わせた。




「あんな炎……レオのはずが、ない……。そうだ、あれは、レオじゃない。レオじゃ……ないんだ」




 ブツブツと、現実を否定し始めるスイマ。

 その隣で、ゴウゾウが震えた声で叫ぶ。




「こ、殺される……! 俺たち、あ、あいつに殺される……!!」


「な……なに言ってんだよゴウゾウ!? どういうことだ!?」


「わ、わからないのかよ、ほんと鈍感だよなメルツはよゥ!!」


「んだとてめえ……!」


「あ、あ、あいつは復讐する気だ……! 強くなったあいつが、追放した俺たちを殺しに……!!」


「そ、そんな……そんなこと、あるわけ……ないでしょ……!」


「ど、どうしてそう言い切れるんだよ!?」


「あれはレオじゃない。レオじゃない。レオじゃない……レオじゃない……そうか」


「す、スイマ……?」




 ブツブツと繰り返し呟いていたスイマが、納得したかのように顔を上げた。 




()()()()()()()()()()


「な――お、おまえまで何言ってやがんだ!?」


()()()()()()()()()()


「スイマ!?」


()()()()()()()()()()


「おまえ、一体どうし――」




 ずぶ、と剣がメルツの腹部に突き刺さる。

 



「あ……?」


「あれは、レオじゃない――そうだろう?」


「す、スイマ……? あなた、いったい何を――」


「ひぃぃぃっ!?」




 メルツから剣を引き抜いたスイマが、セナの胸部へ剣を突き立てた。

 倒れる二人。

 残されたゴウゾウが、情けなく悲鳴を上げて、逃げようと背を向けた直後に、




「俺は、認めない」


「がぶっ……」




 地に伏したゴウゾウ。

 三人の転がった体の中央に立ったスイマは、剣を鞘に戻して、言った。




「俺は、あんな炎を認めない。違うだろ……違うだろ違うだろレオ……おまえは……!」



「――スイマ? あれ、俺、いつの間に眠ってたんだ……?」




 メルツが目を擦りながら起き上がる。それに続いて、セナ、ゴウゾウも起き上がった。

 何事もなかったかのように。

 いつの間にか眠っていたことに、不思議な感覚を覚えながら。




「でもま、ラッキーだよな。Aブロックにどんでもねえ魔術師がいて。おかげで俺ら戦わずして本戦だぜ」


「それ、喜んでいいのかしら? あーあ、昼食我慢して予選見てればよかった。対策、とらないと厳しいことになりそう」


「ぷふふ、手の内を明かさずに済んだのは僥倖ぎょうこうだねえ。バカ正直に暴れたあの魔術師とは違って、僕たちは手の内を晒していない。これは大きなアドバンテージになる。ぷふふ」




 公国へと向かう人々の流れへを目指しながら、三人が歩き始めた。

 三人の体に、傷跡は見当たらない。

 血の一滴も流れていない。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()




