表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/74

001 追放の魔術師①

「——レオ。おまえさ……火力弱くね?」


「……え?」


「正直ずっと思っていたことなんだが……その火力じゃあ、いてもいなくても変わらないんだよ」



 その突き放した声色と嘲笑まじりの物言いに、レオは表情を強張らせた。それにつづいて、ほかの者達もあざけるように口許をゆがめる。

 



「ていうか、はじめっから期待していなかったし? んま、焚火程度には使えるんじゃね?」


「ぷふっ。いやいらないっしょ、焚火要員。つーかスイマいれば存在価値なし」


「おなじ炎系統だしね。かぶってるから、よけいに存在価値をみいだせないわ。残念だけど——ていうか、普通気を遣って辞めないかしら?」


「かぁー、辛辣なお言葉あざーっす!」




 口々にはなたれる暴言の数々に、レオは黙って下唇を噛み締めることしかできなかった。なぜならそれは、他の誰よりも自覚していたことだから。

 

 レオが所属するBランク冒険者パーティ【ノイトラ】に入ったのは二年前。

 かつては拮抗していた実力も、今ではもう天と地ほどに引き離されてしまった。

 それは、冒険者ランクとしても如実に表れていた。




「俺らはBランクだってのに、おまえだけまだCだしよ。使える魔法も炎系統しかないうえにあの火力じゃあ、なあ? 将来性低いぜ」


「さっきのオークだって、ぷふっ。火傷程度しかダメージ与えられてないし。もうあれだね、冒険者やめたほうがいいんじゃない? 才能ないよ、おまえ。マッチじゃんあんなの」


「前々から言おうとおもってたんだけど、成長性のないヤツがいてもまわりの迷惑になるだけだしパーティを危険におとしめるだけだと思うのよね。だからさ、もう――」




 やめてくれ。その先を、言わないでくれ。

 レオの心の声をキッパリと切り捨てるかのように、スイマが言葉を継いだ。




「――用無しだこの無能。ノイトラに、おまえは必要ない」


「ぁ――っ」




 とうとう耐えきれなくなって、レオは両膝をついた。涙があふれてきた。

 そんな彼を、四人のパーティメンバーが嘲笑う。



 何も言えなかった。いや、言えるような立場にない。



 双剣を腰に差した青年メルツが言ったとおり、レオには炎系統以外の才能が恐ろしいほどに無い。

 だから必然と炎系統の魔法をきわめようと努力してきたが、どうしても火力が伸びない。改善策も見つからない。

 


 だから、考えなかったといえば嘘になる。

 治癒魔術師のセナが言った、周囲を危険におとしめるかもしれない可能性を。


 

 だが、それでも心のどこかで。

 こんな落ちこぼれの自分でも、彼らは見放さないし助けてくれると――




「その装備も、ポーションも、実質俺らのもんだよな?」


「俺らが倒した魔物の素材を売って得た代物だからなー。おまえ、なんも活躍してないじゃん」


「それ、寄越せよ」




 ――しかし、現実は非情だった。




「ま、まってくれ――なにをッ!?」


「るっせえな、黙ってろよクズが」


「ぐぁッ!?」



 

 殴られ、蹴り飛ばされ、荷物を奪われ、剥奪された。



 誰も手を差し伸べてはくれない。

 ただ、嘲笑を浮かべるだけで――誰も。




「はぁぁぁッ、ストレス解消になったわあ。ずっと溜まってたからなあ、スッキリしたぜ」


「ほんっと、空気読めない愚図よねー」


「ぷふっ、ラッキー。コイツ、こんなに硬貨ディラ貯め込んでたのかよ」


「おいゴウゾウ、それ分けろよ?」


「ちょっと、私にも何か貢ぎなさいよっ」


「が、はっ」



 

 セナのブーツが肺に突き刺さり、空気を吐き出しながら地面をのたうちまわる。




 ——みんな……俺のこと、そんな風に思っていたのか……!




