019 勝ち抜く魔術師
――爆炎が走る。
赤々とした焔が石畳を粉砕しながら駆け抜けていき、複数の男たちを飲み込んで爆ぜる。
「んなっ!?」
「なんて火力だ……!? あの数を一瞬で……!!」
さらに膨れ上がる魔力の渦。
手のひらに収束された火球が、胎動するかのように震えた――刹那。
『うぉぉぉっっと!!? 超高出力の火炎が、濁流のように都市を襲っているぞぉぉ!! なんだあの魔術師は――!!? なんなんだあの超高火力はぁぁッ!?』
頭上高くから響き渡るベティ・カルロフの大音声。
どうやらこの戦闘は、あのモニターに中継されているようだ。声の背後から、大歓声が伝わってくる。
「は、ははは……そんな大袈裟な。まだ出力の十%も出してないんだが……」
「ぐ、ぁ――」
「ぬぁぁぁッ」
「燃える、燃える……っ!! 誰か、助けてく――」
パチン、と指が鳴る。
間合に詰めてきた予選参加者たちが一斉に弾け、炎に包まれ転送されていく。
『あの【雅剣のレイグラ】が一瞬にして葬られたぁぁ!! なんという下剋上!! 優勝候補の一人が、無名の魔術師に敗れたっ!! この大番狂わせをいったいどこの誰が予想できたかぁぁぁ!!?』
「異名持ちを倒した無名がいるのか……! すごいな、俺も頑張らないと」
『おっとぉ!? さらに火力を上げてぶっ放しているぞぉぉぉッ!! 奴の魔力に、火力に天井はないのかぁぁぁ!!?』
こちらにまで興奮が伝わってくるベティの叫びに、レオまでボルテージが上がっていく。
「――見つけたぞ、あれが例の」
「バトラッ!? 嘘だろこの距離から――なんでッ!?」
周囲に展開された炎の触手――【這い寄る炎縛之鞭】が、レオの半径一キロを激流のように押し寄せ、無差別に参加者を捕らえていく。
捕らえられたものは一瞬にして溶けるように転送されていく。一切の抵抗の余地も与えない。
一瞬にして百以上もの参加者をリタイアに追いやったレオの魔法に、ベティも言葉がでない。
『……なあ。あたしもこれから出場って』
『なしに決まってるじゃないですか……』
『だよな……もったいねえ。あれほどの猛者が出場してるっつうのによぉ』
『あの、ベティさん? これ流れてますからね? 一人に肩入れせず公平に実況してください』
半径一キロに潜んでいた参加者を駆逐したレオは、かの異名持ち【燃え盛る灼腕のベティ】をして戦いたいと言わしめた強敵を探していた。
「どこだ……? どこにいるんだ……! そいつを倒せたら、俺は……!」
あの人に、一歩近づけるかもしれない。
溶解して歩きにくくなった道を走り、件の強敵が自分自身であることに気づかぬまま、レオは駆け抜ける。
その時だった。
「――っ、と」
寒気とともに詰め寄ってきた氷を、跳躍して躱す。
氷は止まることを知らず、レオの背後の道を塗りつぶしていった。
「おまえか。件の魔術師は」
「なるほど。おまえか、例の魔術師は」
特大の火炎と氷結が、挨拶代わりに炸裂した。
氷山のように轟くそれと、炎々と爆発を繰り返す熱の塊がせめぎ合う。
「無名なわけないだろ。この俺様と張り合ってる時点で……!」
「くっ、流石に出力十%じゃ燃やし尽くせない……! ――監督が肩入れするわけだ!」
ならばと、レオは火炎を維持したまま、新たに術を紡ぐ。
イメージするのは礫の雨。地上を濡らす天の弔い。
「――なんだ?」
「被害は最小限に――避けてくれよ、エヴァ……!」
『空が――紅い』
ベティの静かな声に導かれて、流れ星が煌めいた。
まるで天空が燃えているかのような赤。
その異様な空より、飛来する流星は――九つ。
「出力二十五%――死んでも死なないんだったよな? まあ、この程度じゃ死なないとは思うが」
「な――んだそれはぁぁぁ――――ッ!!」
氷山と火炎で姿の見えない魔術師が、絶叫した。
音速の壁をいくつも越えて、飛来した九つの火球が地上を――都市を、魔術師を襲った。
幾重にも展開した氷の盾はいとも容易く砕け、魔術師は消失した。
凄まじい爆風と破壊の乱舞に、ベティ・カルロフはとうとう何も喋れなくなった。
都市を一瞬にして更地へと変えたレオは、ひとり無傷で強風に煽られる。
「……やはり、間違いだったか。いや、途中からなんとなく感じていた。俺と拮抗する程度の魔術師が、異名持ちの人間を驚かせらるわけがない」
ぽつりと言葉をこぼして、レオは拳を握りしめる。
「もっと強くなりたい。俺は……もっと」
この程度じゃ満足できない。
「ここは魔道武闘会……俺より強いやつがたくさんいるんだろ?」
ならば、戦ってくれ。
己が真に強いのか、試させて欲しい。
「証明をくれ。あの人に相応しい男に成り得たか否かを」
吹き荒ぶ鬼神のごとき爆風の渦中へ、レオは消えていく。
更なる強者を求めて――
『……えー、あー……ただいまをもってAブロック予選を終了する。現在生き残っている四人が、本戦出場だ。あー……ご苦労。明日の本戦に備えてくれ』
なぜだかやる気のない声音のベティ・カルロフ。
燃えたぎっていた戦意が喪失してしまったかのようなその脱力感に、しかしレオは、
「……え? 終わった? 俺、生き残ってるよな? ということはもしかして、本戦に……!」
未だおさまらない狂風の最中で、レオは本戦出場を喜んだ。
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