017 仲直りする魔術師
「兄さん。こうなったらもう、奥の手を使いましょう」
「お……奥の手?」
昼食を食べ終えたレオ一行は、いまだに不機嫌なエヴァの対策を歩きながら練っていた。
「ちなみに予選ってどこで見られるんですか?」
「あー、なんか公国の最新技術だとかで予選の様子が遠くからでも見られるらしいぞ?」
「え、そうなんですか?」
「あれだ。エントリー会場のお姉さんは〝モニター〟って呼んでたぞ――……!?」
「ど、どうしました、兄さん……?」
「いや……なんでも、ないぞ……」
お姉さん、という単語に一瞬殺気を感じたレオは、じんわりと滲んだ汗を拭った。
「モニター、ですか。あれだけ大きかったらどこにいても見られますね。なるほどです、とりあえずわかりました!」
「そ、それでフラン……奥の手とは?」
「はい。奥の手、それはズバリ――汗をかく、です」
「……汗?」
首をひねったレオに、フランは口許をゆるませて説明する。
「ほら、剣を交えたら親友、みたいな展開あるじゃないですか。童話や英雄譚で」
「あ、あー……なくはないな」
「それですよ、それ。汗を一緒にかけば仲直りできるはずです」
「……つまり、エヴァと一戦交えろと?」
「そこまでしなくても、エヴァさんの手をとって適当に走ってれば汗かけるんじゃないですか?」
「なるほど」
「それでいきましょう!」
「ああ。フランの策に賭けよう」
善は急げだとフランに背中を押され、決意を固めたレオは走る。
前方を歩くエヴァの手を後ろから握った。
「な――なにすんのよ、ちょっと!?」
「黙って俺について来い、エヴァ!」
「ちょっ――!?」
「兄さん、友情パワーです! 友情ですよ!? 友情パワー!!」
「……どうしてもエヴァを友達止まりにさせたいらしい」
「なに言ってるんですか、ヌゥさん?」
フランとヌゥからあっという間に遠ざかり、人混みを縫うようにして走るレオ。何がなんだかわからないと言った様相で、手を引かれるエヴァ。
「どこ向かってんのよ!?」
「あてなんてない! ただ走るだけだ!」
「ふざ――ふざけてんの!?」
「ふざけてない、本気だ!!」
「——あぅっ」
噴水を通り過ぎ、フランが予約してくれた宿の前を通り過ぎ、屋台群を抜け、エントリー会場を通り過ぎて、わけもわからない道を走って――十五分が過ぎた頃だった。
「いい加減にしなさいよ、もうっ!!」
――路地裏のなかで、繋いでいた手が離された。
「え、エヴァ……この路地を走り抜ければ公国を一周できたのに……」
「……あんた、ほんとになんのために私を連れ出したの……?」
「あ……汗をかくためだ」
「はあ?」
侮蔑したような表情をみせたエヴァに、レオは正面から彼女を見据えた。
「やっぱり……わからなかった。なにも思い出せないんだ、エヴァを怒らせた原因が」
「……べつに、怒ってないわよ」
「じゃあ、なんで笑ってくれないんだ?」
「……そういう気分じゃ、ないのよ」
「ほんとか?」
「っ、……」
一歩詰め寄ったレオ。反射的に後ろへ下がったエヴァは、壁に背を打った。
逃げ場がない。
「サングラス……外してもいいか?」
「だ、だめ……」
「エヴァの目をみて、しっかり話し合いたいんだ」
「ば、ばかこれでもしっかり話せてるじゃない……!」
「逃げるなよエヴァ。もう逃さないぞ」
「~~~っ!?」
エヴァを逃さぬよう、片手を壁につけたレオ。鼻とはなが触れあう寸前の距離で、エヴァは顔を真っ赤にさせて視線をそらす。
「サングラス、外すからな」
「だ、めだって……!」
「なんで?」
「なんでって、ばか……ずるい」
「いいんだな? 外すぞ、サングラス」
「うぅ……なんなのよ、もぅ……っ」
左手を伸ばして、ゆっくりとサングラスを外すレオ。
あらわになったエヴァの瞳は赤く充血し、涙が溜まっていた。
「やっぱり……きれいだな。エヴァの瞳は」
「……っ、な、なによ……おだてたって、ゆるさないんだからっ」
「エヴァ。しっかり俺の目を見ろ」
「っ……」
おそるおそる目線をレオに合わせ、すぐにそらすエヴァ。顔の赤さが加速していく。
「エヴァ、また笑ってくれないか?」
「うぅ……そ、そんなにみつめるなぁっ」
「エヴァが機嫌をなおしてくれるまで、やめない」
「~~~っ、わかったわよ、もう! 許す! 許します! いくらでも笑ってやるわよ!」
根負けしたエヴァの言葉に、レオはさっきまでの真剣な表情とはうらはらに、パッと笑顔をみせた。
「よかった。ありがとう、エヴァ。このまま仲直りできないんじゃないかと思って、焦ってた」
「う、うるさい、この……っ! サングラス返せ!」
「ああ。せっかくだからかけさせてあげようか?」
「それぐらいできるわよ!」
しかし、レオは右手でエヴァのあごをくいっと正面に持ってこさせた。かけさせる気満々だ。
「ジッとしてろよ、危ないから」
「……ねえ」
「どうした?」
「あんたは……ううん。やっぱり、なんでもない」
「そ、そうか……?」
言葉を濁したエヴァ。触れるべきか否かを考えて、触れないことにした。
「私、負けないから」
「……ん? 武闘会の話か? それなら俺だって――」
「違うわよ、ばか」
サングラスを装着させた、その瞬間だった。
視界いっぱいに、エヴァの瞳が入り込んできた。
「―――」
下にズレたサングラスから、紫色の宝石のような瞳が覗く。
唇にかんじる温もり。何かで塞がれているようだった。
いや、とっくの間に気がついていた。
ただ、熱が。
ぼうっとした暑さが、脳を痺れさせていた。
「――残念、唇だとおもった?」
「―――」
人差し指越しのキス。
倒錯するような甘い痺れが胸を満たすなか、小悪魔のようにエヴァが微笑んだ。
「唇には、あんたからしてきてよね?」
――予選開始まで、残り五十分。
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