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010  斧双と魔術師

「き、気持ちは……わかる。わかるが、もう少し冷静になってくれ」


「冷静よ、これでもっ!!」


「ど、どこがだよ……」




 三叉槍さんさそうが大きく横薙ぎにはらわれ、五人の盗賊がいっぺんに吹き飛んだ。

 壁にめり込む盗賊たち。しかしとどまることを知らず盗賊はあふれてくる。

 



「ひゃッああああッ!!」


「てめえの血は赤色かァ!?」


「この屋敷に入った時点でてめえらはもう、死んでるんだよッ!!」




 天井、小部屋、シャンデリアの上――至るところから攻撃を仕掛けてくる盗賊たちの攻撃を、炎で防ぐ。



 おかえしに九つの火球をそれぞれの方向にはなち、間合に入ってきた盗賊には足元から焼いていく。




「屋内だと派手にかませないのが、な。外だったら一瞬で片付くんだが」




 ここにはまだ人質がいる。レオの意思で火を消すことはできるが、まかり間違って火事になり、焼いてしまったら大問題だ。




「――エヴァ。ここは任せてもらおうか。先に行って人質を」


「わかったわ。任せたレ――……ぉ……ぅぅっ」


「………」




 目があった瞬間、頬を染めて視線をそらしたエヴァ。その反応に、レオも気恥ずかしくなってくる。




「もらったぜバーローッ!! くたばれッ!!」


「――ああもう、邪魔よ邪魔すんじゃないわよこのッ!!」




 照れを払拭するように、三叉槍がうねりをあげる。

 盗賊を穿うがち、突き刺さったまま三叉倉を振りまわして、敵を一切寄せ付けてない。




「ずっと思ってたが、凄まじい膂力りょりょくだ。あんな細いのに……いったいどこにあんな力が蓄えられているんだ?」




 鍛えられている体つきとはいえ、ごついわけではない。しなやかな筋肉で美しい体型だ。戦う女性の理想型だといってもいい。

 しかし、だからこそ不自然さが目立つ。

 魔力で強化している気配も、ない。

 



「まあ、考えたって仕方ないか。俺は、俺のことを考えてればいい」


「へい、なにブツブツくっちゃぶってんだい兄ちゃん」




 外からも増援が駆けつけたようで、玄関ホールにはざっと三十人ほどの盗賊が居合わせていた。




「さすがに全員に火球をぶつけるのは効率がわるい。とはいえ、あまり派手にやると屋敷に燃え移る。それは極力避けたいところだが……」


「だーかーら、なにブツブツいってんだイカれちまってんのか?」


「二人で乗り込んでる時点でイカれちまってんだろ、こいつ」


「ちげえねえ……あン? 兄ちゃん、冒険者か?」


「ああ。そうだが?」


「そのタグ見せてみろ。――青色? カカカ、青色つったらCランクの雑魚じゃあねえかッ!!」


「Cランク?! ぷっはははははは、まじか! まじでイカれてやがる!!」




 言われたとおりタグをみせたレオを、笑い飛ばす大柄の男。伝播でんぱして、周囲の盗賊も嘲笑を滲ませた。



 既視感が、脳裏をかすめる。




「俺は元Bランクの冒険者だ。よく聞けよ、俺は六年でBまで成り上がった。そっから盗賊のほうが楽しいことに気づいてやめちまったが、客観的にいっても天才の類だ。【双斧そうふたるイガレシア】――聞いたことはあるかい、兄ちゃん」


「……三年前だ。俺が冒険者になった頃に、数々のオファーを捨てて引退した冒険者がいた」




 当時、王国ではその話で盛り上がっていた。確実にSは行くであろう素質を持ち、前途有望ぜんとゆうぼうだと推しあげられていたのにも関わらず、引退。




「まさか、盗賊になっていたとはな。ここで出会えたのを、光栄と呼ぶべきか、悲観するべきか……」


「絶望しろよ。おまえの冒険者人生は、ここで終わりだ」




 嘲笑ちょうしょうあざけり。嗤笑ししょう――。

 この場にいる全員が、レオをみて笑い、指差して罵っている。



 脳裏に浮かび上がるのは、あの日の光景だった。

 ノイトラに追放された、あの時の記憶がよみがえる。




「はらわたが煮えたぎるとは、こういうことなのかもしれない」


「ああ?」


「あんたは強かったんだよな? 優秀だったんだよな? Sランクの資質を持ってるんだよな? なら――」


「お、おい――おまえ、なんだ……それ、は……」




 漆黒の炎がレオの周囲を飛び交う。まるでまとわりつくように、侍るように渦を巻く。




「――おまえを倒せば、俺は強いってことの証明だよな? なあ?」


「こッ――の、イカれ野郎が勝てると思ってんのかこの数で――この俺にッ!?」


「だから、それを試すんだろ。なにビビってんだよ、【双斧そうふたるイガレシア】」


「――ッ」




 手をかざす。

 イメージしろ。

 この建物を燃やすことなく、この場の全員を捕らえ焼くイメージを。




「ぶっ殺せッ!! なにがなんでもぶっ殺せぇぇッ!!」




 イガレシアの号令に、盗賊たちが一斉に飛びかかった。

 しかし――遅い。

 イメージは完成した。あとはもう、解き放つだけだ。




「――【這い寄る炎縛之鞭(タフムーラス)】――」




 名とともに放出された膨大な質量の黒炎が、津波のように盗賊へ押し寄せる。波はいくえもの触手状に収束され、またたく間に盗賊たちを絡めとった。


 

 触れた部分から骨肉こつにくを溶かされていき、十秒も経たず消え失せる。それは元Bランク冒険者【双斧そうふたるイガレシア】も同様で、




「あ、あぁぁぁ、と――溶ける、体がぁぁぁ、溶けるぅぅぅッ!!?」


「おまえごときがSランクを――あのお方を語るな。分を弁えろよ盗賊」


「やめッ、やめてくれぇぇッ!!」


「さようなら。【双斧そうふたるイガレシア】――」




 レオが背を向けるのと同時に、巨体が消え去った。

 阿鼻叫喚、地獄絵図となっていたのはほんの数秒だけ。

 レオが玄関ホールから去った時には、ひとの気配すらそこにはなかった。





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