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013 義妹と魔術師

 ヌゥと共にエヴァの元へ駆けつけたレオだったが、既に首領は拘束されていた。

 契約によって行動を制御されていた女性たちも、今は武装を解除し、助かったことに喜びを分かち合っている。




「よくやってくれたわ、レオ。助かった……けど、どうやったの?」


「ヌゥが教えてくれたんだ。解放する方法を」


「ヌゥ? そこの女の子?」




 エヴァがヌゥを見やる。ヌゥは、あっけらかんとした様相でどこか遠いところを眺めていた。




「不思議な子ね、なんか」


「だけど助かった。ヌゥがいなかったら、どうなってたか。――それで、フランは?」


「わ、わたしです……」




 手を挙げたのは、ヌゥとおなじくメイド服を着させられていた茶髪の少女だった。

 どことなくふわふわした雰囲気の少女で、しかしその瞳は暗く沈み込んでいるようだった。



 無理もない。彼女は、盗賊に連れ去られたのみならず、両親をなくしているのだから。

 



「エヴァさんから事情を聞きました。その、わたしのためにありがとうございます」


「いや、無事ならそれでいいんだ。その……ご両親は」


「聞いてます。まだちょっと……信じられないんですけど……」


「そう、だよな……」




 俯いたフラン。まだ成人してまもないと思われる少女には、辛い現実だった。

 見ていられなくなったレオは、頬を掻きながら、ぽつぽつと言葉を濁した。

 



「俺も、小さい頃に両親を亡くしてるんだ。だから、共感できるっていうか、その……」


「レオ、下手な慰めは傷つけるだけよ」


「す、すまない……」


「いいんです、大丈夫ですから。その……ありがとうございました」




 ——それから、盗賊団が所有していたと思われる馬車数台に囚われていた女性と拘束した首領を乗せて、サナダの町まで戻ってきた。




「――アギト盗賊団には、数年前から何度も痛い目を味合わせられていた。これでサナダ周辺の治安も良くなる。ほんとうに、ありがとう。被害にあった女性たちは、我々が責任をもって故郷へ送り届ける」