「おーい、スイマー。何やってんだよ早く行こーぜー? 腹減ったわ俺」


「……ああ」



 頷いたスイマは、拳を硬く握りしめた。




 *





「どう思う、ミリアン。あの魔術師は……?」


「んぅ……合格、と言いたいところだけどぉ……無名であれだけの力は、流石におかしいわ。だってぇ、己の力を誇示したいのが人間でしょ~?」


「あの予選を見てればわかる。見せつけるかのように魔法を使っていた。まるで誰かに証明するかのように……」


「ローランの言うとおりよ~。あれだけの目立ちたがり屋さんがぁ、無名のままいられるはずがないわ~」


「……今まで力を隠していた、とか?」


「もはや隠す必要性がなくなったか~、あるいは……」




 公国のとある喫茶店にて、二人の男女がモニターを見ながら話し合う。

 モニターに映し出されているのは、Bブロックの予選。

 数多くの参加者が棄権したことにより、Bブロックの参加者は二十人にも満たない数で行われていた。



 しかし、二人が話題にしているのはBブロック予選の様子ではない。

 ついさきほどの、Aブロックを蹂躙した魔術師のことだった。




「考えても仕方ないわ~。ここは男らしく、ローランが直接聞きに行けばいいのよぉ」


「む、無理だ……俺にそんな勇気はない……」


「相変わらずヘタレねえ……そういうところもかわいいのだけれど~」


「み、ミリアン……こういうのは役割分担なんだ……。きみは、そういうの得意だろ?」


「得意というかぁ、幼馴染のあなたのせいで~、やらざるをえないっていうかぁ」


「ぱ、パーティメンバーをスカウトするのが……今回の仕事。三人の中で、一番社交性が高いのはきみだ……ミリアン」




 段々と小声になっていく金髪の青年。目鼻が整った、いわゆる美男子に分類される青年だが、内気で恥ずかしがり屋なのが欠点。

 

 

 反対に、ほんわかした雰囲気を醸し出すお嬢様然とした態度の女性は、社交性に富んでいるようだ。

 膝上に()()()()()()()()()()を抱えたミリアンは、人差し指を唇にあてた。




「といってもぉ、今回はわたくしの役目じゃないかもしれないわぁ」


「……どういう、こと……? もしかして、俺にいけと……?」


「ちがうわぁ。あなたがいっても不審がられるだけでしょ~?」


「じゃ、じゃあだれが……」


「いるじゃない~。さっきからずっとソワソワしてる、うちのお姫様が~」




 二人が同時に、件の少女へと視線を向けた。

 ローラン、ミリアンと同じテーブルを囲む、もう一人の少女。



 薄桃色の長い髪をくるくるといじり、頬をゆるませたり足をぶらぶらさせたりと、落ち着きのない様子だ。

 


 

「Aブロックの予選を見たときぃ、ちょっと変な反応だったわよね~」


「た、確かに……もしかして、知り合いなのかな……」


「そうじゃないとぉ、あんな反応しないわよ~」




 ドラゴンを愛撫しながら、ミリオンは微笑む。

 彼女よりひとまわりも幼く見える桃色の少女に向けて、ミリオンはいった。




「ねぇ、例の魔術師くん……フレデリカはどう思った?」


「――! わ、わたし? わたしは、そうねえ……すごく、いいと思うっ!」


「めずらしい……フレデリカが即答した……」




 フレデリカと呼ばれた少女は、うっすらと頬を赤らめながらそっぽを向いた。

 



「べ、別に……なんでもないよ?」


「知り合いなのかしらぁ?」


「し、知り合いっていうか……その、ちょっと前に助けた冒険者なんだけど……」


「冒険者……? ランクは……?」


「た、確かCだったかな……?」


「C……?!」


「ちょ、ちょっと待ってフレデリカぁ……? 例のその男の子ってぇ、助けたのはいつぅ?」


「……三ヶ月前?」


「……話が、見えてこない。あれだけの強さで……フレデリカに助けられた?」


「逆じゃなくてぇ? フレデリカが助けられたんじゃ~……? 下手したら、あなたよりも強いわよ、彼~?」


「うぅ……強かったんだよぉ。わたしが助けたときは、()()()()()()()のに……」




 フレデリカが、何かを思い出したのか、薄桃色の髪をさする。




「別れた後、気になって様子を見に行ったら……ひとりでBランクの魔物を倒したりしてて……ちょっと前まで情けない姿だったのに、すごく……かっこよかった」


「あれぇ? あれれ~? もしかしてフレデリカぁ、惚れてるの~?」


「ほれ……っ!?」


「……そういえば、一時期変な雰囲気だったのを覚えてる」


「ち、ちが……!」


「とりあえず~、あの男の子はわたくしたち【シャーフバル】がもらい受けるわぁ。Sランクパーティのスカウトを断るなんてことぉ、常人ならしないしぃ。その方が都合、いいでしょお?」


「あ、あわわわ……!」


「……スカウト、任せた」


「任せたわよ~? お姫様ぁ」


「う、ぅぅぅぅ…………————がんばる」








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