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勇者復活への道

「お父さん、まおーって悪い奴なの?」


とある家庭での女の子が聞いてきた。


「そうだぞ~。悪いことしていると、魔王が来て拐っていっちゃうからな。だから、いい子にしているんだぞ」


父親は、娘の頭を撫でながら優しく諭した。


「でもさ、でもさ。まおーがさっき、おばあさんの手を引いて横断歩道渡っていたよ?私にも、こないだお菓子くれたし。」

「......」


どうやら、この世界の魔王は、父親の教育には味方をしてくれないようだった。




「であるから、もう少し魔王として周りから畏怖の対象に見られたいのだ、私は」


そう切実に訴えるのは魔王であるガルディーン・ゼクス・バンドルフ(通称ガルちゃん)だ。魔王として、勇者にも勝利(?)し、魔王城に君臨している。


「なにか言ったかしら。それより、そこの洗濯物を取り込んでくれない?あと、庭からトマトを収穫してきて。」

「あ、はい。」


魔王妃の言葉に、魔王は背筋を伸ばして即答し、洗濯を取

り込みに向かった。


「まったく、あなたはその優しさが魅力なのに。本当、なんで魔王なんてものにならなきゃいけなかったのかしら。」


魔王の姿を微笑ましそうに眺めながら、魔王妃イザベラは呟いた。

魔王城は今日も平和である。

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・




所変わって、とあるアパートの一室。かつて、勇者と呼ばれた男が一人でいた。魔王に負けてから女たちも去り、ひとり籠もりきりであった。そして、その当てのない思いを魔王に当てようと思ったときもあった。しかし、それ以上に彼には緊迫した問題があったのだ。今まで蓄えていたお金がなくなってきているのだ。


「おれがこんな生活になるのも、あのにくき魔王が卑怯にも女性を盾にしてきたからいけないのだ。」


まさか自分が女に負けたと認められない勇者は魔王が卑怯な手を使ったと思い込もうとしていた。

「よし、一つ魔王城に行って魔王に文句を言いに行こう。」

こうして、勇者(元)による魔王城攻略が始まったのであった。


「ですから、魔王討伐のために補助金を出してください。」

直談判する勇者(元)に向かい、市長は悲しい顔をしながら言った。

「今、魔王からの被害は皆無である。何の瑕疵もない状態の魔王とわざわざ争うことはしたくない。」

「市長、建前はともかく本音は?」

「こないだ、魔王がふるさと納税で1000万円寄付してくれたのでな。来年もまた期待したいのだ。」

「こんの、だめ市長が~」


まさか、行政まで魔王に買収されているとは、、、勇者(元)は魔王の所業に戦慄を覚え、無力な自分に愕然としながら家路に就くのであった。そんな彼に一人の女性が近づいてきた。


「勇くん、どうしたの?一緒に帰ろう?」

「おおぅ!!いきなりびっくりさせるな。それに近づくな。女なんかに近づかれるだけで、鳥肌が立つ。」


近づいた幼馴染を邪険に扱いながら、勇者がてくてくと進む。


「もう、ちょっと待ってよ。勇くん、待って。」

「香織、だいたいお前の家は反対側だろう。こっち来んな。」

「前まで一緒に住んでいたじゃない。余計なのもいっぱいいたけど。」

「おれはもう、女は嫌なんだ。近づきたくもない。」


そう言うと、勇者(元)は香織をおいて、逃げるように帰っていった。


「もう、勇くんはもっとしっかりした男だったのに、どうしたらいいのかしら。」


香織はひとり思案し、名案が浮かんだかのように、ニコッと笑った。




「というわけで、わたしをしばらく魔王城で匿ってほしいのよ。」

イザベラに向かって、ニコニコしながら香織が言った。

「魔王攻略とかしてほしいわけじゃないの。ただ、勇くんが少しだけ前みたいに自身を持てるようになってほしいだけなのよ。」

「なるほどねぇ。その責任の一端は私やガルちゃんもあるからねぇ。」


イザベラは悩んでいるような雰囲気を出しながら、紅茶を一口含んだ。ここは魔王城の一室。かつて、勇者と魔王が幾度となく激戦を繰り広げた舞台であるが、今は、魔王妃イザベラによって静かな日々を過ごしていた。


「それで、具体的にどういう作戦にするの?あ、ガルちゃん、お茶のおかわりお願いできる?」


イザベラは空になったティーカップを魔王に差し出しながら言った。


「えっとね。まずは魔王様の名前でわたしを拐ったと手紙を出してもらって、で、勇くんが怒って助けに来てくれるって感じ。あ、わたしもおかわりお願いしていいかな?」

「なんのひねりもない作戦ね。でも、そういう作戦のほうが成功しやすいかしら。そうなると、勇者以外には迷惑をかけないように、あちこち根回しをしないとね。ところで、ガルちゃん、まだおかわりできないのかしら?」

「おい」

「それなら、警察の方は任せて!この誘拐は演技だから心配しなくてもいいって言ってくるから。あ、わたし、喉乾いてきちゃったから、おかわり急ぎでほしいな」

「おい!」

「なあに、鬱陶しい。早くおかわりちょうだいな。それで、香織ちゃん、いつそれを実行しましょうか?」

「ちょっと待て!」

「来週末がちょうど仕事4連休になるから、そこでどうかな?」

「いいわよ。そうしましょう!」

「だから、ちょっと待て!俺を無視するな!」


魔王がおかわりの紅茶をテーブルに置きながら、二人の会話に割って入った。


「なぜ、俺の承諾なしに話をすすめるのだ。というか、わざわざ勇者のためにそんなことしなくてもいいじゃないか。」

「ガルちゃん。あなた、さっきから何なの?せっかく、香織ちゃんが私を頼ってきてくれたのだから、答えるのが仁義ってものでしょう?それにあなた最近、平和になったからってダラダラ過ごしてお腹が出てきたじゃない、少しは身体動かさないとだめよ。」

「誰がいつも家事やらなんやらやっていると思っているんだ!」

「はいはい、後でかまってあげるから、ちょっとあっち行ってて。」

「おまえ、ホントひどいやつだな。」


かくして、勇者の自信取り戻し作戦が始まったのだった。


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