「頼んだわ。ああ、それと馬車なんだけど、一台だけでいいから譲ってくれないかしら?」


「それくらいなら全然。好きなものを持っていってくれ」


「感謝するわ」




 ことを終え、戻ってきたエヴァは膨れ上がった麻袋を手に持っていた。どうやら、アギト盗賊団の首領には懸賞金がかけられていたようだ。




「全部で百万ディラ! 私とレオで半分にしましょう」


「いいのか?」


「いいも何も、あんたも手伝ってくれたでしょ? あとで分配しましょう。それと……」




 エヴァが、喫茶店のオープンテラスで待機しているフランを盗み見た。

 フランには、話が終わるまで待っていてもらうことにしていた。隣には、ヌゥも座っている。




「あの子……どうしようかしら? 親戚もいないみたいで、天涯孤独なようなの。預ける先っていっても、大きい国の孤児院ぐらいしか……」


「………そうか、身寄りが」




 俯いたまま、紅茶にも手を伸ばさず、ジッとしているフラン。ヌゥが、どうすればいいの? と視線を送ってきた。




「これも、何かの縁……か」


「……? どうするつもり?」




 ふと、昨日エヴァがレオにいった言葉を思い出した。




『これも何かの縁よ。とことん付き合ってもらうから』




 今思い出したことに、何かしら深い意味があったわけではない。

 ただ、レオには理由が必要だった。

 免罪符といってもいい。




「……よし」




 何やら決心したレオは、テラスへと向かっていく。




「俺もさ、両親を亡くしたっていったろ? その時に、叔母夫婦に引き取ってもらったんだ」


「……まさか、あんた」


「あの時、俺はすごい嬉しかったんだ。これから一人で、どうやって生きていこうかとか、正直親が死んだことよりも、自分の身を心配してたんだ」


「……私は、そういうの、わからないわ。まだピンピンしてるし」


「その方がいい。んでさ、そんな不安に押し潰されそうになってた時に、叔母夫婦がいってくれたんだ。一緒に来ないか、って――それがすっごい嬉しくて、泣いちまったんだ」


「だから……あんたは、あの子を?」


「流石に娘として育てるには、年齢が近すぎるからな。友達として、仲間として……フランを迎えたい」


「……すごいわね、あんた。私は、私のことばかりで……そんなこと、考えもしなかった」




 テラスに入っていき、フランのまえにレオが立つ。

 ゆっくりとレオを見上げたフランの目には、焦燥と不安と、恐怖が入り混じっているように見えた。




「――フラン」


「は、い。なんでしょう……?」




 沈み切った声。僅かな震え。

 レオは背をかがめて、フランとおなじ目線に降りると、頬を指で掻きながら、言った。




「フランさえ良ければ、俺と一緒に来ないか?」


「……え?」


「その、さ。もし嫌じゃなければ、なんだけど。俺は冒険者で、パーティもわけあって所属してなくて、収入も少ないんだけど」


「………」




 背後で「しっかり喋りなさいよ、ばか」と小声で罵られながらも、レオは笑顔でフランの瞳を覗き込んだ。




「一緒に、旅をしないか? これから先は、俺が守るよ。フランが別の場所へ行きたくなったら、俺が背中を押す。やりたいことがみつかれば全力で応援する。だから、それまでは――」




 言葉を区切って、レオは大きく息を吸い込んだ。




「――俺の友達として、仲間として。一緒に冒険しないか?」







 結果として――




「あーあ。こんなにも泣かせちゃって、どうすんのよ責任とんなさいよ」


「レオ、フランのパパになるの?」


「うぅっ、あり、ありが――ありがとう、ございます……っ!」


「パパって年齢じゃないだろ。俺とフランは友達だ。——フラン、これで涙をふくんだ。なんなら俺が拭ってやっても……」


「接し方が娘……いや、妹?」


「妹、爆誕?」


「義妹かー。いいわね、私妹いないから羨ましいわ」


「かわいい義妹。血は繋がってない」


「やめろやめろ、無粋な話で盛り上がるな!」





 ――話し合いの結果、レオにかわいい妹ができた。





「よろしくお願いしますね、兄さん」


「あ、ああ……」




 なぜだか、冷たい指先で背筋をなぞられたかのような感覚に襲われた。悪い気はしないレオ。頬がだらしなく緩んでいる。



 その様子を見て、ジト目でめつけるエヴァと、ジュースをちびちびすするヌゥ。




「なーんか、デレデレしてるわよね。そんなに嬉しいのかしら、兄さん?」


「うぐ」


「……お兄ちゃん?」


「おおっ」


「その反応はなんなのよ!?」




 場所は変わって、酒場。

 本日はサナダの町に一泊する予定となった。

 


 フランには申し訳ないが明日公国に向かうことにし、フランの慰労会を開催しているのだが。




「いや……エヴァは妹というよりかは、お姉さんって感じがして」


「そういえば、あんた今いくつよ?」


「十九だ」


「うっそ、私と一緒。じゃあ姉というより……双子?」


「幼馴染の腐れ縁。——ちなみに、ヌゥは十八歳」


「それは無理あるわよ。あんた、どっからどう見ても未成年じゃない」


「見て。……この中で、一番発育してる。童顔なだけ」


「――兄さん、見ちゃダメですよ?」


「あ、ああ」




 となりのフランに目をふさがれて、いま何が起きているのかわからない。




「うわ……個室だからって見せびらかすんじゃないわよっ!」


「ヌゥさん……羨ましいです」


「低身長・童顔・巨乳。これぞ男の理想型」


「なんか腹たつ」


「わたしだけなんですね、未成年なの……まさかヌゥさんが年上だとは思いませんでした」


「フランは十五歳だっけ? 来年じゃない。もうすぐよ、すぐ。時間の流れって早いんだから」


「大丈夫。まだ伸びしろある」


「ひゃあっ、ちょっとヌゥさん!?」


「弾力あっていい形。ヌゥの敵は、フランだけ」


「私は眼中にないって!?」




 フランの目隠しが解かれてなお、空気を察して目を瞑り続けているレオ。

 できるだけ何も考えず、ガールズトークが終わるのを待ち続けるのだった。








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