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011 奴隷と魔術師

 エヴァの後を追って、走るレオ。

 通路にはいくつもの盗賊の亡骸が倒れていた。




「苦戦せず進んでいるようだが……大丈夫だろうか」




 弱かったとはいえ、元Bランク冒険者をようする組織だ。意外と名の通った盗賊団なのかもしれない。




「――! 向こうか」




 激しい戦闘音が響いてきた。音のある方向へ向かって、レオは走る速度を上げた。




「くっ――この、卑怯者ッ」


「おいおい、卑怯なのはどっちだよ。アポなしで突撃してくる方が卑怯とはいえないかい?」




 一際広い間取りの部屋から、エヴァと男の声が聞こえてきた。

 気配を抑え、壁に張り付いて中の様子をうかがう。



 部屋の中には、この盗賊団の首領らしき男とエヴァがいた。

 他にも、武装した女性が七人ほど、首領を守るようにして構えている。




「ごめんなさい、ごめんなさい……わたし、奴隷だから逆らえないの……」


「逃げて……殺したくないよ、ひとを殺したくない……っ」


「いいねえ、いいねえ地獄だねえ! 楽しくなってきたよポップだねえッ!!」


「クズめ……っ!!」


「結構。僕はキミみたいに武闘派じゃないからね。こうやって、別の側面からのアプローチで成り上がってきたんだ。キミとはまた違う、強さ――これを卑怯だ、クズだと罵られる覚えはないが、ああ……これもまた強者の特権さ」


「逃げて、お願い……私のことはいいから、お願い……殺させないでっ」


「……っ」




 話の流れからして、女性たちは剣をって戦わせられているみたいだ。命令に背けない。つまり、なんらかの契約が働いているのだろう。




「……全滅させるのは簡単だが、それは本末転倒だ。あの中にフランって子もいるかもしれないしな……」




 このままではジリ貧だ。そのうち、女性同士を殺し合わせ、やめさせて欲しくば武器を捨てろ、なんてこともあり得るかもしれない。




「そんな考えに至ったら最悪だ。ということは、それがタイムリミットか。一体どうすれば……」


「――一つだけある」


「!?」




 すぐ隣から囁かれた声に体を硬直させた。思わず声が出そうになるも、声の主が手のひらで口を遮った。




「落ち着いて。ヌゥもここに囚われてるひとり」


「……!」


「落ち着いた?」




 レオが頷くと、メイド服姿の少女は手を離した。

 自らをヌゥと自称したその少女は、あまり見慣れない白髪に褐色の肌を持っていた。



 噂に聞くダークエルフと相似した少女だが、大きな特徴である耳はとんがってはいない。




「キミは、無事なのか?」


「隙を見てかくれてた。でも声をかけられれば、どこにいても命令を実行しなくちゃいけなくなるから、気をつけて」


「……わかった。それで、方法があるってキミはいってたけど?」


「これ、何かわかる?」


「……首輪?」


「そう。これを嵌められると、権限を持つ人間に逆らえなくなる」


「なるほど。じゃあ、これを壊せばいいのか?」




 どうやって壊そうかと思案するレオ。

 彼は炎系統の魔法しか扱えないから、自ずと炎で焼き切るしか方法は出てこないが、下手すると火傷をおってしまう。



 加えて緻密ちみつな作業になるだろう。戦闘時やとおくの首輪をねらって壊すなど、たぐいまれなる空間把握能力を持つレオとて難しい。



 そこまで考えて、他に方法はないと悟ったレオは覚悟を固めた。しかし、ヌゥは首を振った。




「壊せば嵌められた者も死ぬ」


「なに?」


「逆に、権限を持つ人間――アギトが死ねば、首輪を嵌められたものも死ぬ」


「……そんなこと」




 どうすれば、助けられるというのだろうか。




「一つだけ、解除する方法がある」


「なんだ、それは?」


「それは、契約書を破棄すること。つまり、破ったり燃やしたりすれば……」


「全員、助かるのか?」


「うん」


「よし、ならそれを探そう。ありがとうな、ヌゥ。キミはもうしばらくの間、隠れててくれ」




 白髪のやわらかな頭を撫でる。「むぅ……」と目を細めたヌゥが、抑揚のない口調でいった。




「最後に一つだけ。契約書は地下にある小部屋の――」




 その時だった。




「そういえば、おまえの他に侵入者がいたな。イガレシアがいる以上、大丈夫だとは思うが……保険はかけておくべきか。――権限者たるアギトが命じる。この場にいない我が妻たちよ、侵入者を見つけ次第、殺せ」


「――ッ!!?」


「ごめんなさい」




 アギトの命令が発令されたその刹那――素人とはおもえない蹴りがレオを襲った。

 



「なんだ、すぐ近くにいたのか。よいよい、ヌゥ。そのままなぶり殺せ――……すぐ近く? イガレシアは、なにを……?」


「レオッ!?」


「大丈夫だ。しかし、驚いたな。素人じゃ、ないだだろ今の蹴りは」




 間髪入れず防御が間に合ったが、まともに喰らっていたらどうなっていたことかと考えて、レオは笑みを浮かべた。知らず知らずのうちにつりあがる口角。それを見て、ヌゥは首をかしげた。



 壁を突き破って大部屋に入ってしまったレオに気取られて、エヴァに隙ができた。

 そこを逃すまいと、女性たちが畳みかけた。




「――っ、ごめんなさい、ちょっと痛いかもしれないわ」


「きゃっ!?」


「あぁっ!?」




 三叉槍の一振りをもって攻撃を止め、牽制を加えながら女性の武器だけを狙って槍を突き出す。しかし、身を挺して他の女性が入り込んでくる。三叉槍の動きが、止まる。




「ほんっとに、やりづらいッ」


「すまない、エヴァ。もう少しだけ待っててくれ」


「どういうこと?」


「五分以内になんとかする――!」




 それだけを言い残して、レオは壁に向かって炎を撃ち込んだ。

 爆ぜる壁。その向こう側へとレオが走る。





「おもしろかった!」



「続きが気になる!」



「早く読みたい!」



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