姫に名付け(ユズル)
夢からは覚める気配がないが、まあ夢なら夢でこの世界を楽しんでみよう。ここのところ仕事ばっかりだったしな。しかし夢の中でまで仕事(?)をすることになるとは……
「あの、君には名前はあるのですか?」と俺はBに聞いた。いつまでもBというわけにもいかないだろう。
「あ、ないない!あたし20歳になると名前がもらえる予定だったの。あとちょっとだったのにー!」
「そっか」
「そう! だから、ユズルさんの好きに呼んで!!」
俺は考えた。どうせ頭の中ではBと呼んでいるのだ。B子でいいだろうか。ダメか。さすがに、こんな美人の龍の?神の?姫?にB子は無い。
うーん、ならばビーではなくヴィーならどうだろう。Vie、フランス語で生命を意味する。ついでに冠詞もつけてラヴィーならかなり女の子っぽい。少なくともB子よりはいいだろう。
「それじゃあ、ラヴィーでどうでしょうか? それとも日本名のほうがいいですか?」と俺は言った。
彼女は何度かラヴィー、ラヴィー、と繰り返してにっこりと笑った。「サイコー」
俺はなぜか恥ずかしくなって目を伏せた。
俺とラヴィーは叢を抜けて、すぐに集落のようなところにたどり着いた。
俺はとにかくお腹が空いていた。
眠りにつく前、俺は少なくとも20時間以上は何も食べていない状態だった。その時は食欲よりも1分でも早く眠りたかったのだ。
「レストランみたいなものはありますかね?」
「あるある、てか、お金ないけど……」
ああそうか。俺はスクラブと白衣のままだ。財布がない。お金がない。お金はJPY(日本円)だろうか?
「そっか、お金がないと何も食べれませんよね」
「それそれ。あー、でもお腹すいたんだけどなあ……」
ラヴィーは頬に指を当てて考えている。指が長くて、爪も長い。爪自体はきれいなオレンジ色でひとつひとつに小さな宝石のようなものが光っている。まるでネイルアートのようだが、おそらく天然の龍の爪なのだろう。龍の姫なんだから爪が特殊でも驚くことではない。しゃべり方もこれだし、虹彩はきれいに彩られているし、ほんとにギャルに見える。
「あ! あたし、ひとつだけ人間のお金に換えられるかもってもの持ってる!」と言って、ラヴィーは俺の手を握る。手の温かい感触に俺はドキッとして、後ずさりしてしまった。
「え? なに?」