001 追放の魔術師①
「——レオ。おまえさ……火力弱くね?」
「……え?」
「正直ずっと思っていたことなんだが……その火力じゃあ、いてもいなくても変わらないんだよ」
その突き放した声色と嘲笑まじりの物言いに、レオは表情を強張らせた。それにつづいて、ほかの者達もあざけるように口許をゆがめる。
「ていうか、はじめっから期待していなかったし? んま、焚火程度には使えるんじゃね?」
「ぷふっ。いやいらないっしょ、焚火要員。つーかスイマいれば存在価値なし」
「おなじ炎系統だしね。かぶってるから、よけいに存在価値をみいだせないわ。残念だけど——ていうか、普通気を遣って辞めないかしら?」
「かぁー、辛辣なお言葉あざーっす!」
口々にはなたれる暴言の数々に、レオは黙って下唇を噛み締めることしかできなかった。なぜならそれは、他の誰よりも自覚していたことだから。
レオが所属するBランク冒険者パーティ【ノイトラ】に入ったのは二年前。
かつては拮抗していた実力も、今ではもう天と地ほどに引き離されてしまった。
それは、冒険者ランクとしても如実に表れていた。
「俺らはBランクだってのに、おまえだけまだCだしよ。使える魔法も炎系統しかないうえにあの火力じゃあ、なあ? 将来性低いぜ」
「さっきのオークだって、ぷふっ。火傷程度しかダメージ与えられてないし。もうあれだね、冒険者やめたほうがいいんじゃない? 才能ないよ、おまえ。マッチじゃんあんなの」
「前々から言おうとおもってたんだけど、成長性のないヤツがいてもまわりの迷惑になるだけだしパーティを危険におとしめるだけだと思うのよね。だからさ、もう――」
やめてくれ。その先を、言わないでくれ。
レオの心の声をキッパリと切り捨てるかのように、スイマが言葉を継いだ。
「――用無しだこの無能。ノイトラに、おまえは必要ない」
「ぁ――っ」
とうとう耐えきれなくなって、レオは両膝をついた。涙があふれてきた。
そんな彼を、四人のパーティメンバーが嘲笑う。
何も言えなかった。いや、言えるような立場にない。
双剣を腰に差した青年メルツが言ったとおり、レオには炎系統以外の才能が恐ろしいほどに無い。
だから必然と炎系統の魔法をきわめようと努力してきたが、どうしても火力が伸びない。改善策も見つからない。
だから、考えなかったといえば嘘になる。
治癒魔術師のセナが言った、周囲を危険におとしめるかもしれない可能性を。
だが、それでも心のどこかで。
こんな落ちこぼれの自分でも、彼らは見放さないし助けてくれると――
「その装備も、ポーションも、実質俺らのもんだよな?」
「俺らが倒した魔物の素材を売って得た代物だからなー。おまえ、なんも活躍してないじゃん」
「それ、寄越せよ」
――しかし、現実は非情だった。
「ま、まってくれ――なにをッ!?」
「るっせえな、黙ってろよクズが」
「ぐぁッ!?」
殴られ、蹴り飛ばされ、荷物を奪われ、剥奪された。
誰も手を差し伸べてはくれない。
ただ、嘲笑を浮かべるだけで――誰も。
「はぁぁぁッ、ストレス解消になったわあ。ずっと溜まってたからなあ、スッキリしたぜ」
「ほんっと、空気読めない愚図よねー」
「ぷふっ、ラッキー。コイツ、こんなに硬貨貯め込んでたのかよ」
「おいゴウゾウ、それ分けろよ?」
「ちょっと、私にも何か貢ぎなさいよっ」
「が、はっ」
セナのブーツが肺に突き刺さり、空気を吐き出しながら地面をのたうちまわる。
——みんな……俺のこと、そんな風に思っていたのか……!
装備を、ポーションを、ディラを奪われたことよりも、何よりも。
ここしばらくの間、ずっとそういう風におもわれていたことが何よりも辛くて、悲しくて痛くて、気持ち悪くなってその場に吐いた。
「おい。なんか言ったらどうだよ。言われっぱしは悔しくないのか?」
「……ぉ、俺、は……どうすれば、いい……?」
ようやく絞り出した言葉は、己を罵倒し暴力を加えた者たちへの、すがりつくような声だった。
「はぁ? んなの知るかよアホかおまえ。――いつもそうだよ、おまえはいつも他人任せ、自分でやり遂げようとしない。だから火力が弱いまま、のこのこと俺たちについてきてんだろ」
「そ、そんなことは……」
「ないって? ほんとうに? 言い切れんのかよ、そのていたらくで」
「っ……!」
「ソロでオークも狩れねえザコが俺のパーティにいるだけで風評被害だろうよ」
スイマの冷たい棘のある弁舌に、涙が溢れて止まらない。
もう、彼らの顔を直視することはできなかった。
「ということで、ここでもうお別れだ。さようなら、魔物に食い殺されねえようにきばれよ――火力弱者くん」
「え……ちょ、ちょっと……まってくれ、俺を……ここに残していくのか!?」
「あたりまえだろ、一緒にいたら仲間だと思われんだろうが」
「そ、そんな――俺が死んだら、ギルドにはどう説明する気だ!?」
「はン、あせりすぎて饒舌になったなレオ。さっきまでの小物っぷりが嘘みてえだ」
「大丈夫、安心して。依頼を受けるまえに私が除籍届出しといたから……安心して死んで?」
「な――!?」
「ぷふっ、みんなひっどぉ! さっきまで仲間だったのによぉ。ぷふっ」
「筆跡真似て書いたのあんたでしょ。提案したのものあんた」
「バラすなよセナぁ。おもしろくねえじゃんか」
「ここでバラさないで、いつバラすのよゴウゾウ」
「ぷふっ、たしかに!」
迷宮内に男女の笑い声が響く。それに引き寄せられて、茂みの奥からガサガサと魔物が姿をあらわした。
「ブラック・ハウンドが三体か。ふン、ザコが」
「!?」
スイマに飛びかかった三体のブラック・ハウンド。しかし、次の瞬間に放たれた火炎が容赦なく三体の魔物を飲み込んだ。加えて、その射線状にいたレオにも炎が伸びる。
ギリギリで躱すことに成功したレオだが、かろうじて残されていたローブに火が燃え移り、あわててそれを放り捨てた。
「ぁ……ぁ……」
そのローブは、冒険者になるにあたって親代わりの人からもらった大切なものだった。三年間、愛用し大事にしてきたローブが、あっさりと焼け落ちていく……。
「あーあ、残念でした。恨むなら射線状にいたテメエをうらめよー」
「じゃあねー、マッチくん」
「ぷふっ、マッチくん……ぷふっ」
「二度と俺のまえに顔をさらすなよ、ザコマッチが。――いくぞ」
「……ッ」
その拒絶を最後に、ノイトラは消えていった。残されたレオは、泣くことすらできぬまま、あわてて立ち上がる。
炎と肉が焼ける匂いにさそわれて、あらたに魔物が襲ってくるかもしれないからだ。事実、周囲から魔物の遠吠えが伝播した。
「ち、くしょう……ちくしょうッ!!」
ノイトラが消えていった方向とは逆に向けて、走り出す。
背後で茂みが揺れた。
全身をはしる恐怖と痛み、忸怩たる思いに押し潰されそうになりながら、レオは歯を食いしばって、走った。
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