ラーメンを食べながら(ユズル)
「へえー、龍姫のツノ? ああ、これはほんものだねえ。不思議だねえ、こんなにきれいな龍姫のツノ、はじめて見たよ。しかも左右揃っているのかい」
その里には素材買取所というものがあった。この世界には動物外生物というのが存在しているらしく、通常動物外の生物の素材は比較的貴重で、ここで買い取って何らかのかたちで再生され、出回るらしい。
「お兄さん、これどこで手に入れたの? すごいねえ」
えらく感心している。ご飯代くらいにはなるかな、くらいに思っていただけだったので、なんの言い訳も考えていない。
「いや、ちょっとツテがありまして……」
「そうかい、まあ、いろいろ事情があるんだろうね。構わないよ、ちょっと待っててくれるかな?」と言って、買取所のオヤジはカウンターから引っ込んでしまった。
住所も名前も必要ないのか? しかし、そういうものが必要だと困るのは俺だ。なにも言われないならそれに越したことはない。
オヤジは俺に紙袋に入った現金で756万8750円を渡した。円だ。間違いなくJPYである。透かしも入っている。小銭もまったく同じ。それなりの大金だ。そんな金がこんな店にあったこと自体も驚きである。襲われないのか?
これはまあ俺の無意識が生み出した夢なんだから、まあお金といえば円で、言葉といえば日本語、そういうことなのか。あるいは、ここはパラレルワールドの日本なのか? そう考えることもできる。しかし、そうだとしたら俺はもとの世界に帰ることができるのだろうか。もう何時間もここにいるような気がするが、まあ夢の中の時間感覚なんてあてにならない。そういうものなのだろうか。
俺たち(俺とラヴィー)はラーメン(のようなもの)を食べている。名前は「醤打麺」、値段は800円。
ツノを売って得た現金はラヴィーに渡そうとしたが、リーダーは俺だから、俺が全部持っていて、と言われて、俺が持つことになった。リーダーとは何なのか、よく分からないが。まあ、とりあえず合議でまずは何か食べよう、ということになった。
けっこうおいしい。醤油味だ。
ゆで卵(だと思う)の切ったものが添えてあり、麺はやや太めで、噛みごたえと食べやすさが両立し、汁の絡み方も抜群だ。
「ヤバッ! おいしっ、これ! てか、何? これ?」
「おいしいですね、たしかに。僕たちはラーメンと呼んでましたけど……」
「てか、ユズルさんってどっから来たんですかー?」
「それですよね、俺もそれがずっと気になってたんですけどね。この世界が夢だ夢だと思ってたんですけど、なんかラーメンの味とかすごくリアルだし……」
「夢?」
「そうです。当直室で寝てたら急に地震が起きたみたいな感じで、タイルみたいな模様の壁に囲まれて、気づいたらあの森の中で目覚めて……」
「あー、マジすかー……」
「ん? なんか心あたりあります?」
「ちょっと、逃げるときに使ったあたしの『神隠し』が異次元に繋がった感じがあったのよねー。もう超急いでたから! あの時。なりふり構わずおとうさんとあたしをいっぺんに『神隠し』って感じで。その時、ちょっとあれ? これって繋がっちゃってない? って感じで。だいたいあたしの『神隠し』の中の模様ってタイル的な壁に囲まれてるんでー」
「ということは、ラヴィーとお父さんが逃げる時に出来た異次元の隙間に俺が入っちゃったかもしれない、と? それなら夢じゃないのかもしれませんね……」
「そういうことかも! ガチでそうなら、マジでやばい!!あはは」ラヴィーがレンゲを俺に向けてケラケラ笑っている。