 装備を、ポーションを、ディラを奪われたことよりも、何よりも。 

 ここしばらくの間、ずっとそういう風におもわれていたことが何よりも辛くて、悲しくて痛くて、気持ち悪くなってその場に吐いた。




「おい。なんか言ったらどうだよ。言われっぱしは悔しくないのか?」


「……ぉ、俺、は……どうすれば、いい……?」




 ようやく絞り出した言葉は、己を罵倒し暴力を加えた者たちへの、すがりつくような声だった。




「はぁ? んなの知るかよアホかおまえ。――いつもそうだよ、おまえはいつも他人任せ、自分でやり遂げようとしない。だから火力が弱いまま、のこのこと俺たちについてきてんだろ」


「そ、そんなことは……」


「ないって? ほんとうに? 言い切れんのかよ、そのていたらくで」


「っ……!」


「ソロでオークも狩れねえザコが俺のパーティにいるだけで風評被害だろうよ」




 スイマの冷たい棘のある弁舌に、涙が溢れて止まらない。

 もう、彼らの顔を直視することはできなかった。




「ということで、ここでもうお別れだ。さようなら、魔物に食い殺されねえようにきばれよ――火力弱者マッチくん」


「え……ちょ、ちょっと……まってくれ、俺を……ここに残していくのか!?」


「あたりまえだろ、一緒にいたら仲間だと思われんだろうが」


「そ、そんな――俺が死んだら、ギルドにはどう説明する気だ!?」


「はン、あせりすぎて饒舌になったなレオ。さっきまでの小物っぷりが嘘みてえだ」


「大丈夫、安心して。依頼を受けるまえに私が除籍届出しといたから……安心して死んで?」


「な――!?」


「ぷふっ、みんなひっどぉ! さっきまで仲間だったのによぉ。ぷふっ」


「筆跡真似て書いたのあんたでしょ。提案したのものあんた」


「バラすなよセナぁ。おもしろくねえじゃんか」


「ここでバラさないで、いつバラすのよゴウゾウ」


「ぷふっ、たしかに!」




 迷宮内に男女の笑い声が響く。それに引き寄せられて、茂みの奥からガサガサと魔物が姿をあらわした。




「ブラック・ハウンドが三体か。ふン、ザコが」


「!?」




 スイマに飛びかかった三体のブラック・ハウンド。しかし、次の瞬間に放たれた火炎が容赦なく三体の魔物を飲み込んだ。加えて、その射線状にいたレオにも炎が伸びる。



 ギリギリで躱すことに成功したレオだが、かろうじて残されていたローブに火が燃え移り、あわててそれを放り捨てた。



 

「ぁ……ぁ……」




 そのローブは、冒険者になるにあたって親代わりの人からもらった大切なものだった。三年間、愛用し大事にしてきたローブが、あっさりと焼け落ちていく……。




「あーあ、残念でした。恨むなら射線状にいたテメエをうらめよー」


「じゃあねー、マッチくん」


「ぷふっ、マッチくん……ぷふっ」


「二度と俺のまえに顔をさらすなよ、ザコマッチが。――いくぞ」


「……ッ」




 その拒絶を最後に、ノイトラは消えていった。残されたレオは、泣くことすらできぬまま、あわてて立ち上がる。

 炎と肉が焼ける匂いにさそわれて、あらたに魔物が襲ってくるかもしれないからだ。事実、周囲から魔物の遠吠えが伝播した。




「ち、くしょう……ちくしょうッ!!」




 ノイトラが消えていった方向とは逆に向けて、走り出す。

 背後で茂みが揺れた。

 全身をはしる恐怖と痛み、忸怩じくじたる思いに押し潰されそうになりながら、レオは歯を食いしばって、走った。

 

「おもしろかった!」



「続きが気になる!」



「早く読みたい!」



と思ったら



下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!



面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!



新作更新しました! こちらもぜひご一読いただければ幸いです!!


『追放された俺、気がつくとマフィアの首領になっていた件。〜望んだ結果を引き寄せる超絶スキルの覚醒〜』

https://ncode.syosetu.com/n1033gw/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分で行う復讐ってさやられた以上のことをすることだよね。殺されかけたのなら相手を殺し奪われたのなら全てを奪う。殺さず奪わずただ勝つだけって復讐なら凄い安い復讐だよね。
2021/02/17 16:03 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