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014 再出発する魔術師

「――そういえば、あんたは帰らなくていいの?」


「ん。ヌゥもしばらくの間、レオについていくことにした」


「そ、そう……?」


「エヴァこそ、レオと一緒に行くの?」


「目的地一緒だからね。そりゃあ、一緒に行ったほうがいいに決まってるでしょ。魔物が襲ってくることもあるし? 人数は多いほうがいいじゃない、楽しいし」


「ふーん?」


「な、なによ……? ――あ、そうよ、武闘会に出場するんだもの。レオとは敵同士なの、だからあいつの弱点を探るためにも――」


「ふ……エヴァ、必死」


「な、なんなのよあんたっ!!」




 早朝。宿屋のまえに出ると、エヴァとヌゥがジャレついていた。




「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」


「仲、いいように見えるんだったらあんたの目は節穴よ!」


「仲良し」


「どこがよ!」


「ちがう。あの兄妹」


「……あー」




 ヌゥが指さした方向をみて、エヴァも低い声をひねりだした。




「宿から出てきた。二人で。朝帰り」


「まさか、おなじ部屋で寝てないでしょうね?」


「さ、流石にそこまではしてない」


「そこまでってなによ、そこまでって?」


「い、いや……」


「ち、違うんです! ちがうんですエヴァさん、ヌゥさん。ちょっと兄さんのことを起こしにいっただけで、その……何も、なかったです……」


「えー……展開はや。まだ出会って一日も経ってないんだけど……」


「何もしてないぞ、ほんとだ。ちょっとフランが体勢を崩してしまっただけで、そんな」


「シスコン」


「ぐぅ!」




 胸をおさえたレオと、もじもじ俯くフラン。

 その二人を、痛々しい目で見やる二人。



 そんな構図を朝から、しかも人通りの多い道でやっているせいで、周囲からは微笑ましい目で見られていた。




「と、とりあえず! 忘れ物ないか? 昨日のうちに買い揃えているから大丈夫だと思うが、念のため確認してくれ」


「私は大丈夫よ。今朝も確認してるし、食料はフランに任せてるから」


「はい。今朝の朝食もふくめて、三日分の食料と水はわたしが管理してます」


「ヌゥも問題ない。装備は整えた」


「だ、大丈夫か、ほんとうにメイド服で? 金ならまだ余ってるし、遠慮しなくても……」


「ん、問題ない。むしろ動きやすいし仕込みやすい」


「そうなのか……。少し興味があるな」


「もたんくていい! 馬車も準備してあるから、さっさと行くわよ」


「んふ、レオは勉強熱心だから。色々おしえたくなる」


「兄さん、そういうことはまだ早いですからね?」


「あ、ああ……」




 乗馬経験のあるエヴァに御者ぎょしゃをたのみ、レオたちはいよいよ公国へ出発する。



 サナダの門をくぐり抜け、レオが一昨日歩いた道をなぞるように馬車が進んでいく。




「兄さん。わたし、何かできることがないか考えてるんですけど……」


「ああ、昨日の」




 隣に座っているフランが瞳を覗き込む。少し近すぎる距離感に、レオは目線をそらした。その先で、




「………」




 ヌゥが、無言でこちらを眺めていた。




「昨日ずっと考えたんですけど、あまり思い浮かばなくて。兄さんたちの雑用しか、わたしこなせることが……って、聞いてます? 兄さん」


「あ、ああ。聞いてるよ。どうした?」


「もう……ふふ、昨日はよく眠れました?」


「ああ。ぐっすりだったぞ?」




 フランに視線を戻して、やはり目線をそらす。顔が近い。香水なのか、石鹸の匂いなのか。頭がクラクラしてしまいそうな甘い匂いが漂ってくる。



 そして、視線の先にはヌゥがいて。

 



「………」




 スカートから伸びる、網タイツに覆われた脚がゆっくりと、なまめかしく組まれた。スカートからはだけた太ももが、脚美が、レオの心をくすぐった。




「――兄さん? さっきからどこ見てるんですか?」


「………」


「俺は……どうすれば……?」


「後ろのアホ、何やってんだろ……」






 ——時間が流れて、夕方。

 馬車から降りて、野営の準備に取り掛かる。




「こんなもんでいいでしょ。火起こして、レオ」


「ああ。任せろ」




 テントを張り終えたレオは、次に火を起こすためにエヴァの元へ向かう。

 集められた枝に向かって、レオは小さな火を放った。




「これでどうだ?」


「さすが。他に準備するものってあるかしら?」


「いや、馬の食事はヌゥがやってくれたし、あとはフランが料理してくれるみたいだ」


「そう? なら休憩っと。やっぱ経験者がいるとだいぶ準備が早いわね」


「そうだな。パーティがいるのといないのとじゃ、だいぶ時間に余裕ができる」


「……ねえ。聞いてもいいかしら?」


「ん? なんだ?」


「どうしてレオは、ソロなの?」




 バチンと、焚火のなかで木が弾けた。

 



「昨日、言ってたわよね。裏切りたくないから、信頼するだけって。何か……関係あるの?」


「それは……そうだな。終わったら話すって約束だし、エヴァの意見も聞きた――」


「――兄さんの好みの味ってこってりですか? それともうすめ…………あの、すみません。何か重要なお話してましたか?」


「……?」




 切り分けた食材を持って現れたフランとヌゥ。

 レオは左右に首を振った。




「いいや、なんでも。俺はそうだな……あっさりなのが好きかな。エヴァは?」




 目線でエヴァに「またあとで」と伝えると、エヴァは頷いた。




「私もあっさりでいいわよ。食べられればなんでもいいし」


「そうですか? わかりました。――では、僭越せんえつながら料理担当フランが、寄せ鍋を作りますので!」


「わーい。楽しみ」


「感情こもってませんよ、ヌゥさん。あまり鍋をばかにしちゃいけません。めちゃくちゃ美味しいんですから」




 手際良く準備していくフラン。それを補佐するヌゥによって、数十分ほどで寄せ鍋が完成した。



「――うまい。まさか野営でこんな美味しいものを食べられるとは思わなかった」


「ええ、ほんと。フランは料理上手なのね」


「ん。期待通り。優秀な妹」


「え、えへへ……。ちょっと照れますね。わたしも食べます」




 四人で火を囲みながら、フランの作った寄せ鍋をつつく。

 



「フランは、いいお嫁さんになれる」


「な、なんですかヌゥさん……急に」


「ヌゥが保証する。いいお嫁さんになる」


「そ、そうでうすか……? うれしいです」




 はにかんだフランを見て、その場の全員が和んだ。








「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


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