012 燃やす魔術師
「――やっぱり、ついてくるよな」
「命令だから。あなたを殺さないといけない」
「だよな。悪いが、俺が扱えるのは炎だけだ。火傷しないよう、うまく避けてくれよ」
「がんばる」
レオの速度をわずかに上回るヌゥの脚力に驚きながらも、牽制目的の火球を放つ。しかし、軽い身のこなしで次々と避け、間合を詰めてくる。
「ヌゥ、キミは一体何者だ?」
「ただの奴隷。いまは、ただの――」
壁を蹴って勢いをつけたヌゥが、加速する。合わせて振り抜かれる蹴りを、寸前で躱し最後の壁が砕かれる。
再び玄関ホールに戻ってきたレオは、地下へと続く道を探す。しかし、見当たらない。
ヌゥの拳が降りかかる。
流れる動作で間合を詰め、撲殺せんとかかるヌゥが、視線をある一点に向けた。
「そこの下、絨毯の裏側の板が外れる」
「なるほど。しかし視線だけではどこかわからん。が――」
わざわざ絨毯をめくって外れる板を探す暇はない。このまま、撃ち抜く。
収斂させた炎を床に向かって放つ。
爆炎によって空いた穴へ、レオは体を滑り込ませた。
「――どこの部屋だ、ヌゥ!」
「左から三番目の部屋」
「わかった!」
地下は一本道となっていた。薄暗い通路の左右に部屋がいくつかある。
ヌゥの踵落としを避け、火球を足元に向かって放ち、レオは疾走した。
「左から三番目――ここか!」
蹴りで開いた部屋の先は、書斎になっていた。
壁一面を本棚で覆われ、高級感に溢れた机と椅子が置いてあるだけのシンプルな部屋。
「どこにある!?」
「ごめんなさい。そこまではわからないの。他の部屋は探したから、ここにしかないと思う」
「……面倒だな、これは」
ヌゥを相手取りながら、部屋の隅々まで探すのは難しい。
本の中や隙間に隠されていたら、五分そこらでは見つけ出せない。
一瞬の逡巡のうちに、ニヤリと笑みをこぼした。
ヌゥの足払いを跳んで回避し、転がりながら部屋をでたレオは、指を鳴らした。
「何を――っ、なるほど。部屋ごと燃やすのは、いい案」
「だろ? 探す手間が省ける」
一瞬にして炎に包まれた書斎。本や棚が燃えくずれ、火の勢いが強くなっていく。
通路にて、ヌゥと相対したレオ。黒い煙が部屋から充満し、契約書が焼けるのは時間の問題だった。
「ん。じゃあ、あとは――」
「ヌゥの契約が切れるまで、適当にあしらってやる」
ほぼ同時に動き始めた二人。
近接戦闘においては、向こうに分がある。そもそも、レオとは戦いの土俵がちがう。
ダンジョンの魔物相手に、やらないよりマシという感覚で鍛錬をした程度のレオでは、動きについていけても攻撃にまで手は出せない。
で、あるならば――
「近づけさせないよう、一定の距離を保ちながら魔法を撃つ」
「そう考えてると思ったから、ヌゥは武器を用意した」
「なっ」
ゴシック調のスカートの内側から抜き出したのは、鋭く尖ったピック。五指に挟んだそのちいさなピックを払うように投擲したヌゥに、レオは思わず笑った。
「――殺す気満々じゃないか、ヌゥ!」
「だって、嬉しそうだから」
細長いそれらは、一度離れると目で追いにくいうえに、狭い通路である以上、回避は不可能。ならばと炎を体にまとわせ、ピックを正面から受け止める。
「それ、暑くないの?」
「慣れてるからな」
炎を鞭状へと変えて、ヌゥへしならせる。軽々とステップを踏み、躱して距離を詰めてくる白髪の少女へ、網目状に造形した炎を走らせる。
通路目一杯をつかっての炎網に、ヌゥは目尻を下げた。
「それはひどい」
「喋ってる暇があれば躱せよ、ヌゥ。キミならできる」
「何を根拠に――」
と笑って、逆立ちの要領で手を床につけたヌゥは、しなやかな腕の柔軟だけで勢いをつけ、天井を足蹴した。
「そういう方法があるのか。部屋に逃げるという選択肢だけかと――」
「――もらった」
レオの頭上が割れる。天井を横に突き破って落ちてきたヌゥの踵落としが、レオの顔面中心を捉えていた。
避ける刹那もない。
これは面食らったと、微笑んだレオの脳天にかかとが――
「あぅッ!?」
突如、ヌゥのすぐそばで爆発が起きた。
威力はほぼないに等しい爆発だが、ヌゥの肢体を吹き飛ばすには十分だった。
「間合の範囲であれば、まばたきするよりも簡単に爆破できる。威力調整もおてのものだろ?」
「……強い」
「そうか? これぐらい、あの人なら息を吸うようにできるぞ」
「誰のことか知らないけど、たとえはほぼおなじだと思う」
「俺なんてまだまだだよ。ヌゥのおかげで課題が見えたしな、近接戦闘もやっていて楽しかった」
とはいっても、防戦一方だったけど。そう付け足して笑うレオに、ヌゥは唇をすぼめた。
「……ヌゥの動きについてこられえるの、兄者しかいなかったのに……」
「ん? なんかいったか?」
「ううん。それよりも、もう契約は切れたみたい」
「そうか。じゃあ、エヴァの助太刀に行くか。――ああ、それと、ヌゥ」
「なに?」
「今度、暇なときにでも動き方を教えてくれないか? ヌゥの体捌きとか型はすごい勉強になった。想像もつかないほど努力したってことがありありと伝わったよ。正直俺の天敵だとおもう。今まで出会ったなかでダントツに近接は強いな。嫌じゃなかったら教えて欲しいんだけど、たとえば脚技を主体にしてたろ? 軸足の――」
地上へと向かいながら、先の戦闘の解説やら教えて欲しい箇所やらをまくし立てるレオに、ヌゥは苦笑した。
「勉強熱心。探究心が強いのかな。だから、そんなに強いんだね」
「んぅ? すまん、喋りすぎて聞いてなかった。もう一度言ってくれるか?」
「んーん。早く行こう」
「あ、ああ。そうだったな。エヴァが心配だ」
玄関ホールへと戻ってきたレオとヌゥは、首領のいる部屋まで走った。
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